静かな夜と聖なる夜と、(6)
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飯を食べて直より先に風呂に入ると告げた今、部屋を移動した俺から1番に出たのはため息だった。風呂の準備をしながら、今日の帰ってきてからの直の行動を思い出す。
最初はなにも思わなかったけれど、キッチンでいつものように忙しなく動く直の動きは、今日に限ってどこかぎこちない。いつもならああしてるのに、とか、あんなふうにしないのに、とか、まるで粗さがしのように、直の行動の違いを見つけてしまう。キッチンを覗きに来たふりをして、直の動きを確認した。どこかぎこちない、まるで何かを庇うような、そんな行動に違和感しか覚えなくて、それを隠している直になにも聞けなかった。
「あ、そういや最近不審者がこのあたりで出るんだってさ」
「不審者?」
ご飯を食べながら、ふと、噂になっていることを口にした。ここら辺に最近になって出るようになったと言われる男の不審者。時間を問わず、この辺を家を見ながら、そして誰かを捜すように練り歩いているらしい。ただの人捜しかなんかじゃないのかと思ったりもするけど、ここ2週間ほど見られるらしく、確かに不審者だ。
「不審者?」と言葉を返した直をちらりと見ると、別に返しはいつもと何も変わらないけれど、一瞬見開かれたその目には明らかな動揺の色を宿していた。
「‥もしかして、なんかあった?」
「え?いや、そういうわけじゃないけど、」
カマをかけたわけじゃないけど、うかがうように聞いてみた。俺の言葉に直はごまかすように、取り繕うように笑ってそう言った。どう見たってなにかあったとしか思えないような、そんな反応。すぐに俺から目をそらして黙り込んでしまった直を見てると、少しだけイラついた。なんで何も言わないんだよ、とか、なんで頼ってくれないんだよ、とか、そんな思いばかりがわき出てきて、気がついたら俺は直の前から姿を消していた。そして今に至るわけだ。
「…なんで、」
風呂場にぽつりと呟いた言葉は誰に返してもらえるわけでもなく、ただ吐き捨てたその場に落ちていく。こぼした言葉によって芽生えるのは、行き場所のない滞ったモヤモヤだけで。それはどこか怒りにも似た感情で。
なんで言ってくれない?
なんで頼ってくれない?
なんで隠すんだよ?
…そんなに俺が信用できないか?
悪く思えば思うほど、やるせないこの気持ちは膨れ上がっていく。
「くそっ、」
俺は壁に自分の拳をぶつけて風呂からあがった。
この時俺が、直にもっとちゃんと嫌でも聞いてやれば、あの日はこなかったかもしれないのに。




