想い、清らかに〈前編〉
イサドラさん、登場です。
女性らしさを表現するように、心掛けました。
それでは、始り始り~♪
遠くを見れば、山脈。緑深い森林の狭間を、陽の光を受け止め穏やかに流れる川。空に羽ばたき囀ずる鳥と、草原を駆け抜ける野性動物の群れ。
ロトの目蓋、静かに閉じられ、目の前に拡がる大自然の音に、耳を澄ませる。
「どうした?」と、言う声に振り向くと、吹く風に髪を靡かせるアルマが見つめていた。
「いえ……。この景色も【団体】が創造したものと、考えたら虚しくなってしまって」
「話せる範囲でうち明かしてみるのだ」
「俺にとっては、思い出の場所です」
そうか……。
他に、訊くことは?
ロト、私は、必要以上に踏み込む質ではない。
「珍しい方ですね?」と、ロトは笑みを湛える。
「言葉に、辛さを含ませていると、感じた」
アルマの右の掌が、ロトの前髪をかき揚げる。
「何を……されるのですか?」
ロトの息は熱く吹かれ、頬も朱に染まる。
「綿付きの植物の種子を取り除いているだけだ」
ぷかり、ぷかり。
白の綿帽子、そよ風に乗り、遥か彼方に去っていく。
★○★○★○★○★○★○
「バースさん、その野草は毒がありますよ」
「そんなことはないっ!」
タクトの忠告を無視して、バースは土手に生える草を引抜き、その葉っぱを口に含む。
にゃんりゃあとぉお~っ?ひょっと、そりは、うんにゃくんにゃ……。
「確かに、毒だ」
千鳥足のバースを避けながら、ロトは呆れた形相をして、言う。
「僕、小さい頃、この草笛でひどい目に会ったから」
「大人にとっては、薬になる。その、副作用が泥酔状態。命は失わないが、次の日は最悪だろう」
あるま~ぁあ、抱っこ。
近づくなっ!酔っ払い。
「アルマさん。僕、限界です」
バースに寄り掛かれ、タクトはその反動で川に落とされ、全身をずぶ濡れにさせていた。
「……仕方ない。バースの酔い醒ましと、タクトの服を何処かで乾かす事にしよう」
アルマはバースに回し蹴りをしながら、溜息を吹かせる。
──良かったら、皆さん、私の家でお休みしてください。
柔らかな声に一行は振り向いていくが、ただ一人、ロトの形相は険しさを含ませていた。
「イサドラ!?いや、騙されないぞ。そう、誘い込み、俺達を始末するつもりだろうっ!」
「何のことかよく、判りませんけど其処のお方は〈サケモドキ草〉を加熱せずに食べた中毒症状ですよ?急いで、介抱させないと、大変な思いをされるのは、あなた達です」
──ロト。取り敢えず、今はこの女性を信じるのだ。
──はっくしょんっ!ロトくん、そう、しよう。
「……二人に感謝するのだっ!」
ロトは渋渋と、女性──イサドラの招きに賛同して、アルマ達と其処へと案内されていった。
★○★○★○★○★○★○
「うげぇ……」
「口に合わないでしょうけど、とてもよく効くお薬です」
バースは、イサドラより差し出される、濃厚な緑色の液体を口に含み、形相をくしゃりと、させていく。
「まあ、そちらのお召し物も、ぴったりとして、よく、似合ってますね」
「ありがとうございます。着心地も、何となく軽く感じます」
「タクト、借り物の服を汚さないように、振る舞うのだ」
「お気遣いしなくても結構ですよ」
「ロト、おまえも腰を下ろすのだ」
顔面蒼白のバースの伸ばす腕を払いのけ、窓際に佇むロトに声をかけるアルマ。
「アルマさんはこの、イサドラを知らない。実の妹を──」
「言い掛けて何を引っ込めさせる?」
いえ、やっぱり、何でもありません……。
ロトはうつむき、そのまま外に出ていく。
「失礼した。どうも、気難しいところがあって、この私でも気を揉むものだ」
「ロトさんですよね?其処の、タクトさんくらいの年齢にみられる」
「僕、ロトくん程、皆を困らせてはいませんけど?」
「人の話に突っ込むな!」
アルマはこつりと、タクトの頭部に拳を落とす。
「まるで、親子か年の離れた兄弟ですね」と、イサドラは笑みを湛える。
「イサドラさん、僕の母さんは、アルマさんよりは──」
タクト、その続きを言いたければ、私も容赦無しだっ!
