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第五十三話 行くぞ!男二人の本気計画 前編

第五十三話 行くぞ!男二人の本気計画 前編



 星はまたたきを消していた。夜の名残に金星だけが一つとどまっている。

 空は見事なグラデーションを見せながら、白白しらじらと明けていく。

 昇る朝日に照らされ、朝露をまとった草木と、で愛の荘が銀色に輝く。

 朝もやと共につかの間の銀色の衣も消えた頃、で愛の荘の庭に大きな一風変わった車が入ってきた。


 ファ、ファーン


 あまり聞かないクラクション音がするとそれを合図のように、で愛の荘からバラバラと人影が出てきた。


 「おはよー」


 「あ、おはようございます」


 口々に挨拶をする中、雪が優乃の隣にいる子に声をかけた。


 「冬美ちゃんも行くんだ?朝早くから大変ね」


 「はい。安さんが連れて行ってくれるって聞いたんで」


 冬美は当然のように答えた。


 「一人二人ぐらいならいいよ、って言ったんだ」


 冬美が振り向くと、後ろには当の安がいた。


 そして「乗って」とみんなを車に促した。


 車はキャンピングカーだった。


 こんな車には乗ることなどまれだろう。挨拶もそこそこにみんな足早に乗り込む。


 「広ーい」「トイレ、ガス、水道あるじゃない」「ちょっとしたワンルームね」など、声が上がった。


 優乃、冬美、雪に矢守の女子組が後ろ、安は前の助手席だ。


 全員が車に入ると、あらためて運転手に挨拶だ。


 「よろしくー」「おはよー」「お願いします」


 それに応えるように運転手が、振り向いた。


 「おはっ、冬美…ちゃん」


 挨拶を返そうとした山川が、冬美を見て驚いたのか一瞬動きを止めた。


 「山…川さん」


 冬美も「よろしくお願いします」と、ぎこちなく頭を下げた。


 「はい、冬美ちゃん挨拶はもういいから座ってね。山川もよろしく。みんな座ったから、行っていいわ」


 雪はベッドにも変わる席に静かに腰を下ろした。


 矢守が早速「これ、すごーい」と、後ろにある二段ベッドに寝転がった。


 「今日は楽しみね。紅葉に何とかムシに人体の構造。しかも温泉、食事付き」


 「そうですよねー」


 同じく上のベッドに寝転がった優乃が、楽しそうにごろごろしながら一緒になって頷く。


 「ねぇ、こんなのどこで借りてくるの?」


 雪が運転席に向かって聞いた。


 山川は、車をゆっくりと走らせながら答えた。


 この車は、先日の流れ星の会の時に出た親戚から借りた物で、電話して聞いてみたら「いいぞ」一言だったと言う。


 「一応全部使えるようになってるから、好きに使っていいよ」


 山川の簡単な説明に一同、「やったー」「使い放だーい」など声が上がった。


 続いて安が、今日の予定を話し始めた。


 「今日は『みんなのムチャを聞いてやるぜ』の会です」


 「何よ、その名前」


 矢守が口を挟んだが、安は話を止めない。


 「この前出たみんなの希望をぎりぎりの範囲で計画しました。車にトイレもありますが、途中でトイレ休憩は取ります。そこにあるガスと冷蔵庫もOKです、と言っても使わないかな。何を使ってもいいけど、借り物なんで丁寧に使って下さい。今日一日よろしく。雪も頼んだぞ」


