黄金のリンゴ争奪戦(5)
「今途中結果を見てるところです。皆さんはすぐに控室に行って着替えてきてください。部屋にはスタッフが何人かいるんで、わかんないことがあったらそっち聞いてください」
全員が引っ込んだところで、そういう説明を受けて、私たちはいっきに控室へ流れ込む。十分に広いスペースを取った控室には、すでに番号のふられたハンガーがあって、そこには純白のドレスがかかっていた。まさか、二十歳前にしてこれを着る羽目になるとは…なんて思っていたら、また、いつの間にか先輩が隣に来ていた。
「なんすか、」
「私に喧嘩でもうったつもり?」
「まさか。私は凛久が買った喧嘩をより高値で買っただけです」
安い喧嘩は買うなっていう、すっごく憎いあの人の教え。まさかこんなところで役に立つなんて。人生わかんないものだ。
「そこの2人、はやく着替えてください!時間がありませんから!」
部屋にいたスタッフにせかされて、私は慌てて8番のドレスを手に取った。他の人たちと違うデザインにちょっとだけ感動したりして。背中をスタッフの人に押されて、そのまま試着の部屋へと流れ込む。さっき以上にせかされて、私は慌ててウェディングドレスを着た。
「うわ、」
初めてきたウェディングドレスに、鏡に映る自分をじっと見てしまった。でも見惚れてる時間もそんなにないみたいで、後ろを持ってもらってステージのわきに集まった。みんな、さっきの私服とは全く違う印象で、すごく綺麗だった。
「ここからは、さっきも言ったけど男子の順位と相対してステージに入っていってもらうから。で、ステージに入る前にくじを引いてもらいます。引いて、言葉が書かれていたほうがセンターまで行ってマイクの前に立ったときに相手に向かって言ってください」
なんでもこれが醍醐味なんだという。さっきまで司会をしていた人はウェディングドレスの私たちを見て口笛を吹いた。
「お、いたいた、バスケ部だった子」
私の前に来たその人はにっと笑って私を見た。
「やっぱ君きれいだねー。でもその髪型じゃだーめ。ちょっとむこう向いて」
向いてと言っておきながら、司会のお兄さんはくるっと私のからだをむこうに向けた。完全に背中側に来たお兄さんは慣れた手つきでどこから取り出したのか、髪をつけたしてハーフダウンにして結び目にアクセントになる白い大きなコサージュをつけた。…っていうかこれって反則だったりしません?
「よし、これで可愛くなった!頑張ってよ。俺君に投票したし」
「え、なんで?」
「だって君が一番おもしろそうだったから」
そう言ってステージに上がっていったお兄さんはマイクを通して大きな声で言った。
「さあ、みなさんお待ちかね!花嫁と花婿の登場だぁ!今年の黄金のリンゴは誰の手に!?」
…つーか、よくよく考えたら、なんだよ、面白そうだからっていうその理由。とは言ったものの、確かにこの髪型じゃあなって思ってもいたから素直に受け取ることにした。まぁもう戻せないっていうのもあるんだけど。
「まず女子が5番、男子が3番」
呼ばれた番号の人が前に出てくじを引いた。先輩は見間違えるほどきれいで、呼ばれた男の人もすごくかっこよかった。なんて見惚れてたら、あたまをこつんと叩かれた。
「なに見惚れてんの。しかも知らねぇ男に髪触らせてるし」
拗ねた口調で言った凛久は、本当に拗ねていて、ぷいと口をとがらせてむこうを向いてしまった。なんつーガキなんだよ、こいつは。私がタイプの男は包容力のある男だぞ!…なんでこいつに皆無のもの言っちゃったんだろう。凛久と喋っていたら何人かすでに行ってしまって、あと半分くらいのペアしか残っていなかった。
「次、女子の8番と男子の7番」
「「はい」」
重なって聞こえた声は、隣から発せられたもので、思わず隣にいる拗ねたこいつを見た。
「え、もしかしてこいつですか?」
おそるおそる聞いてみれば、運営委員は首を縦に振ってくじの入った箱をはいと私に向けた。引け、とのことらしいが、私が引く前に後ろから手が伸びてきて、あろうことか凛久がくじを引いてしまった。
「あら、直だ」
「え、」
「ほんとだ。じゃあ雪瀬さんここから引いてくれる。男の子の方は内容見ないでね」
嫌々ながら、差し出された箱から紙を1枚取り出した。4つ折りにされた紙を開いて文字を読んでため息がこぼれてしまった。一体誰だよ、こんな言葉考えたの。つーかなんで隣歩くのが凛久なのよ。これもあれか?神様のいたずらってやつか?
「ま、いいから行こうか、直」
「……むかつく」
いっちょまえにエスコートなんかしやがって。
差し出された手を掴まないでいると、凛久が私の手を取った。ぐいと引っ張られて、よろけてしまった私を凛久はしっかりと支えてくれる。
「ほーら、しっかり立たないと。ちゃんとエスコートするから。直は俺に連れられてればいい」
だから、なんで。なんであんたはそんなに、こういう時だけ、やたらとかっこいいのよ。
「そこ。いちゃついてないでとっとと出る!」
「はーい!‥さ、直、行こう」
「もうっ、」
凛久に差し伸べられた手をつかんで、私はエスコートされながらライトの下へと入った。




