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第四十六話 お披露目会

第四十六話 お披露目会



 「壁取っちゃうなんてすごいですね」


 あれから二週間後。梅田が住んでいた部屋で鍋を囲みながら、優乃が言った。


 「本当はもっとやりたかったんだが、山がやらせてくれなくて」


 安が黄色い鍋からじゃがいもをすくって答える。


 「でもこのカレー鍋ってのは、意外といいわ。何よりビールが美味しくなるのね」


 「鍋の味を褒めろよ」


 美味しそうにビールを飲む矢守に向かって、山川が突っ込んだ。


 「夏に鍋、しかもカレーって思ったけど、このカレー味の白菜にもだんだん慣れてきたわ」


 最初は仕方なさそうに食べていた雪だったが、今は何度もおかわりをしている。


 「味をちょっと濃い目に作るのがコツなんです。野菜から出てくる水分を計算してね。隠し味には味噌と醤油、実はチョコも少し入れてあるんです。カレーっていうのはインド料理と言われているんですが、日本で本場カレー料理店って言ってるのは、だいたいネパール人がやってるんですよねー」


 また山川のうんちくが始まった。


 部屋は、東と梅田の部屋の押し入れがつながった状態になっていた。押入れのベニヤ板を取れば、もう片方の押し入れとつながるのだ。


 安と山川は暇を見つけてはそのベニヤ板と棚板を取り除いて、きれいに処理をしたのだ。柱は切らなかったので、完全に二部屋がつながったという状態ではない。壁や床も元のままで、安が言っていたようにログハウス調には、なっていなかった。


 二部屋つながった所で山川が気を回して、お披露目会をしましょう、といつものメンバーに触れて回ったのだった。


 「そこでイギリス料理なんですけど、イギリス料理に旨いものはない、と言われているんですが、イギリスのカレーは美味しいんです。それはイギリスがインドを植民地にしていた歴史があってー」


 「カレーのうんちくより、具追加して。耳よりお腹をいっぱいにしたいの」


 山川をある程度しゃべらせたところで、雪が言った。


 山川はハイハイと、それでも嬉しそうに肉や野菜を入れた。


 「ところでこの部屋ってこれからどうするんですか?」


 優乃がふと思いついたように聞いた。


 「これから、宴会場として使うつもりだけど」


 安が当たり前のように答えた。


 「そのつもりだったのかも知れないけど、電気来てないしガスも止められて水道だって出ないじゃない。今日だってこの準備の物々しさ。カセットコンロはいいとして、ペットボトルに水入れて、クーラーボックスも三つもあるじゃない。まだ昼だからいいけど、夜になったら真っ暗よ」


 雪がどうするのと聞くと、矢守がダメを押してきた。


 「真っ暗になったら、こっちのものだけどそれは置いといて。二部屋つなげても使っているのは一部屋でしょ。家具がない分ほかの所より広いし、つなげる意味なかったんじゃない?」


 元も子もない発言に、安も山川も絶句だ。


 だが山川の方には、安に比べてまだ心の余裕があった。


 「ま、ま、そう言えばそうかな。でも大人数が来た時なんかー」


 「来ないわよ。大体広くなっただけで、何も変わってないじゃない。二週間もかけてこれ?」


 雪がズバッと言うと、優乃が申し訳なさそうにボソリと付け加えた。


 「夏はいいですけど、冬は寒そうですよ。一部屋だけでも暖めるのに意外と時間かかるのに二部屋分って」


 それを聞いて矢守がしみじみと言う。


 「元から隙間風(すきまかぜ)、来るところだしねー」


 「おいおい、そんな口調で言うなよ」


 やっと復活した安が立ち上がった。


 「ここ見てくれ」


 安は元押入れだった所に行くと、廊下方向に当たるベニヤの板に手を当てた。そしていきなりくるりと板を回し、その中に消えた。


 「えっ、何?すごーい」


 優乃は目をぱちくりさせた。


 次の瞬間、ベニヤの板がまた回り、安が出てきた。


 「こうやってどんでん返しも作ったんだ」


 「それ、何の意味があるの?」


 雪が冷たく言い放つ。


 「意味なくってもすごいですよ。確かに何の役にも立ちそうにないですけど、生で初めて見ました」


 「優乃ちゃん、それフォローになってないわ」


 矢守がわざとらしく寂しそうに言う。


 「安も焼きが回ったわ」


 断定する雪。


 「安さん、そんなもの作ってたんですね」


 山川が驚き呆れつつも、感心した。そしてぽつんと立つ安を残して三人に話し始めた。


 「最初プラン立てる時に、安さんと話し合ったんです。安さんのつもりではここをログハウス調にする予定だったんですよ。そして太陽熱温水器、電気の代わりにガスランプ、水道代わりに雨水の再利用、そのための活性炭ろ過装置とか、業者に見積もり取らせるとか…」


