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遥かなる彼方からの贈り物  作者: 名も無き人
第1章 5歳の少年
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(5) 永い旅

ナノロボットが大樹の脳内に造ったネットワークは

サンダルと大樹の脳を直接繋(つな)いだ。



流入してきたのは、一種の「知識」だった。

しかもその知識のイメージは

驚くべき膨大なものだった。


通常の人間の寿命の間で経験できる範囲では

とても不可能な量の膨大な情報だった。


ある意味それは生体手術と言えた。


現代人類の科学技術では想像もできない程に

高度に洗練された生体手術だった。

膨大な、そして正確な「知識を埋め込む」為の手術だった。


メスも麻酔も使わない手術であったが

大樹の大脳皮質から深層部に手術は施され

そこは効率的にそして確実に

変化の目的を遂げていった。


人間を自我の存在と仮定すれば

すなわち人間は脳そのものの存在である。

その脳が永い時間を経て

変化する過程そのものが

ある意味で人間の人生とも言える。

時間をかけて徐々に刻まれる

要するに脳の変化である。


しかし、この時の大樹の場合は

時間にして僅か40分間程で

それが起きたのだった。


その間大樹は

永い旅に出ている気がした。


永い、文字通りに途轍(とてつ)もなく永い旅だった。


時間の概念にすれば

なんと二百年間以上にもなる永い時間の旅だった。


途轍(とてつ)もなく永い旅だったが

終わってしまえば

その時間の長さは過去の記憶に過ぎなかった。


そしてその結果

大樹は驚くべき多くの事を理解していた。


それは、子供が社会に適応するための

分別を身につけると言うレベルの理解ではなかった。


むしろ相変わらず大樹は

5歳の幼児に近い年齢の少年であったし

姿形もそのままだった。


しかし、大樹の中身は驚くべき変化を遂げていた。


大樹が学び理解したものの中心は

主に宇宙の現実そのものだった。

特別な事ではない。

むしろ、当たり前な常識を持った科学者であれば

同じ様な事を語る事が可能な内容であったかも知れない。


しかし、大樹の理解は

「事実」として得た理解だった。

例えば、大樹の理解は

『この宇宙には地球以外にも多くの生命が存在している』

そんな当たり前とも言える「事実」だった。


実際に人類のみが宇宙で唯一の知的生命体だと考える科学者は少ないであろう。

そして彼らはまるでそれを当たり前に知っているかの様に想像する。

科学者だけではない。

それが前提であるかの様に映画や物語が創られる。


しかし肝心な「事実」は誰も知らないのである。


人類の科学技術レベルは

精々近隣の惑星に探査機を飛ばし

微生物の痕跡(こんせき)を探して回るレベルに過ぎない。


もし、その生物の痕跡を発見しても

それは飽くまで微生物の痕跡に過ぎない。

やはり人間は、生物の頂点に立つ

最高の生き物に変わりはないのである。


しかし、大樹が知った現実は違っていた。

人間は膨大な数の一部に過ぎなかった。

宇宙には、生命が存在する

驚くべき膨大な数の星が存在している。

その中で進化して文明を育んできた種の数も

やはり無数と言える程多く存在していた。


大樹はこの「当たり前の事実」を悟ったのだった。


全宇宙の真実を理解した大樹は

5歳の幼児であるにもかかわらず

ある意味でとてつもない「賢者」に変化したのである。


しかし、それだけの素晴らしい経験を得ながら

その貴重な経験が終わった後の大樹の表情は

歓喜に満ちたものではなかった。


理由は簡単だった。

なぜ大樹がこの「サンダル」に乗る必要があったのかを

同時に理解したからである。


それは『10年後』だった。

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