第五十四話 行くぞ!男二人の本気計画 後編
第五十四話 行くぞ!男二人の本気計画 後編
山川が夕食に用意してきたのは、おでんだった。当然、自信の作だ。
コンロで温めた鍋を机に移動させる。
「さぁ、今日の予定の最後をシメるのはこれです。この前の優乃ちゃんの鍋が美味しかったから、対抗するならと考えたおでんです。で、おでんの中でも特に人気の高い定番『大根』。これを是非味わって下さい。柔らかさと味のしみ具合。いろいろ手間をかけているんですが、一度六時間ぐらい冷凍してから出汁でー」
「はいはい。みんなコップまわったわね。安も山川もお疲れさま。そして元ネタ企画の優乃ちゃんにカンパーイ」
「えー、優乃ちゃんだけかよ」という男二人の声は、「かんぱーい」の声にかき消された。
「ま、いいか」と安と山川は笑い合う。
早速、おでんに箸が伸びる。
七人には狭い机なので、安と山川、そして久の男三人は立ち食いだ。
「コンニャクって何かやらしいのよね」
まだ一杯と飲んでないのに、矢守のいつものが始まった。
「や、矢守さんっ」
久が恥ずかしそうに矢守から顔をそむける。
「ちょっ、ちょっと久くん。そういう反応やめて。私がヤラしいこと言ってるみたいじゃない」
「言ってますよ」
ボソリと優乃が答えた。
「優乃ちゃんまで」
矢守は小さく口をとがらせて続けた。
「だいたい不思議じゃない。こんなのが地面に埋まってるって」
冬美がうんうんと頷いたが、他の五人は「えぇっ!?」と驚いた。
「アホかー」
「や、矢守さん」
と山川と久が同時に声を上げた。
「コンニャクはイモです」
と、優乃がまっとうな答えを言う。
「えっ、そうなの?」
矢守と冬美はキョトンとした。
「だって、この黒いの砂じゃないの?」
冬美がポカンとして聞いた。
「それはヒジキだ。いいかコンニャクはこんにゃく芋から作られていて、かの斬鉄剣でも…」
大根のウンチクを止められたせいか、山川は声を大にして語りだした。
仕方なく聞く冬美に対し、周りは聞こえないフリだ。
「矢守さん。ぼくがお取りします。何にしましょう」
矢守の器が空になったのを、久が目ざとく見つけて、手を差し出した。
その親切に矢守が「安さん、助けてー」と手を伸ばしたが、安は冷たくあしらった。
「こっちが殺されるよ」
狭い車内でいろんな声が飛び交う。
山川の話にすぐ飽きた冬美が、矢守とは反対に山川を使う。
「山川さん、話はもういいから、大根とコンニャク以外で美味しいの取って下さい」
「不味いのないよ。何でもいい?」
「いやです」
「何なんだ、冬美ちゃん」
優乃はさっきから全種類制覇に向けて、ガツガツと食べている。
「山川さん、この出汁美味しいですね。さすがです。今度作り方教えてください。作ってみたいです」
山川が得意気に頷く。
「山川さん、ここもっと広くならないの?」
横から冬美が、割り込んだ。
「なる訳ないだろ」
山川が言い返す。
「だって後ろに立って食べられていると、すごく気になるんですけど」
確かに気になるだろうが、だからと言ってどうすることも出来ないのは分かる筈だ。
山川が答えに困っていると、安が助けに入ってくれた。
「いいよ、ちょっと暑いと思っていたんだ。少し外に出てるよ。山もどうだ?」
安の助け舟に、山川もついて行くことにしたた。
外はさすがに寒かったがその分、盛りつけたおでんの暖かさと美味しさが身にしみた。
「山、冬美ちゃんと何かあったのか?」
安がおでんの汁をすすりながら聞いた。
「いえ、何もないんですけど」
「そうか。何かいつもと雰囲気が違う気がしてな」
山川はチラリと横目で安を見た。
安は山川を見るでもなく、美味しそうに山川自慢の大根を食べている。
安に探る気は、なさそうだった。むしろ心配してくれているようだ。
「そうですね」
山川は答えるともなく言った。
「何もないっていうか、何もないのが今なんですけどね。それでいいんですけど」
「そうか」
「こんがらがっていたものを、ほどいたって言うんですかね」
安は黙って頷くだけだ。
「何か、彼氏も出来たらしいんで、うまくいくといいんですけど」
山川は安と同じように大根を食べながら、妙に味が染みているなと思った。
「何か、サラリーマンみたいですね。屋台でおでん食べてる」
山川は、ぱっと笑顔で言った。
「そう言われればそうだな。美味いよ、このおでん」
目の前に屋台があれば、まさにそんなシチュエーションだ。
安は「うまくいかないのが、世の中だよ」と言って笑った。
安と山川が車に戻ると、用意していなかったプリンを食べてみんなが和んでいた。
