黄金のリンゴ争奪戦(2)
本当にばかげてると思う。先輩に良いようにまるめこまれ、ミスコンに出る羽目になってしまったことを。そして自分も出ると言いだして勝手にエントリーをしてしまったこの男に。いったい何度目のいい気なため息をついただろうか。
「なんであんたってそんなに馬鹿なの?何のための脳みそなのよ」
「その言葉はさすがに俺でも傷つくよ?」
「傷つけてるんだから傷つきなさいよ」
しれっとそう言えば、私たちの会話を聞いていた友達がくすくすと笑った。
「笑ってないでよ、りん」
「だってー、あんたたちの会話コントみたいだんだもん。いいじゃない、出るくらい。んで2人で優勝しちゃいなさいよ」
りんはそう言って、私のミルクティーをちゅーっと飲んだ。凛久はりんの言葉にうなずいて「勝てばいいじゃん」なんてことを言いだして、私はその頭を叩いた。
「少しは考えることを覚えろ」
なんであんたってそんなに単純なつくりしてんのよ。物事もう少し難しく考えなさいよ、ほんとに。なんでこんなやつ好きになっちゃったんだろう、私。
「えー、でも俺、先輩よりゆっきーのが好みだけどなぁ」
恵は携帯をいじりながらそう言った。恵の言葉に凛久は「これ俺の」とかわけのわかんない独占力をむき出しにして私を後ろから抱きしめる。ほどくのもめんどくさくなった私は凛久をほっぽって恵との会話を続ける。
「んなこと言われてもねー‥実際にあの先輩の方がきれいだしね」
「直のが綺麗じゃん」
「お前は黙っとけ」
後ろから聞こえてきた声をぶった切って、さっきりんが飲んだミルクティーを飲んだ。後ろから視線を感じたのでひょいと上にやれば、凛久はちゅーっと吸って満足そうな笑顔を見せた。そんな様子にりんと恵は呆れた顔をしていた。
「軽音の先輩の話によると、ミスコンって別名『黄金のリンゴ戦争』っていうらしい」
「黄金のリンゴ?」
「ああ。先輩そう言ってた」
「てーとあれか?よくあるヘラの神話に出てくるやつ。うーわ、ますますめんどくせぇ」
ポテチを食べながら肩を落とす。すると、抱きしめていた凛久が急にのしかかってくる感じになってすごく重たくなった。
「つーか凛久あつくるしい。邪魔」
「今もう11月近いし寒いってさっき言ってたじゃん」
「上着あるからいらない。ていうか横座れ」
譲歩した形で隣を指さすと、凛久は素直に横に座った。ちょっと近いけれどこの際お構いなしだ。こんなことをかまいだしたら正直きりがない。でも抱きつかれていたぶんの温もりがなくなったから、ちょっとだけ肩が冷えたっていうのは事実。言ってやんないけど。
「あんたたちって高校の時からそんな感じなの?」
「は?何がよ」
「いや、だから。そういうの」
「…‥あー、これ?なわけないでしょ」
こんなこと高校の時からされてたら、私間違いなくこいつのこと殴り飛ばしてるんだから。一緒に住みだしたから慣れたからいいけど。
「直けっこう冷たいもんなー。高校の頃よりはまるくなったけどさ」
「それお互い様でしょ」
鼻をつまんでやれば、「痛い」と聞き取りにくい声で言ってきた。ふんと鼻を鳴らしてから、引っ張って鼻から指を離してやれば、凛久はひりひりするのであろう鼻をおさえていた。
「やっぱりあんたたちただのバカップルでしょーが」
「だよなー!」
「は?どこ見て言ってんの」
「相変わらず正反対の意見だなぁ」
恵はケラケラと笑って、時計を見るとギターを持って立ち上がった。
「もう練習の時間か、」
「ああ。俺もう行くねー」
「おう、練習頑張ってー!じゃ、私たちもそろそろ帰ろうっかな。凛久車行くまでに今日の晩ご飯考えといてよ」
「よし、今日は直、」
「飯いらないの。あ、そー」
「ごめんって!」
凛久は慌てて言葉を訂正する。それを無視して身支度をするりんを見た。
「んじゃ、先行くね。また明日」
「ん。また明日ね」
りんに手を振ってから、廊下を凛久と歩く。外に出ると、夕方というのもあって、急激に冷え込んでいた。凛久に晩ご飯を決めておけとは言ったものの、今日は温かいもの以外は受け付けないようにしよう。うん、そうしよう。
「やっぱ寒くなったねー」
手に息をかければ、息はほんのり白くなって空気にまぎれた。白くなった息を見ると、もうそんな時期かと思ってしまう。今年は冷え込みが早いななんて思っていると、隣から手を引かれて、ぎゅっと手を握られた。相変わらず大きなその手は冷えというものを感じないのか、単に平熱が高いだけなのか、人並みよりも温かい。
「今日はなんか温かいもの食べよっか」
「お、気があったね」
「いや、今のほぼ言わせたに近いからね。寒いなんて言われたらこう言うしかないでしょ」
まぁだいたい作るの私なんだから、実権握ってるのって私なんだけどね。
「今日はそーだなー、クリームシチューっていうのはどうだ!」
「お、いいね、それ。って結局直が晩飯のメニュー決めちゃってるし」
「今いいねって言ったじゃん」
「野菜たっぷりがいいなー、俺」
「はいはい。じゃあ一緒に買い物行こっか」
凛久に運転を任せて助手席に座り込むと、凛久は車を発進させた。こうやって凛久の運転で帰るだけでも、こうやってしてるのが、実はけっこう好き。絶対に言ってやんないけどね。調子乗りそうだし。