「ロトくん、探しに行ってきまーす」
タクトはアルマの振り上げる腕を避けて、その場を後にしていった。
「段段と、何処かの誰かを彷彿させてきてるっ!」
「俺、何もしてないぞ」
「お薬が効いたのですね?沢山ありますから、どんどん、召し上がってください」
イサドラより振る舞われた、テーブルを埋め尽くす料理を、バースは千手観音の如く、手掴みして、舌に乗せる。
「イサドラ、世話になっててすまないが、訊きたい事がある」
「なんなりと、お申し付けてください」
イサドラは、アルマに紅茶を淹れて、そのカップを差し出すと、正面の一人掛けの椅子に腰を下ろしていく。
「おまえは、ロトと何かあったのか?」
「全くもって、見覚えがありません。況してや、お顔を合わせるなんて、今日が初めてなのです」
「やはり、か……」
アルマはカップの中を空にさせ、目蓋を閉じて、大きく溜息を吹かせる。
バース……。
ああ、さっきのカラバッジオと、同じだ。
「どうなさいましたか?」
「いや、イサドラ。そなたから、邪気など全く感じないから。むしろ、幸福に充ちてる……。無理な問い掛けをしてしまった事を詫びる」
「幸せだなんて。アルマさん、何て事を仰るのです?」
「違うのか?」
アルマは眼差しを柔らかくさせ、頬を両手で挟むイサドラを見つめる。
「アルマさんも、今、私と同じ。そう、お訊ねして宜しいでしょうか?」
「そなたとは、気が合いそうだ。つかの間だが、友好を深めたい」
此方こそ、是非、お願いします。
アルマとイサドラは、お互いの掌を硬く握り締め、笑みを湛え合っていった。
★○★○★○★○★○★○
ロトとタクトは、小高い丘の山頂に腰を下ろしていた。
「“創造の力”それが、この世界を呼び寄せた?」
「本来なら流れることがない“時”まで引き込む。それが【団体】の計画だ」
「ロトくんは、其れを食い止めようしていた……」
「防げなかった」
ロトはそう、呟くと、唇を噛み締めて、空を流れる雲を目で追い始める。
「その、目的は何かは解ってるの?」
「〈空想〉を〈現実〉に変える。此れまでの〈時〉を掻き消す為にだ」
「そんなの、ただの逃避だよ」
「タクト、随分と冴えた言葉を使うのだな?」
「【団体】の内部で何かが起きた。誰かがその思想を、膨らませた……。僕の臆測だけどね」
「〈創造〉に其れを実行させた何者かがいる」
「ロトくんも知っている人かな?」
「例えそうだとしても、対峙は避けられない」
「それは、僕も同じたよ」
ロトとタクトは目を合わせ、頷くと、ある方向に視線をそらしていく。
「一応、あの人を追ってみようか?」
「何処から見ても、着雑多らしいのが気になるが、そいつが向かってる先が、あの家だからな」
「僕、知ってるよ。でも、この世界だから、別人の可能性はある」
「決まりだな?」
「ああ。抱える花束でカムフラージュしていたら、大変だよ」
行くぞ、タクト。
キミの“瞬間移動”を頼む。
「俺の腕にしっかり掴まっとくのだ」
ロトはタクトの掌の感触を確認すると、瞬時に身体を空中に浮かばせて、光の粒を撒き散らし、空間に溶けるように消えていく。
一話では収まらず、後編に続きます。
イサドラさんの家に向かってるのは誰?
何が待ち受けているのでしょうか……。と、鈴藤もドキドキしてます。