「あ、安さんに山川さん。すみません。皆さんがデザート食べたいって言うんで、僕が持ってきたプリンを食べてもらいました。矢守さん用に4ツしか持ってきてなかったんで…すみません」
久は二度頭を下げた。
久が矢守に持ってきたものだ。久の好きにすればいい。
安は「気にする事ないよ。久くんにそんなものまで出させて、こっちこそ悪かったね」と謝り、ありがとうとお礼を言った。
「そうだ。次はクリスマス会しましょう」
安と山川が戻ってきた所で、優乃は身を乗り出した。
雪は「そうね」と言った後で、「でもクリスマス会で、おでんはやめてね」と返した。
矢守が後に続く。
「優乃ちゃんケーキとか作れる?ケーキ囲んでクリスマスナイトプレゼント交換会ってどう?」
「いいですね、矢守さん」
賛成するのはもちろん久だ。
「ナイトといえば騎士。ご下命あらば、いつでも駆けつけお守りします」
そんな久に安がけしかける。
「矢守がフラれた時は、頼むぞ」
「はいっ。いつでも慰めに行きますよっ!」
冗談のように言う久だが、矢守と目が合うと慌てて目線をそらす。
そんな久に雪が聞いた。
「ねぇ、駆けつけるのもいいけど、もうすぐ卒業でしょ。来年の進路はどうするの?」
もちろん久だけの話ではない。優乃や冬美の話でもある。
話は、すっと変わった。
久は、特撮スタジオに行きたいが、なかなかそんな所はないので、手当たりしだいにそれらしい所を受けると言った。
優乃は声の仕事がしたいので、プロダクションのオーディションを。
冬美は学校推薦のカウンターレディを受けようか迷っている、と。
安たちにも優乃たちの気持ちが分かった。その年も過ぎてきたのだ。希望も迷いもあるだろう。そんなことも経験して今があるのだ。決める事は捨てる事だ。優乃たちも何となく感じているに違いない。そして、自分たちも、もうすぐ決めねばならない。
「なんかしんみりしちゃったな」
山川は、殊更に明るく言った。
「さて、もうこんな時間だし、お開きにするか」
すると優乃が伺うように聞いた。
「山川さん、車返すの明日ですか?」
「あぁ、明日だけど」
山川の答えに優乃は喜んだ。
「じゃぁ、今日ここで寝ていいですか?」
「あ、私もー」と、ありがとう冬美も嬉しそうに山川にお願いをした。
「う、うーん」と山川は予定外のことに腕を組んだ。
そこまでしていいかは、聞いていない。
「それじゃあ、みんなここで寝るか」
少し考えて山川は言った。
折角の機会でもあるし、元々キャンピングカーだ。移動と食事だけで返してしまうのはもったいない。
反対する理由も、誰からも出てこない。
各自いそいそと自分の部屋から毛布や布団を持ってきて、まるで修学旅行のような長い夜がまた始まった。
「ねぇ、天井って開かないの?」
「開かないよ」
冬美の問いに、山川は素っ気なく答えた。
「プラネタリウムみたいに、ここから寝ながら見られたらいいのなー」
「面白かったよねー」
冬美のつぶやきに、優乃が相槌を打つ。
それに応えるように、矢守が山川に言った。
「山川、天井開けなさいよ。わがまま聞く会でしょ」
「こら、無茶言うな。もう閉店だ」
安がピシャリ言った。
だが、優乃はくるりと頭をひねって提案した。
「それじゃ、この前みたいに、屋根に上りません?」
「外は、寒いよ」
山川が心配する。
「だって本当の星も見たいじゃないですか」
優乃は諦めない。
すると安が、「そうだな」と軽く頷きながら
「それなら山、すまんが屋根、頼めるか?久くんも一緒に頼むよ、ナイト役をね」
「はい!」
ナイトと言われて断れるわけがない。久は喜んで立ち上がった。
「こっちはこの前のホットウイスキーを用意しておくよ。みんな凍える前に戻っておいでよ」
「はーい」
寒いから嫌だなと言いつつも、雪も優乃に続いて車を出て行った。科学館は思った以上に楽しかったようだ。
安の耳に、みんなの会話が聞こえるような気がした。
「うわー、今日、月きれいですね」
「あっ、あの星、プラネタリウムで見たやつだー」
翌日、山川が車を返しに行った夜。
で愛の荘に戻ると、安が「ちょっといいか」と呼びに来た。
「山、雪が今回のことで、何かねぎらってくれるらしい」
珍しいなと、二人で雪の部屋に入ると雪と矢守が二人を待っていた。
「山川と安、今回はお疲れさま。特に山川は、車ありがとね。お陰で楽しかったわ」
雪に続いて矢守もお礼を言った。
「これ食べて」
と出してきたのはプリンだった。
「久君が持ってきたものと同じやつ。二人食べられなかったでしょ。今、噂のプリンよ」
