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君の隣を約束します。  作者: ゆきうさぎ
<第1章>
3/54

どうやら右折と左折を間違えたようで。(3)

「で、その恵が何の用」

「用がなかったら声かけちゃいけないの?」

「‥別にそんなんじゃないけど、」

「でしょ?俺、ゆっきーと1回話してみたかったんだよねー。でもさー、いっつもとっきーと一緒にいつからなかなか話しかけらんないしー」


そう言って、恵は私の前の席に腰を下ろした。いいなんて言ってはないけど、言ったところでどきそうにはないから何も言わずにその動作を見る。


「そんな見つめられたら恥ずかしいじゃん」

「黙れ」

「ゆっきーって見た目すごく美青年なのに口悪いね。まぁ、そういうところも好きだけど」

「気色悪い」

「ゆっきーって黙ってれば美人でモテるのにって言われたことない?」

「さぁ。どうだったか」


高校の時ってあんまりみんなと話してこなかったし。


「ね、ゆっきーととっきーって付き合ってるの?」


めぐみは興味本位でそんなことを口にしたけれど、周りにいた何人かはこっちをちらりと見た。やっぱりあいつはいい意味でも悪い意味でも人気者らしい。一緒にいるのも考えものだ。


「黙ってるってことはそうなんだー」


私がなんと答えたものかと思案していると、恵は沈黙を肯定と取ったらしく、「そっかぁ」とかなんとかひとりで勝手に結論を出していた。別に間違ってもないし、訂正の仕様もないことなんだけど、ただ周りから向けられる視線が痛い。というかしろい。でもって女子からの視線に関しては怖い。そのうちあの目からビームでもでるんじゃなかろうか。


「いつから?」

「いつって‥高校卒業したくらい」

「ってことはけっこう最近なんだー。高校一緒だったの?」

「まぁ、」


恵はへらへら笑いながら頷いては質問してを繰り返す。なんだかそれが、問いただされているわけじゃないんだけど尋問されているような気になって嫌な気分になった。


「恵ってさ、」

「うん?」

「なんでも知りたがる人?」


遠慮気味に聞いた私を、恵は驚いた顔で見た後に満面の笑みで首を縦に振った。


「それ、疲れるからやめて。頼むから普通にしてて」

「なーんだ、面白くない」


拗ねた表情を見せた恵はもう何も聞いてこなかった。その様子にホッとして、私はさっき購買で買ったココアを口に含んだ。…やっぱりコーヒーにしとくんだったな。


「で、とっきーとけんかはしたんでしょ?」

「別に。けんかしたってわけじゃない」


恵に話を振られて、さっきのことを思い出すと知らず知らずのうちに眉間にしわを寄せていたらしい。そのしわを恵が前のめりになって人差し指でぐいぐいのばしてくれた。


「美人がもったいないってなー」

「だからってこすりすぎだっての!」


おそらくあかくなったであろう眉間を抑えながら睨むと、へへっと笑う恵がいて、時村とは少し違う笑みだと思った。なんていうか、こっちのほうが子供っぽくって実際はそうじゃないんだろうけど、純粋って思える感じ。


「そういやさっきとっきー見たなー。上回生だろうけど綺麗な人と話してたね」

「あんた傷えぐりに来たの」

「そんなつもりないよー。あ、でも慰めに来たわけでもないか」


うんうん、とひとりで頷いて納得した恵は話を別の方向にスライドさせた。つくづく話のネタが尽きないやつで、次の授業が始まるまで恵は飽きもせずにしゃべり続けていた。それを聞いていたせいもあったし、食堂にいたせいもあって、私はなんでかよくわからないけれど恵とお昼ご飯を一緒に食べた。本当は時村と食べるつもりをしていたんだけど、レジに並ぶときに見えた時村と先輩の姿に内心で舌打ちしてしまって、時村からは連絡もなかったし、意地を張ったとしか言いようはないけど、投げやりになってしまった。


「あ、そろそろ授業行かなきゃ」

「およ?もうそんな時間?じゃあこれ片付けて教室行こーう!俺教室の場所まだ覚えてないからゆっきー連れてってねーん」

「…お前もかよ」


席を立ちあがって、器の乗ったお盆を返して食堂を出る。出る間際に大勢がまだ残る食堂を見渡した。こんなにも人がいるのに、あいつの姿はいやに早く目に入って。その表情までが読み取れて。時村は笑顔で、楽しそうに食事をしていた。


「あっれ、珍しい組み合わせじゃん」


教室に着くと、いつも恵が一緒にいるのだろうメンバーが声をかけてきた。もちろん、恵にだけど。


「でっしょー!俺がさっき食堂でナンパしたの」

「大智の誘いにひっかかるわけねぇじゃん」


恵の冗談をばっさり切り捨てたのは、恵に一番に声をかけてきた黒縁メガネをかけたおしゃれ男子。名前は知らない。


「ひっどいなー」

「事実だ、ばか。どーせ教室わかんねぇから案内でも頼んだんだろ。お前もう1か月もここに通ってんならいい加減教室くらい覚えろよな」

「善処しまーす」


する気ないな、うん。ていうか私けっこうスルーされてるしこのまま席に行っちゃっていいよね。後ろの席うまってきてるし。


「で、雪瀬さんだっけ。本当にこいつの誘いに乗ったわけじゃないよね?」

「私そんな軽い女に見えた?」


と、ちょっと高い位置からものを言ってみたり。だってあんまり関わったら、この先なんだか大変そうなんだもん。


「いーや、だから聞いてるんだって。こいつ誰にでもなれなれしいからさ。勘違いする女の子が後を絶たないだよ。お前もそろそろ反省しろ」

「善処しまーす」


恵は敬礼をして言ったが、おそらくこれも口だけだろう。それをわかっているからか、黒縁メガネ君はため息をついてこめかみを抑えた。相当苦労してるんだろうなぁ、この人。


「あ、玲央、自己紹介しておいたほうがいいよー。ゆっきー、人の顏と名前覚えるのかーなーり不得意らしいから」

「…なんで知ってんの」

「だって俺のこと、見ても思いだしてなかったんだもん」


いや、だから、のど元くらいまでは思いだしたって。言葉にならなかったってだけで。




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