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君の隣を約束します。  作者: ゆきうさぎ
<第6章>
36/54

静かな夜と聖なる夜と、(1)

「今日は今年一番の冷え込みになるかもしれません。もしかしたら初雪が見られるかもしれませんね」


たまたまつけたニュース番組で、今日の天気予報をしていた。どおりで今日は朝からやたらと冷え込むわけだと、お天気おねえさんの言葉でひとり納得して、私はベッドに戻った。いや、本当はこのまま授業に行かなければいけないんだけど、いかんせん寒い。カーペットの敷いていないフローリングの床を歩くのも億劫に感じるのだ。こんなに寒かったらやっぱり布団に戻ってしまうのが人間の性だ。


「つーか寒いのはごめんだって、」


さきほどまでかぶっていた布団にもぐりなおしていそいそと寝る準備をする。少しだけ冷気に触れたせいか、布団は冷たく感じられた。それでも体温でなんとか温まった布団の中は二度寝するには最適で、私はだんだんと重たくなっていくまぶたをそっと閉じた。


「直、遅刻!」


扉を勢いよく開けてノックもせずに入ってきたのはスウェット姿の凛久だった。茶色く染めた髪に寝癖をつけたままで人の部屋に盛大に入ってきた凛久は、珍しく私を起こしに来た。


「知ってる。ていうか今日は自主休講」

「は?」

「だから、自主休講」


だから寝かせろという聞こえもしない副音声を凛久に向けた後に私は頭の上まで布団をかぶった。まさに殻にこもった亀状態。大きな甲羅を背にうつぶせに寝ていれば、しきりに理由を問う凛久の声が聞こえた。


「寒い」

「…え、それだけ?」

「ほかに理由があると?」

「いや、むしろなんでないと思うんだよ。つーかこの部屋さみぃ!」


そりゃあな。暖房もなんにもかかってないからな。なんて一人勝手に納得をしていたら、もそもそと隣が思ってもいないように動いた。


「あったけぇー!」

「はぁ!?」


聞こえてきた声はすごく近くて、そちらに向けた視線の先には、先ほどまで扉の前にいた凛久がいて。なんだか幸せそうに当たり前のように隣にいた。


「ちょ、なに勝手に入ってきてんのよ」

「いいじゃん、寒いんだから」

「なら自分の寝室帰ればいいじゃん!なんでわざわざここに入るのよ!?」


ただでもシングルで狭いベッドなのに!きゅうきゅうでたまんないでしょうが!って、そういう問題だけじゃないけど!とりあえず近い!


「いーじゃん、別に。手出さないから」

「嘘つけ。だったらその腰にある手どけなさいよ」

「えー‥それは無理ぃ」


凛久はそう言ってさっきよりもくっついた。背中に私じゃない温もりを感じるけれど、それと同時に心臓がすごくドキドキする。いつか聞こえてしまうんじゃないかって思う。ていうか、最近こうやってドキドキさせられること多くない?


「俺らさ、付き合ってるのに別々の布団で寝る意味ってあんまりなくね?」

「いや、あると思います。十分に意味はあると思います」


だから即刻この布団の中から出てってください!


「そんなに俺の隣で寝るの嫌?」

「っ‥いや、じゃないけど、」


ていうか、その聞き方せこくない?そんな風に言われたら、だめとか嫌とか絶対言えないじゃん。弱々しい口調でいう凛久の顏は見えないが、それはまるでうなだれる捨て犬のような気がする。


「いやじゃないけど、その胸の前にある手、どけろや」

「、っち」


もう少しで甘々な雰囲気になるところだっただろうに、私は凛久の手をぺしっと叩いた。つーかこいつ今舌打ちしやがったな。聞こえたぞ。


「直、甘くない」

「うん、確かに苦い人種かもね」

「俺もう少し甘いの希望」

「ほろ苦いくらいがちょうどいいらしいよ」


なににかは知らないけど。お菓子でもなんでも甘すぎない方が美味しいんだって。


「俺、加糖がいいなぁ」

「そ?私は微糖くらいがちょうどいいけどなぁ」


って何の会話だよ、これ。何が楽しくて布団の中でコーヒーの甘さの話しなきゃなんないんだよ。


「寝ていい?」

「話急だな」

「私寝るためにベッド戻ってきたんだもん。学校行きたいなら凛久だけで行ってよ」

「明日学校行ったらあらぬ噂立ってるかもしれないけどそれでもいい?」

「‥‥黙ってここにいろ」

「はぁい」


なんつー甘い返事してんだよ、こいつは。なんて呆れながらも、後ろから与えられる温もりに、またまぶたが重たくなってきているのを感じた。冷え切ったこの部屋にはちょうどいいくらいのひと肌はとても心地よくて、凛久が近いとか、ドキドキするとか、そんなの吹き飛んでしまうくらい、心地が良くて、気が付けば私は思いまぶたを閉じていた。







----------------------------------------------



俺の腕の中にいるお姫様は、いやだいやだと言いながらも、結局俺をベッドの中に入れたまま惰眠を貪っている。本当、いい加減こういう展開は終わりにしてほしい。お預けを食らわされた俺の身にもなってほしいものだ。腕の中で、こんなに無防備にされちゃあ理性もへったくれもない。これじゃ食ってくれって言ってるようなもんじゃん。


「ん、」


もぞもぞと動く直は身体を寝返らせ、俺の方を向いた。思ってもなかった報酬。および、思ってもなかった我慢。正直こっち向かれたら理性が飛ぶのも時間の問題な気がする。


「ほんと、無防備すぎるって。つーかこんだけ可愛いのって反則」


ダークブラウンの髪を手でそっとといでやれば、また動いて、今度はきゅっと俺のスウェットをつかんだ。いや、可愛いんだけどさ。可愛いんだけど、やめてもらいたい。けっこうダイレクトにくるんですが。…それにしても可愛い、つーか綺麗、‥や、なんなら男前。ほんっと整った顔してる。寝ても覚めても男前ってなんだよ。出会ったころに比べたら、女っぽくなった方だと思う。すごく綺麗になった。どんどん惹かれていく自分がいる。絶対に離したくないって思った。


「直、」


少し前に車の中にでねだって言ってもらったセリフの返事をまだ言ってない。でも、そのうち、絶対に言う。だからその時まで、待っててほしい。なんて、寝てる直に言っても返事は返ってはこないけど。

俺は規則正しい寝息を立てる直のおでこにそっとキスを落とした。







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