 山川はそれを止めるのに、安が話を聞かなくてどれほど大変だったかと大きなため息をついた。


 「それはやめましょう。まずは俺たちがすぐ出来る事をやりましょうって押し入れをぶち抜いたんです。仕上げはやるからって安さんが言って、妙に時間がかかってるなと思ったら、このどんでん返しですよ」


 「ただのバカね」


 雪が冷たく言うと同時に優乃が


 「私もやらせて下さいっ」


と、元気よく立ち上がった。


 「優乃ちゃんには、分かるかい?」


 どんでん返しに賛同者が現れて、安は喜んだ。


 「でもどうしてどんでん返しなんですか?」


 そう聞く優乃に安は


 「泥棒や暴漢が入ってきた時に、素早くここに隠れてやり過ごすんだ」


と、自慢げに頷いた。


 「ありえないわね」


 雪の言葉に山川も矢守も、安とは別の意味で頷く。


 バタンバタンとどんでん返しで遊ぶ優乃を見て、何か気付いたのか安は我に返ったように「あぁ」とため息をつくと、恥ずかしそうに戻ってきて語り始めた。


 「ごめん。舞い上がってた。優乃ちゃん見て、気付いたよ。…実は家を建てるとか改造するって、僕の夢だったからさ。いざその時が来たと思ってやれること、やりたいこと何でもやってしまえと思ったんだよ。で、山がフローリング計画とかログハウス調とか、薪の暖炉とか全部止めるから、それならもう一つやってみたかった忍者屋敷の一部でも再現出来ないかと思って。どんでん返し自体は昔、忍者屋敷に行った時に構造を見たことあったから…」


 安はそこまで言うと、表情を一転させて笑った。


 「いやー、まいったまいった。一時は吊り天井とか覗き穴とか出来ないかと本気で考えたんだよ。ちょっと浮かれすぎだった。ごめん、ごめん」


 安は座ったまま軽く頭を下げた。


 「ま、覗き穴なんて」


 矢守が両手を頬に当てた。


 「ここの床に穴開けて、優乃ちゃんの部屋覗くつもりだったのね」


 「そんな事するかよ。覗き穴ってのは通路の死角になる所に作るー」


 「いいの、安さんなら直接見に来ていいのよ」


 矢守は聞く耳持たず、安に擦り寄った。


 「お前のところには行かん」


 安がさっと身をかわすと、いつもの笑いが起こった。


 「あ、ところで私、今月誕生日なんです」


 笑いが落ち着いた所で、優乃がどんでん返しから戻ってきて言った。


 すると雪も


 「私も九月」


と続いた。


 偶然ね、という雪に続いて


 「俺、十月です」


と、山川が手を上げた。


 「おめでとう。私は一月だから忘れないでね」


 そう言う矢守に、「聞こえんかった」と安が答える。


 矢守は気にするふうもなく


 「雪先生と優乃ちゃん合わせてロウソク二十五本で、山川の分合わせて五十五本?」


 「俺、何歳だよ。しかも雪先生と優乃ちゃん合わせて二十五本って計算がおかしいだろ」


 「女は二十五歳以降は年取らないの。何人合わせてもそうなんだから」


 「俺は認めん」


 「事実そうなの」


 「単なる妄想だろうが」


 山川と矢守の楽しい言い合いに、安が割って入った。


 「それにしても、五人中三人が今月来月で誕生日か。面白いな」


 安が何かやりたそうに体をうずうずさせる。すると優乃が察したのか、こうしましょうと提案した。


 「この部屋の本当の完成式典&お誕生会三人分まとめて、お好み焼き会やりましょう」


 「それいいわね」


 雪が頷いて付け加えた。


 「この部屋も折角出来たんだから、安も山川もこれ以上手、加えないでね。だから二回くらいは使ってあげる。で、その二回目にお好み焼き会。この前は安がキャベツをみじん切りにしてまともなのが食べられなかったんだから」


