(2) 待っていたもの
築30年を越える古い5階建てのマンションにエレベーターはなかった。
幼稚園の友達のマンションには
必ずと言ってよいほどエレベーターが付いているのを
大樹は密かに羨ましく思っていたが
今はそんな事は気にはならない。
大樹の部屋は3階にあり
中央にある階段のすぐ隣だった。
大樹は静かに階段を降り始めた。
季節は夏でそれ程寒くはない。
音をできるだけ立てない様に
端の手すりに掴まって降りた。
幼児が真夜中にパジャマ姿で出歩いているのを大人に目撃されれば
必ず咎められ、大問題になる事位は理解していた。
大樹は道に降り立ち足速に道路を横断した。
路上駐車の車が2台程見える他は
深夜の道路は閑散としていた。
他に歩いている人は誰もいない。
街灯の光が暗かったが気にはならなかった。
進むべき方向は理解している。
道にそって50m程歩くと
寂びれた小さな建材店の材木置き場があった。
材木置き場の敷地には雑草が生え、荒れた様子である。
汚れたシートを被った二山の角材の塊の間から
それは呼んでいた。
しかし大樹の目には何も見えなかった。
それでも大樹は躊躇なく膝まである草むらに踏み込んだ。
そこに何かが存在する事を大樹は確信して疑わなかった。
まるで大声で呼ばれているかの様に
何かがそこに居るのをはっきりと感じていた。
もし何も無ければ大樹は地面を掘ったかも知れない。
それ位に、そこから何かが呼んでいるのを
大樹ははっきり理解していた。
草むらに入り、1m程までの距離に来た時
突然大樹はそれを認識した。
まるで暗闇から浮かび出るかの様に
草の中にぼうっと現れたのである。