 「分かってるわよ」


 雪は安に向かって言うと、次に優乃に向かってお礼を言った。


 「基本、優乃ちゃん企画だから先にお礼言っておくわ。ありがと」


 「いえ、私は…」


 突然お礼を言われて優乃はとんでもない、と謙遜した。


 「で、安。紅葉に露天風呂に深海生物に人体、ちゃんと見せてくれるのよね」


 雪が念を入れてきた。


 「多分…、何とか」


 「最初はどこ?グソクムシも予定に入っているのよね?」


 「一応、な」


 「怪しいわね…。図書館だったら許さないけど。ま、男の本気、見せてもらうわ」


 助手席から身を乗り出していた安はそれに答えず、少し笑って座り直した。


 安のあいまいな答えに女子組はどこに行くのか、予想を立て始めた。


 「紅葉って言ったら京都じゃないですか?」


 「まさか、街路樹じゃないでしょうね」


 「やっぱり高原で紅葉見ながら温泉よ。あっ、渋滞かな」


 「人体って言ったらハダカだから…、ボディビル大会?」


 「男だらけの水泳大会かもよ」


 「何言ってんの。人体なんだから、公開手術よ」


 「それは、見たくないです」


 「深海生物は、水族館しかないですね」


 「発想が貧困ね。潜水艦があるじゃない」


 「…ありませんよ」


 「とにかく、全部行くのは無理じゃないですか?」


 「それを何とかするのが、今回の企画でしょ。安、山川、楽しみにしてるから」


 無茶な期待をかけられて、安も山川も苦笑いをし合った。


 「そんなのが出来れば、楽でしたね」


 「そうだな」



 初めて乗るキャンピングカーは、まるで貸し切りの小部屋で遠足気分になる。みんなで、はしゃいでいる内に車はあっという間に最初の目的場所に着いた。


 「よーし、降りるぞー」


と、安の声に全員で駐車場から歩いて、大きな建物に向かった。


 「さぁ、星も人体もグソクムシも全部見られるぞ」


 「星なんて言わなかったけど…」と言う雪の声をかき消して、優乃が走りだして


 「うわーっ、大っきい建物」


と、大きな声を出した。


 「…何ここ。科、学、館って…」


 矢守が目の前にある文字を読む。


 「確かに全部ありそうですよ」


 優乃が早速入り口からパンフを取ってきて、広げて見せた。


 「グソクムシも?」


 雪が疑いながら聞くと優乃は


 「特別展に不思議な生物大集合って。この写真オオグソクムシって書いてありますけど…」


と、答えた。


 途端に雪のテンションが上がり


 「えぇーっ。行くわよっ」


と、後も振り返らずに入り口に走って行った。


 その様子を見て山川は自慢気に笑った。


 「全員が楽しめる場所ですよ。ね、安さん」


 「ここ見つけるの苦労したな…、おい、こっち無視かよ」


 振り返ると誰もなく、入り口で冬美と優乃が「早く」と手招きしている。


 その向こうに、グソクムシオーラが全身から溢れ出している雪の背中、それについて行く矢守の姿があった。


 「幸先さいさきいい感じだな」とほくそ笑む、安と山川であった。



 まずは特別展だ。


 「お、リュウグウノツカイか。深海魚ってのは構造が面白いな」


 「何このヌタウナギって。何かヤラシー」


 「こら雪、いつまでグソクムシ見てるんだ。みんな先、行ったぞ」


 「もうちょっと…、安、先に行ってて」


 「団体行動とれよー」


 次は科学館の本館だ。みんな一緒になって一階から順に上がっていく。


 「あっ、あれ面白そう。並びましょう」


 「数列もあるんだ。この数字って受けっぽくない?」


 「月に海があるのは、月の自転が…」


 「月に海があるの?」


 「これよ!筋肉の構造。うわー、これ分かるー。僧帽筋があって、三角筋で後背筋…」


 「そろそろ次に…」


 「この香りはバラ。これは抹茶ー」


 「カレーは分かったわ」


