想い、清らかに〈後編〉
後編スタートです。
イサドラさん、頑張れ!
コツコツと、扉をノックする音にイサドラの瞳がきらりと、潤む。そして、そわそわと、落ち着かないその仕草に、アルマは即、こう、言った。
「青い鳥が来たのだな?私達に気にせず、早く招き入れるのだ」
「アルマさんたら、何て事を……」
イサドラは頬を朱に染めて腰を上げる。壁に架かる鏡に顔を映し、髪を手串で整えると、廊下を踏み締めていく。
──いらっしゃい。今日はお客様がいますけど、どうぞ、上がられてください。
──ほうっ!それは、興味津々だ。私も是非、お相手させて貰おう。
イサドラの弾む声に微笑む一方、男と思われるしゃがれた声に、アルマは目蓋を痙攣させ、バースは顎を突き出していった。
「何で聞き覚えがある声がするのだよ?」
「酔いがまだ醒めてないのだな?残りを飲み干すのだ」
「あれは、とてつもなく苦いっ!アルマ、俺が耳掃除をしてやるから、今一度聴いてみろ」
「おまえの除去作業は、鼓膜を貫通させるかと言うくらい、激痛を伴うから、断る。真冬の気候だったら、其処へ放り込むぞ」
「二度ゴメンだよ。あの白さは、懲り懲りしてる」
「純白なイサドラの青い鳥……。他人の空似と、願おう」
──失礼、来客の方々。私の名は、サンデ=クロニ=ロース。普段は北の果てにあるフィン国の警護を勤めている。
「能弁なところも、まさに、奴そのものだ」
「此方から訊く手間が省けたと、解釈しとけ。アルマ」
「早速、打ち解けられたご様子ですね?」と、イサドラは新たにティーセットをトレイに乗せて、応接間に入室する。
「いや、けして、そうでは───」
ひーひーと、悲鳴を圧し殺すバース。その隣では、テーブルの下で踵を押し込むアルマが、苦笑いを湛えていた。
「紹介が遅れた……。私はアルマ、こっちは、ルーク=バース。旅の途中で、この馬鹿の為に、イサドラの世話になっている」
「ほう、双方はハネムーンの最中ですな?何て、仲睦まじい!」
「違うっ!タッカ……ではなくて、サンデ殿。同行者があと二人いる上に、そ、そ……それに──」
アルマは言葉を詰まらせ、うつむき、膝の上で指先を絡ませていく。
「つい最近、婚約した。て、べろっと何で言わないのだよ?」
「おまえは……少しは場をわきまえろ……。バース」
「益々、興味深い!その道程を、訊ねたいものだ」
「そうですわね?此まで、どんな地方を訪れたのか、お話しをされてください」
「イサドラ、私は、二人の出逢い迄の経緯の意味だったのだが?」
サンデは微笑して、イサドラと目を合わせる。
「アルマ、俺、用事を思い出した」
「私もだ。バース」
どっこいしょ、と、双方は腰を上げると、焦りを含ませて……退室した。
「あら、まあ……どうしましょう。此れでは、お二人を追い出したみたいで、心苦しいですわ」
「この土産にも、客人達は気遣いしたのだ」
「……本日で、何本目になるのかしら?」
「125だよ。俺の国では、願いを叶える数として、縁起を担いでいる」
「こんなに沢山の花。さぞかし、摘むのが大変だったでしょう?」
「この時期にしか咲かない。逃すまいと、民家の庭も潜り込んだ」
「サンデ?」と、イサドラは困惑した面持ちを剥ける。
「虚言だ。さて、本題に入らせて貰う」
イサドラは、黄色に咲き誇る、白い綿帽子を含ませる花束を、サンデより受け取る。そして、耳元で囁かれる言葉にほうっと、吐息をして、瞳を潤ませると……こう、言った。
──喜んで、お受け致します。
サンデも満面の笑みでイサドラを包み込み、愛おしいく、その長い髪を指先に絡めていく。
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「静かになった。何が起きたのか判るか?タクト」
「僕、子供だから、知らないよ。ロトくん」
「あ、あいつらどさくさに紛れて、何て事をおっ始めやがる!」
「みっともないから、よすのだっ!バース」
家屋の軒下で身体を低くさせ、赤面するロトと、鼻を懸命に両手で塞ぐタクト。中の様子を覗くバースの耳朶を引っ張るアルマ。
「〈創造〉とするには、残念だよな?」
「イサドラの〈憧憬〉だ。心の奥で、その思念も刻ませていたのだろう……ロト」
「さすがですね、アルマさん。女性ならではの思考と、僕は、思います」
「口先は、タッカだな?タクト」
「嫌です!あんな人と一緒にしないでください。バースさん」
ロト、この二人を見て、何か感じ取る事はあるか?
いきなり、何を訊くのですか?アルマさん。
今回ばかりは踏み込ませて貰う。迷いは、時には己を追い詰める武器になってしまうと、付け加える。
「ひたすら、前を見る。タクトは、バースから其れを学んでいると、察しました」
ロトはそう、言って空を仰いでいく。
「その扉が見えてますよ。行きましょう!」
「また、タクトの出番だな?」
一行が頷くと同時に、風景はふわりと、白い綿帽子によって埋め尽くされる。
タクトが握り締める黄色の鍵、辿り着いた扉の鍵穴に差し込まれ、弾け飛ぶ光の粒を、ロト達は潜り抜けていった。
タッカだ、サンデて、誰?
でも、イサドラさんに幸せを届ける事が出来て、めでたしと、許してくださ~い。
次話も宜しくお願いします。