 「いつの話だ。もう忘れてくれ」


 「相手の都合の悪いことは、忘れない主義なの」


 雪はニコッと笑った。


 「まいるな」


 嫌そうな顔をする安を、周りがまた笑いで包んだ。


 そこにもう一人のお客がやってきた。


 「あっ、いたいた。みなさん、ここでしたか」


 月森だ。声を聞きつけてやってきたのだろうか。手にはなにか器を持っている。


 「杏仁豆腐作ったんです。みんなでどうぞ…、すごーい、カレーの鍋ですか。まだ具材ありますよね。ごちそうになります」


 そう言うと、あとは山川が担当であるかのように自分と入れ替わらせる。


 「山川さん、杏仁豆腐用に器持ってきて下さい。山川さんもみんなと一緒にどうぞ」


 ニッコリ笑顔の月森に対し、眉間にシワの山川。しかし習慣(クセ)なのか、月森の言ったとおりに部屋を出て行く。


 月森は使っていない器を見つけ、「鍋もの、そこにお願いします」と安に言う。相変わらずだ。


 「ここの部屋どうしたんですか?」


 安がいやいや盛りつけたカレー鍋を、美味しそうに食べながら月森は聞いた。


 「見ての通りよ」


 雪があっさりと答えた。


 「ここって、梅田さんと東さんが住んでいたところですよね」


 「そう。引越して行ったの」


 矢守が幾分の感慨を込めて言った。視線の先には窓から見える景色があった。


 「えっ、東さん引越したんですか」


 月森は驚いたようだった。


 「私、東さんに少しお世話になったんですよ。一言言ってくれればいいのに」


 お礼も言わせないなんて、ひどいですよねと、月森は怒りながらも残念そうだ。


 「そうか…。東さんって矢守も世話になったみたいだし、みんなに惜しまれてるんだな…」


 安がつぶやくと、月森は「そうだっ」と身を乗り出してきた。


 「東さんにこの部屋に戻ってきてもらいましょうよ。いい考えでしょ」


 「いい考えって簡単に言うけど、東さんの事情もあるし、この部屋の問題も大家の問題もいろいろー」


 「どうしてすぐ反対するの。折角私がいいアイデア出したのに。会社の子とおんなじ」


 安がムチャですよと反対すると、月森は突然いつものように怒りだした。


 「私がこうした方がいいって言うと、それは出来ないって言うし、私がみんなの意見に従うとネコかぶってるって陰口言うし、どうしてみんな私のこと嫌うんですか」


 「いや、そんな事言ってないー」


 「会社のあの人もそう。私、食事だけならって言ってるのに、まだつきまとうんです。食事でもどう?って言ったから付き合ってあげたのに、今度は旅行?バカ言わないでよ。私行きたいところは、自分で行くから。何度断っても聞かないんだから嫌になっちゃう」


