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君の隣を約束します。  作者: ゆきうさぎ
<第7章>
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猫ってかぶるもの以外なにがある?(3)

「で?まだ落ち込んでんの?」


あれから20分ほど本当に散歩をしている。知らない街だというのもあって、なんだか好奇心旺盛になってしまう。探検でもしてるみたいだ。ただ、後ろにうじ虫を連れてるっていう感じになるのも否めないけど。


「だって‥」


さっきから凛久はこれを繰り返している。「だって」とか「でも」とか、なにかを言おうとしては口を閉じての繰り返し。いい加減見てるこっちもイライラしてくる。


「辛気臭い。つーかいつまで引っ張ってんのよ」


少し苛立たし気に言えば、凛久は遠慮がちにこっちを見た。あーもー、うざい。


「由良さんに言われたこと気にしてんの?」

「…まぁ、」

「‥呆れた」


どんだけ自分に自信ないんだよ。つーかどんだけ私のこと過大評価してんだよ。そんないい子ちゃんでもないっての。


「だって俺事実だと思うもん。俺には直はもったいないって思う」

「なんで?」

「なんでって‥」


あーもーほんっと見ててイライラする。こんなの前にもあったな。いつだっけ。……ああ、あれだ。深山ちゃんのことどうするんだっていうので揉めた時だ。その時もこいつ、こんなふうに黙りこくってたっけなぁ。私みたいに言いたいこと言える性分じゃないんだって。まぁ、私からしたら引っ込み思案だからなんていう言い訳してるようにしか聞こえなかったけどね。


「そんなこと言いだしたら、凛久だって私には勿体ないよね」

「そんなことない」

「あるでしょ。でもさ、だからなにって思うんだよね、私は。自分には勿体ないけど、だから付き合っちゃいけないの?自分には勿体ないくらいの人が好きって言ってくれてるの。なのにその好きって言ってもらってる自分を卑下するなんて、ふざけんなって話じゃない?」


私は黙る凛久を見据える。凛久はその視線が居た堪れないのか、私から視線を逸らした。


「誰にもったいないって言われようが、ふさわしくないって言われようが、あんたは私が選んだ人なの。なんでそれわかってくれないかな?」


ため息まじりに言えば、凛久ははじかれたように顔を上げて私を見た。その目には、あろうことか涙をはらんでいた。マジかよ、なんて思いながらそれを見ていると、小さな声で「ごめん」と聞こえてきた。


「なに。聞こえない」

「ごめんって」

「謝るくらいなら最初からへこむな、ばか」


これじゃどっちが男なのかわかんないじゃんか。つーか言葉だけ聞いてたら私、完全に男じゃん。どうなんだよ、これ。


「つか、聞こえないって直、意外とS?」

「さぁ?どっかの誰かさんがすぐに泣いちゃうから、いじめがいがあることに気がついちゃったってだけじゃない?」

「それをSっていうんじゃないの?」

「さーあ?これをSって認めちゃったらあんたMになっちゃうけどね?」


フフフと楽しそうに言うと、凛久は「いや、無理」とか言って私から半歩引いた。いや、あんたから言ってきたんだし。勝手に引かないでよ。


「なによ、その目」

「直ってやっぱり根っからのSだ」

「なに、自分はMですって認めたわけ?」

「認めてない。俺もSだ」

「あー、うんそうだね。あんたは根っからのSだよ」


じゃあ私はなんだって話だけど。


「‥じゃあ直は生粋のS?」

「それどっちもあんまり大差ないから」


なんであんたって国語の教師がいとこにいながら日本語にそんなに弱いわけ。何人だよ、お前。


「あっれ、凛久じゃん!」


凛久とあんまり人に聞かれたくない言い合いをしていたら、大きな声で凛久を呼ぶ声が聞こえた。その声に反応した凛久はそちらを見て、「おお」と他愛無い挨拶を返した。挨拶って言っていいのかわかんない返しだったけど。


「相変わらずそっけねぇなぁ」

「うるせぁ。つーか何の用だよ。お前家この辺じゃないだろ」

「や、凛久に用はない。たださっき連れがこの辺で美男美女のカップルを見たってーもんだから興味本位で来てみたらお前がいたってだけ」

「好きだな、お前。相変わらずなのな」


凛久はその時初めて、その男の人に笑顔を見せた。その時、その人が少しほほを赤らめたのを、私は見てしまった。そりゃあもう衝撃って感じだ。ていうか瞬時に理解してしまった。ああ、この人、凛久のこと好きなんだなーって。


「で、彼女さん?」


ちらりと見た私と目が合った彼はふわりと人好きしそうな笑顔を向けてくれた。ただ、なんかもう、虫唾が走るほど胡散臭い。それはきっと、さっき凛久に向ける笑顔を見てしまったからだろう。


「ん、そう。今日親に呼ばれたから」

「雪瀬直です」

「‥そっか。よろしくね、直ちゃん。俺は相田 鉄平(あいだてっぺい)っての。よろしくね」


彼はそう言ってまた、さっきと同じような笑顔を私に向けた。


「直、母さんがそろそろ晩ご飯の支度始めるから帰って来いって」

「え?あ、うん。じゃあ戻ろうっか」


凛久の言葉にうなずいて、凛久はそっと私の手を握った。


「じゃあ鉄平。また同窓会とかで会おうな」

「‥おう。たまには帰ってこいよなー、みんな寂しがってるぞ」


最後には、凛久に見せたとびきりの笑顔を彼はしていたが、それはなんだかどこか辛そうで、すごく哀しそうに見えた。手を振っていた彼はやっぱり凛久を愛おしそうに見つめていた。






「‥気になる?」

「は?」


帰り道。凛久はどこか寂しそうな口調でそう言った。ないが?と聞き返すよりも早く、私は凛久の言いたいことを読み取ってしまう。こういうとき、もっと頭の回転が遅かったらとか、もっと自分が鈍かったらと思ってしまう。


「…好き、なんだろうね」


誰がとか、誰をとか、そんな言葉はきっといらない。ただそう返せば、凛久もさっきの彼と同じような傷ついた笑顔をして力なく笑った。


「あいつね、俺の幼馴染なの。あいつ、そう言わなかったけど」


それはきっと、言わなかったんじゃなくて、言えなかったんだと思う。きっと彼はまだ、凛久のことが好きなんだろう。それがあの眼差しから、あの表情から、ひしひしと伝わってきた。


「しばらく俺が離れてたら忘れてくれるかなーなんてこと考えてたんだけどな。甘かった」


また、凛久は力なく笑った。あの時の彼と同じ笑顔。ただ違うのは、その悲しんでいる内容。私はなにも言えなくて、ただじっと、力なく笑う凛久の手を握り返すしかなかった。






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