静かな夜と聖なる夜と、(2)
「ん、‥」
ぶるりと身震いをする寒さで目を覚ました。寝る前まで感じていた背中の温かさはなくて、ベッドには私しかいなかった。少しだけ、さっきまで隣に凛久がいた温もりは感じられたから、おそらく凛久は先に起きたのだろう。布団を背中にくるめて起き上がって、布団から出ようかと悩んでいたら部屋の扉が開いて、両手にマグカップを持った凛久が入ってきた。マグカップからは湯気が出ており、中身を聞けばコーヒーだと返された。
「はい。微糖」
「どうも」
凛久の言葉に寝る前に話していたことを思い出した。それに笑っていると、凛久はその内容がわかったのか私の頭を優しい手つきで撫でながらそっとベッドに腰掛けた。
「寒い」
「煖房ついてないからね」
コーヒーをすすってから答えれば「つれないな」なんて言葉が返ってきた。それを無視してコーヒーを飲んでそばあった机の上に置いた。相変わらず、凛久がいれるコーヒーはうまい。コーヒーだけは一級品だと思う。なんでこんだけうまいコーヒーがいれられて、料理が壊滅的なのかがイマイチわかんない。どんだけ料理のセンスないんだよって思う。
「だからいれて」
凛久はいれてと言っておきながら、私から布団をはぎ取るとすぐそばまで来て2人分布団でくるんだ。
「追剥ぎ」
「かぶせたから追剥ぎしてないじゃん」
そうだけど。と言葉をつまらせて、言葉の代わりにコーヒーを飲んだ。
「そういやもうすぐクリスマスだな」
ふいに凛久はそう言って、私の部屋の壁にかかるカレンダーを見た。12月と書かれたカレンダーにはサンタの絵が描かれていて、クリスマスを全面に押し出している。
「そっかぁ、今年ももう終わりか、」
「…なんでクリスマスの話切り出したのに年の瀬の話になるの」
「いや、だってクリスマス終わったら今年ももう終わるし」
どっちかっていうと年末年始の方がばたばたして忙しいし。クリスマスなんてあってないようなものだし。
「今年のクリスマスは休日なんだな」
「そうだね。っていうか凛久ケーキ屋でバイトしてるんだからあんたその日バイトでしょーが」
「うん、そうなんだけどね」
そらみろ。と言わんばかりの視線を向けてやれば、凛久は素直に謝った。別に何かをするわけでもなかったからいいんだけど、夜しか一緒に居られないと思うと、それはそれで寂しいものがある。ほんと、わがままな心情。
「まぁ普段まともに入ってないんだし、こういう時くらいちゃんと働いてきたら?私、久しぶりに美弥と遊びに行こうかなー」
どうせ貴臣君もバイトだろうし。…あ、その前に彼受験生だったか。
「ぇえ!?俺とデートしてよ!」
「バイト入ってるやつがなに言うかな」
「そうだけどー‥俺も直とデートしたいー」
「はいはい。また今度ねー」
こうやって凛久のこの類の言葉を流すのは何回目だろうか。そしてこの今度がいったいいつくるのか。ほんとあいまい。
「‥さて、そろそろお昼だしなんか温かいもの食べようかな」
「お!そう言うと思って向こうの部屋、暖房つけといた」
おう、気が利くな。そんなにお腹空いてたのか。
私は布団から出ると、すこしぬるくなったコーヒーを片手に温められた部屋へと向かった。そのあとを凛久がついてきて、部屋のカーテンを開ける。外は相変わらず寒そうで、窓ガラスは曇っていた。
「めんどくさいからオムライスでいいよね?」
凛久に声をかけながら、私は卵を数個取り出して割っていく。そんな姿を見ていた凛久は苦笑していた。
「たまご割りながら言われてもな」
「そりゃあ変更する気ないからね」
なら最初から聞くなってな。と心の中でつっこんでから、温めたフライパンでバターライスをさっと作って、この前作り置きしたシチューを取り出して温める。その間に卵でオムレツを2つ作った。
「相変わらず手際いいな」
「慣れてるからね」
お皿の上で形を整えたご飯の上にふわふわのオムレツを置いて、ナイフで切れ込みを入れて広げる。その上に温まったシチューをかけて完成。
「なんか早くね?」
「シチューをリメイクしただけだからね。大して時間はかかんないよ」
テーブルにお皿を置いて2人で向かい合ってオムライスを食べる。うん、うまい。あとはサラダかスープがあれば言うことないな。
「昼から暇だなー」
「なら学校行けば?」
「うへ。自分もさぼっといてよく言うよ」
「私、午後からお菓子でも作ろうかなって考えてるから暇じゃないもーん」
「いや、暇だからお菓子作るんじゃん。お前も学校行けよ」
「やだよ。今日寒いもん。あ、でもお菓子の材料買ってこなきゃだ」
多分、薄力粉とかない気がする。…うーん、やっぱりお菓子作るのやめよっかな。
「どんだけ外出たくないんだよ」
「寒いのは苦手なのー」
暑いのもそんなに好きじゃないけど。やっぱり今日の晩ご飯も温かいのがいいなー…あー、材料買いに行かなきゃだ。結局外出なきゃじゃん。
「車なんだからそれくらい行けよ」
「それで行けたら学校行ってるから」
「そんなドヤ顔で言うことじゃないだろ。‥ごっそーさん。俺今からちょっと出るわ。夕方までには戻ると思うし」
凛久はそう言って、自分の部屋へと戻っていった。その後ろ姿を見送りながら、首をかしげてみたり。…どこでかけるんだろ?