 月森がまくし立てている所に、山川が帰ってきた。


 手に持った器を見つけると


 「あっ、じゃあみんなで杏仁豆腐食べて」


と、ニコニコ顔に変わる月森。


 『お前…来るな』


と、安が思った時、月森は突然発表した。


 「今度、遊園地でコスプレパーティー期間があるんです。期間中にコスプレして行くと乗り物も全部半額なんです。皆さん、コスプレして行きましょう」


 ぶふっ。


 安は飲みかけたビールを吹きそうになった。


 雪はほぼ無視。矢守はどっちつかず。山川は困惑。


 唯一ノリ気なのが優乃だった。


 「それいいですね。一緒にやりましょう」


 嬉しそうに安を誘う。


 「いや、そう言っても衣装がないしー」


と、遠回しに断ってみたが、月森は待ってましたとばかりに食いついてきた。


 「大丈夫ですよ。私、コス少しは余分に持ってるし、なくてもそれっぽかったらいいみたいなんで」


 「う、うーん。そうは言っても休みが合うかな。ハロウィンって十月三十一日だろ」


 「九月下旬から十一月上旬までやってるんです。どこかで予定ぐらい開けられますよね」


 …勝手なことを言うな。


 安はそう思ったが、やはり口には出せない。断る口実を作ろうと山川をちらりと見ると「うーん」と(うな)っている。


 山もどう断ろうか困っているのか。


 安はホッとして山川に振った。


 「山、バイトの都合もあるから、そう簡単には休めないよな」


 「いや、休みはいいんです」


 山川は安が驚くことを言った。


 「俺、コスプレやった事ないので、やってもいいんですけど、衣装がね。月森さんの女物は着られないだろうし、どうせやるならちょっと気合も入れてみたいし」


 その言葉に喜んだのは月森である。


 「あ、なら私、作り子さん知ってますから連絡しますね。山川さん男だから、ジャック・オ・ランタンでいいですか?ちょっと待ってて下さい」


 月森はすぐに携帯を取り出すと、電話をかけた。


 「あ、もしもし私。早速なんだけど、今度ジャック・オ・ランタン着たいって男の人がいるんだけど…えっ、作りかけがあるの?ありがとう。ちょっと待ってて」


 月森はそのまま山川に聞いた。


 「山川さんサイズ分かりますか?胸囲とかウエストとか。あ、男性用のMサイズでいいですよね」


 勢いに押されるように頷く山川に、月森は


 「あのね、男性用Mサイズ、丈は長めでいいって。じゃ、お願いね」


と、山川の身長を確認し、丈の長さに注文を加えて電話を切った。


 月森の行動の早さと一言付け加える気遣いに、安が


 こんな時だけ、出来る女に変わるのか?いつも後回しにしてすぐ忘れるのに


と思っていると


 「次は安さんですね。何がいいですか?」


と、月森はたたみかけてきた。


 「あ、いや、何って。まだ行けるかどうか分からないし、な、雪」


 安は何とかして断ろうと雪に助けを求めた。


 だが、雪の反応はいつもと違った。


 「あら、私は大丈夫よ。ハロウィンなんていいじゃない。ね、恵ちゃん。ほら、恵ちゃんもいいって言ってるし。月森さん、安にどんなのがあるか教えてあげて」


 なんと雪と矢守まで乗り気になっているようだ。


 月森はそれならと立ち上がった。


 「確か、去年友だちと撮った写真があるんです。参考に持ってきますね」


 そう言うと、ウキウキとした様子で部屋を出て行った。


 「おい、本気か?」


 安はため息交じりに雪に聞いた。


 「いい機会じゃない。さっさの三人の誕生会を遊園地でやるのよ。お好み会は別にやってあげるから心配しないで」


 「そうそう」


 矢守まで賛成して頷く。これで反対なのは、安一人だけだ。


 「遊園地でやるなら冬美や久くんも誘ってみましょうか」


 優乃がパッと言った。そして月森よろしくすぐに電話をかけた。


 「あ、冬美?あのさ、今度遊園地でハロウィンのコスプレやるんだけど行かない?パスポートも半額だって。いい?じゃまた後で詳しく話す。今ちょっと打ち合わせ中だから。うん。よろしく、バイバイ」


 安が口を開く間もなく、次にかける。


 「あ、久くん。今度遊園地でー」


 優乃が久に電話をかけている所で、山川が困ったように安に言った。


 「冬美ちゃん、来るんですか?」


 「そうみたいだな」


 「冬美ちゃん来るなら、どうしようかな」


 急に態度が変わった山川に、安は聞いた。


 「冬美ちゃん来るとまずいか?」


 「いや、まずいって言うか、ちょっと…ええいっ、こんな機会ないですね。思い切ります」


 冬美の参戦は、山川を止める理由にはならなかったようだった。


 安が、がっくりと肩を落とすと、優乃が電話機を切っておもいっきりVサインを出した。


 「久くんもOKです。もしかしてフルメンバーでコスプレ?うわー、盛り上がりそう」


 ハイテンションな優乃。


 だが、あっと小さく口を押さえた。


 ノリで久くん呼んじゃったけど、呼ばない方が良かったかな。あんな事があったけど、友だち付き合いしてくれてるし、いっかー。前より友達として付き合いやすくなったから。


 久からいきなり「付き合えない」発言をされてから、優乃は何となく距離をとっていたが、今の久の態度はむしろさばさばとして逆に付き合いやすくなっていた。


 「安さん、もうあきらめて」


 矢守が優乃に構わず、ぽんぽんと安の肩を叩いた。


 「コスプレそんなに嫌?」


 「嫌とかそうじゃないが、嫌だな」


 矢守を振り払う気力もなく、安は諦めの悪いため息をついた。


 そこに月森が帰ってきた。


 「ごめーん。写真見つからなかった。代わりにコス持ってきたから、着てみて!」


 何着か手にしている。


 わっと月森に群がる女性陣。


 安と山川は隅に固まって


 「あの部屋ですからー」


 「みんなホントに行くのか?」


とつぶやき合う。


 月森がそんな男二人に声をかけた。


 「大丈夫。ハロウィンなんて海外のお化けの格好すればいいんです。一番簡単なのは白い布の真ん中に目と口の部分だけ切り抜いてかぶるんです。それでお化けOKですから。あ、優乃ちゃんこれ着てみて。着れる?丁度隣の部屋で着替えられるね。ちょっと便利」


 ノリノリだ。


 そしてただ一人、気の乗らない安を残して、その日は過ぎていった。



★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★



次回予告



 きゃー、コスプレですよ

 遊園地でコスプレ

 私が来園者の皆さんを、夢の国に連れて行くお手伝いをしてあげます


 優乃ちゃん、ネズミーランドじゃないんだから…


 今回の主役は、月森さんだよな



 「そんなに?なら特訓してあげようか」



 「…ごめん。マズかった」



 「私が手伝った白いの、使ってるじゃない」



 「ここ、で愛の荘の取り壊しが決定しました」



 遊園地、お誕生日会、突然の告知


 バタバタ忙しいいつもの、で愛の荘


 今回は月森さんいるけど、みんな大丈夫?



 次回第四十七話 ハロウィンはコスプレ会



 「優乃ちゃん、可愛い…」

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