 「プラネタリウム行きましょう」


 「何その顔。ここまで来たら当然よ」


 「次の階、行くわよー」


 「ま、待て、もう時間ー」


 「わがまま聞く会でしょ」


 安、山川は女子組に振り回され続け、みんなが科学館を出たのは夕方近くなっていた。


 「安さん、時間的にムリですよ」


 「あぁ。もうここだけでフラフラだ。紅葉は奥の手使うよ」


 「はい」


 安と山川が二人だけでボソボソ話していると、


 「安、次は温泉ね。よろしく」


 雪が満足した顔で、かせた。


 「ムチャを聞いてやるぜの会」何て言わなければ良かったと、後悔しつつ向かったのは、帰り道の途中にある田舎の銭湯だった。


 冬の夜は早い。山間やまあいの人家もまばらなそこに着いた時には、もうすっかり暗くなっていた。


 車から出て、寒さをこらえつつ駐車場を走り抜けると、銭湯の熱気がみんなをまさしく暖かく迎えてくれた。


 そこは思った以上に立派な所だった。規模こそ大きくはなかったが数種類のお風呂に、サウナ、そしてお目当ての露天風呂まであった。


 夜空を見上げながらの露天風呂もまた、心地の良いものだった。


 一同、充分に温まると、再びキャンピングカーに乗り、で愛の荘へと向かったのだった。



 「なかなかの計画だったじゃない。全部回って」


 車の中で、雪がお風呂あがりの体をリラックスさせていた。


 雪の向かいには優乃、奥の二段ベッドには上と下で矢守と冬美が寝転がっている。


 「お風呂良かったねー」


 矢守が下の冬美に話しかけている。


 「変わった所にお風呂屋さんがあるなって思ったけど、まわりに家がないから、露天風呂まであったのね。びっくりしちゃった」


 「でも、矢守さん」


と、冬美が矢守に答えた。


 「露天風呂で、仁王立ちになるのやめてくれません?」


 「いいじゃない。もう暗かったし、温まった体に空気の冷たさが気持ちいいのよ」


 「どっかから見られてるかもしれないんですよ。せめて前ぐらい隠して下さい」


 「へへへ、そうね。どこかの鬱屈うっくつした男の子が見てて、今頃妄想してるかも」


 「何考えているんですか」


 「さーねー」


 矢守と冬美の珍しいコンビがお風呂話で盛り上がっていると、真ん中では雪と優乃が科学館の話で盛り上がっていた。


 「科学館、良かったですよね。もっとショボイかと思ってたんですけど」


 「そうね、私も甘く見てたわ。まさか特別展があるなんて思っても見なかったし」


 「あのオオグソクムシ。ホントにダンゴムシが潰れたみたいでしたね」


 「キモかわいいでしょ。もう見とれちゃった」


 「いや、それほどでも…。それよりも意外と遊べるんですね。錯覚のところなんて面白かったし、水のところとか風の実験も。機械の所はさっぱりでしたが」


 「優乃ちゃん、小学生たちに混ざって並んでたもんね」


 雪は思い出して笑った。


 「冬美ちゃんって、鼻すごくいいのね。匂い当てなんて私、全然分からなかった」


 矢守が冬美に言った。


 「カレーは分かったじゃないですか。そう言う矢守さんは、数列のフィナ何とかの所でブツブツ言ってましたよね」


 冬美が聞いた。


 「あぁ、あれ。えーとフィボナッチ数列でしょ。前の二つの数字を足すと次の数になるってやつ。あれね、前の数字が誘い受けで次の数字が攻めかなって。あぁ言うのって、妄想働くの。あれ、私だけ?」


 「そう言われれば私も働くけどね。足していくって所がポイントだわ」


 雪が一言言いながら頷く。


 「やだー、想像しちゃう」


 冬美も優乃も参戦だ。


 一方、その会話が聞こえてくる運転席では山川が、やめてくれとため息を吐いた。


 「前、鉛筆と消しゴムどっちが受けだと思う?何て会話を聞いたことがあるんです。何のことか分からなかったんですが、後で意味が分かって女ってそんなことまで考えるのかってカルチャーショックでしたよ」