二人分だけでなく、もちろん自分たちの分もある。二人がプレーンプリンなのに対し、自分たちはトッピングやら色が違っている。
それが食べたかったから、こっちをダシに使ったな。
安は小さく笑った。
「ありがたくいただくよ。まぁ、それにしても男の本気なんてあんなものだ。やっぱりみんなの協力がないと上手く行かんよ。な、雪」
安が含みを持って言うと、雪が「ごめーん」と謝ってきた。
「グソクムシがいたから夢中になっちゃって。本当は昼過ぎに科学館出る予定だったんでしょ」
「あれ、安さん。雪先生と打ち合わせしてたんですか?」
「そりゃ、な。山には黙っててすまんかったが、あんまり計画的すぎるのがバレても何だなと思って」
「そうでしたか。でも予定通りだったら銭湯で向かいの山の紅葉が見れた筈でしたからね」
「旅行なんてそんなものだ。予定通りに行かないのがまた楽しいよ」
「予定外って言えば、久君が来たのもそうだったわね」
雪が矢守を見た。
「もう久くんの話はヤメて。あんまりにも優しくされるからジンマシンが出ちゃう」
矢守が腕を掻くフリをした。
「だいたい久くん、私と二人の時は真っ直ぐ私見るのに、みんながいると目、合わせてこないのよ。しかも目が合うとすっごく恥ずかしそうにするし。もうこっちが恥ずかしいっての」
怒っているようだが、頬が赤い。
「へー、そうなんだ」
隣で雪がニヤニヤすると、その意味に気付いて、矢守は顔を伏せて手をあてた。
「やだー。雪先生、やめてー」
こんな矢守は珍しい。打ち上げのいい肴だ。
「何か可愛いな矢守」
「久くん、矢守の毒抜いてるな」
「恵ちゃんが安、追いかけるのと同じなんだけど、印象違うわよね」
「それは本気度の違いかもしれませんよ」
一体何が久のツボに入ったのか。真っ直ぐな久に対し曲がっている矢守。
「ナイトは、お嫌いか?」
と、山川が聞くと矢守は困った顔をした。
「久くん、ナイトというより下僕…ごめん、召使?…犬みたいで、こっちの言うこと何でも聞いてくれるから扱いに困っちやう」
「なる程、下僕とは確かにひどい扱いだ」
「ごめんって言ったでしょ」
「要するに、苦手なんだな」
そうしてひとしきり騒いだ後、安が真顔で言った。
「久くんが帰る前に聞いたんだよ。優乃ちゃんはもういいのかいって」
「そしたら?」
「そしたら、『優乃ちゃんは憧れでした。好きになるってやっと分かった気がするんです。相手をもっと知りたくて近くにいたい。会えたらいいなではなく、会いたい。気持ちより先に体が動くんです』って。あの久くんが全部自分の言葉でしゃべったんだよ。今までなら『フラレンジャーもこう言ってます』とか言うはずなのにね。驚いたよ。矢守、本気で惚れられているぞ」
矢守は唇を噛んで顔をそむけた。恥ずかしさが見え隠れしている。
そんな反応が、またおかしくて仕方がない。
「あの子、結構粘り強いじゃない。イケメンだし、好みじゃないの?」
雪が突き放すように言うと矢守はきっと向き直った。
「だから断れないんじゃない。もったいないでしょ」
「手、出したか?」
山川が心配する。
「出さないわよ。知り合いとか本気の子には手、出さない主義なの」
「本気の子にはって、だからお前いつもフラれてるんじゃないのか?」
安が大丈夫か?と心配する。
「後で本気になる予定なのよっ」
おかしな答えだが、矢守は必死だ。
「だけど久くん、どっちのお前も好きそうだぞ。勧めるつもりはないが、手出しててもいいんじゃないか。本気になるのを前提にだが」
山川が軽く背中を押す。
「んー、天使と堕天使的な…?一本これでいけるかも」
雪はまた仕事モードだ。
「だめだめ。久くん子供だもん。絶対初めてでしょ。泣かせちゃうわ」
「それは男のセリフだろうがー」
安と山川が突っ込むと、雪がまた優しく助言した。
「まずは腕を組む所からね」
「えーっ。やだ、恥ずかしいっ」
また天使に戻って、矢守はもじもじと体をくねらせた。
これにはさすがに三人が突っ込んだ。
「お前の付き合い方は、一体どうなってるんだ」
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「冬美、しおらしくて別人みたい」
「そう。私からのプレゼント」
「私、ここ出て行くんです」
「まっ、待てっ」
「四人に手を出してるの?」
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次回第五十五話 クリスマスのパーティー 前編
矢守がギリシャ美人に?




