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君の隣を約束します。  作者: ゆきうさぎ
<第6章>
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静かな夜と聖なる夜と、(9)

「直!」


開けられた扉から入ってきたのは、外の冷たい空気と、今最も聞きたくて、最も聞きたくなかった声。壁に縫い付けられながら横目で見た凛久の顔は驚愕だった。信じられないものを見ているような、そんな表情。


「いた、」


握りしめられた手首の痛みに、目の前に人物が怒りをあらわにしたのがわかった。だけどその人の目は私ではなく、扉を開けた凛久をじっと睨みつけていて、とても冷たい視線を凛久に向けていた。


「なんだよ、これ」


目の前に広がる光景を受け入れられないとでもいうような凛久の言葉に、でかかった言葉を呑み込んだ。代わりに、それにこたえるかのように口を開いたのは私の手首を握るあの人。


「見てわかんねぇか?お仕置きだよ、お仕置き」

「お仕置き?」

「ああ。直が悪いんだからな。身体に教え込まないといけないだろう?」

「…あんた、直の父親か?」

「そうだよ」


そう言いきったあの人はふわりととても優しそうに微笑んだ。その顏を見た私の背筋はぞっとして、目を見開いてしまった。


「君は、直のトモダチかな?」


目を細めてそう聞いたあの人は凛久をじっと見つめる。それはまるでイエスの答えしか聞き入れないとでもいうような。


「‥俺は直の、…‥「友達」直?」


凛久の言葉を遮った私は、大きな声でそう言った。


「ほう?トモダチか。なら悪いが帰ってもらおうかな。直にはこれからたっぷりお仕置きをしなきゃいけないからね」


あの人のその言葉に身体が過剰に反応する。眠っていた、忘れていた昔の恐怖がよみがえっていく。あの人は私の手を引っ張って奥へと誘導しようとした。だけど、私の身体は全く進まなくて、あの人に握られた腕の反対側の腕は、凛久によって強く握られていた。それがわかったあの人は、顔を歪めていく。


「すいませんけど、ここ俺の家なんで」

「なに?」

「聞こえませんでした?ここ、俺の家なの。だからあんたが進むのはこっちじゃなくてあっち」


凛久はあっちと言って指をさしたのは、自分が入ってきた玄関の方。にこりと笑って言う凛久のこめかみはぴくぴくと青筋が立っている。


「それとこれも返してもらうね、っと」


凛久は強く私の手を引いて、緩んでいたあの人の腕から私を引き離した。ぎゅっと包まれたのは凛久の大きな腕の中で、久しぶりに凛久のにおいがした。


「直は俺の息子だ」

「息子?直女の子じゃん。つーか、息子って言うわりに、直に手出してんの誰だよ」


急に低くなった凛久の声に思わず私の肩がびくついた。それを安心させるように、凛久は優しく私の頭を撫でてくれる。


「お仕置きなんて言ってるけど、あんた直の父親?娘に手あげて挙句手まで出して、それでよく父親なんて名乗れるよな」

「なんだと?」

「だってそうだろ?あんたのせいで直がどんだけ辛かったと思ってんだよ?直はお前の憂さ晴らしでも性処理でもないんだよ」

「うちのことによそが首をつっこむな。これはうちの問題だ」

「首もつっこみたくもなるね。こいつは俺の彼女なんで」

「…女、だと?」


それは昔に聞いた、地を這うような声。無条件に恐怖を感じるそれに凛久の私を抱きしめる力が強くなる。


「直、お前はどうして俺の言うことが聞けないんだ?あ?母さんのせいか?あいつがお前によくない教育をしたのか?」

「…違う、」

「母さんのせいだろう!?」

「違うってば!母さんはなにも悪くない。なんで、なんであんたは私を女だって認めてくれないの!?私のこと何度も姉貴の代わりに抱いといて‥!なんで都合のいい時だけ女の扱いするの!?」

「親に向かってなんて口の聞き方だ!」

「あんたは親なんかじゃない。親らしいこと、何一つしてこなかったじゃん!いつもいつも私に暴力ばっかふるって‥なにが親よ!」

「…しばらく俺がいない間に、態度がでかくなったな、直。まだ未成年のくせにこんな男と一緒に住んで。何度言えばお前は男として育つんだ?」

「…未成年に手出してデカイ口叩くなよ。あんた、さっき直になにしようとした?つーかさっきまでなにしてた?直が未成年だってわかってやってたんだろ?立派な犯罪だよな?」

「はっ、証拠がなきゃ意味ないんだよ」

「自分の子供犯して楽しいかよ、」

「直が悪いんだろうが。言うことをちゃんと聞かないから。直が男に育ってくれたら俺だってこいつを抱かなくて済むんだ」

「姉貴の代わりのくせに、」

「そりゃあそうだ。でも陽も悪い。俺を誘惑したあいつがな。直だってさっき俺を誘惑しただろう。男に育てと言ったのに」

「してない!」

「…つーからちかあねぇな、この会話」


凛久は大きなため息をついてあの人を見据える。それはどこか勝ちのようなものを確信した顔だった。


「なーんでクリスマスにこうなるかな、」


ぼやき半分といった感じで凛久はいって、おもむろに取り出した携帯でどこかに電話をしだした。


「あ、うん、俺。やっぱ面倒な感じだったわ。うん、だから頼むわ」


それだけ言って、凛久は携帯を切ってあの人を見た。


「‥タイムアップっていうよりはゲームオーバーってところかな」


いたずらっぽく笑ってそう言う凛久の後ろから音が聞こえて、玄関の扉が大きな音を立てて開いた。外から入っていたのは、すごく端正な顔立ちをした、スーツを着た、あの人と同じ年くらいのダンディーな男の人と、その後ろにいる若い男の人2人。


「な、どうしてここに、」


その声はさっきまで私と凛久を睨みつけていたあの人のもので。珍しく恐怖を含んだその声色が向けられたのは、律儀にも脱いだ靴をきちんと並べたやたらとイケメンなスーツの人。

…いや、誰。





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