 「男の想像力は女に比べたら大したことないって話を聞いたことがあるが、そうだな。鉛筆と消しゴムでも理解不可能なのに、数列の話で盛り上がってるんだぞ。異星人だよ」


 安はその話から逃げるように、すっかり暗くなった窓に顔を向けた。


 山川も同じ気分のようだ。


 後ろでは「ABCだと、AとBが付き合っててCが入る三角関係だよね」「Bってツンデレじゃない?」と次の話に移っている。


 「聞き流すのがいいですよね」


 安は無言で頷いた。



「ねー、お腹すいた」


 「そういえば紅葉まだだったじゃない。危うくダマされるところだったわ」


 男二人にはよく分からない話が一段落ついた所で、冬美と矢守があらたなる問題を出してきた。


 「ダマされるって何だよ」と安が振り向き、奥に置いてある紙袋を取ってくれるように優乃に頼んだ。


 「その中に、食べられる紅葉が入っているから、それで許してくれ」


 安は紙袋に入っていた箱を開けるように言った。


 「あら、もみじ饅頭じゃない。考えたわね」


 雪が優乃から受け取った箱を開けると、矢守も冬美もベッドを降りてテーブルに集まってきた。


 お腹が空いてきた時に、出てきたまんじゅうだ。みんな喜んで食べる。


 「いただきます」「美味しー」と言う声の中、優乃が安と山川に一つずつ手渡してくれた。


 それを食べながら山川が、助手席の安に言った。


 「奥の手用意していて、良かったですね」


 「あぁ。で愛の荘に帰ってからと思っていたんだが、結果オーライだな」


 山川は頷くと語り出した。


 「実はもみじ饅頭には「し」に点々と、「ち」に点々のものがあって…」



 みんなの小腹もおさまり、「後は美味しい料理ね」と話し合っていた頃、突然電話が鳴った。


 矢守の電話だった。


 雪は電話に出た矢守の気まずそうな顔を見て、「何ならベッドで話したら?」と言った。


 すると矢守は「それほどの相手じゃないから」と、その場で話し始めた。


 「はい、あ…うん。今みんなで出先なの。帰るのは何時になるか分からないから」


 そんな矢守の電話を聞いていた優乃が窓の外を見て、声を上げた。


 「あれ、ここって行く時に通りませんでした?…駅前っ。矢守さん、もう着きますよ」


 言われた矢守は、口元を歪めつつ笑って答えた。


 「あ、聞こえた?いいよ、今度でも。…そう、じゃ待ってて」


 そう言うと電話を切ってノロノロと雪の隣に座った。


 雪はわざと明るい声で聞いた。


 「今の、久くんでしょ」


 矢守は作り笑顔で頷いた。


 「うん。何か渡したいものがあるから、で愛の荘で待ってるって」


 「ふーん。そういう訳で山川、急いであげて」


 安と話していた山川は「はい」と軽く返事をした。



 で愛の荘に着き、矢守が車から降りると久が嬉しそうに駆け寄ってきた。


 「矢守さん、出来ました」


 上目使いで矢守の顔を見て、小さな紙袋を渡した。


 「例のアレ?いつでも良かったのに」


 はばかるような声で答える矢守。


 「いつから待ってたの?」と聞いたが久は、はにかんだ様子で視線をそらし、


 「いえ、一番に聞いてもらおうと思いまして。…あっ、キャンピングカーなんてすごいですね、みんなで泊まりでしたか?」


と、話題を変えた。


 「ううん、違うの。今日これに乗って、科学館とか行ってきたの」


 「そうですか、でもどうしてキャンピングカー何ですか」と聞く久に、次に出てきた雪が言った。


 「山川が親戚から借りてきたんだって。ところで久くん、今から上で夕食だけど食べない?」。


 久は「いいんですか?」と喜んだ。


 安もそばに来て久を誘う。


 すると久は「それなら」と提案してきた。


 「折角のキャンピングカーですし、この中では食べられませんか?」


 後から降りてきた山川も「それ、ありだな」と賛成し、早速みんなで夕食を運び込んでいった。



★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★



次回予告



 山、何とか一日終わったな


 はい。おかげさまで

 これから自慢の鍋です


 優乃ちゃんの料理に対抗か?


 優乃ちゃん、料理上手いんですよね

 あまり褒められてない感じですけど


 確かに

 聞いた話だが、結婚するなら料理が上手い女性がいいって言うぞ

 外見に惑わされてはダメだそうだ


 そうなんですか?


 結局外見は、衰えるし飽きる

 でも料理は毎日食べるものだろ


 なる程、美味しい料理は飽きませんからね


 じゃ安は、優乃ちゃんに決まりね


 雪!それは人の好みとか相性もー



 次回第五十四話 行くぞ!男二人の本気計画 後編



 何か私のこと、褒めてました?

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