黄金のリンゴ争奪戦(1)
「だいぶ冷えるようになったね」
隙間風が入る廊下を凛久と歩きながら手にはぁっと息をかける。夏休みも終わって、すっかり秋色になった10月ももうすぐ終わる頃。大学内は学園祭の準備で賑わっていた。こういうのは高校とあんまり変わらなかったりする。相変わらずミスコンとかはあるし、仮装パーティーとかもあるし。きっとハロウィンにちなんでるんだろうけど、去年のことを思い出すとちょっとうんざりしちゃったりする。
「去年の直思いだすわー。美人で男前だったよな」
「思いださんでいい!ていうかそれ抹消して、ほんと」
人生の汚点といってもいいくらいなんだから。あの後の反響もすごくって、しばらくはほんと有名人扱いされて、街歩けば指さされるなんてこともあったんだから。
「いいじゃん、あれもいい思い出でしょ。それに、今年からは大学なんだし出ないんでしょ?ミスコン」
「当たり前なこと言わないでよ」
ミスコンなんか誰が出るか。
即答で返してやると、凛久は少ししょげたけれど「まぁいいか」と流してしまった。
「つーか、ミスコンって女の子だけじゃないでしょ。あんたはでないの?」
「んー?直が出てほしいって言うなら出るけど?」
「…まんどくさいな、お前」
「ちょ、嘘だって!」
なんでこんなめんどくさいやつ隣に連れてんだろう。あーもー、うっとうしい。
私は真っ直ぐな廊下を凛久より早くすすんでいくが、凛久が走ってきたせいですぐに追いつかれてしまい、あげくには手を握られてしまった。
「ここ学校なんだけど?」
「知ってるー。でも気にしなーい」
「気にしろ、あほ」
ぺしっと私よりも上にある頭をはたいた。こういうとき、凛久はなんでか叩かせてれて、そのために頭を少し下げてくれたりする。ドMなのか優しいのか、ちょっと疑いたくなる瞬間だったりする。
「あ、」
凛久と手をつなぐつながないで廊下の真ん中で痴話げんかをしている時だった。前から人が歩いてきて、私たちの前に止まった。あ、邪魔なんだなって思って凛久を引っ張って廊下の端にどいたけれど、その人はいっこうにそこを通らなくて、ただじっと立ち続けている。どうかしたのかと思って見てみれば、そこにはいつぶりかの春にあった凛久の先輩が立っていた。ただ、私をすっごく睨みつけていた。
「岸谷先輩、」
「久しぶりね、凛久君。梓でいいって言ってるのに」
「いや、それはちょっと」
凛久は濁したように、そして逃げるように笑顔を作って、微妙に私の陰に隠れた。といっても私の方が背が低いんだから、まったく隠れられてないんだけどね。
凛久に挨拶をしてから、岸谷先輩とよばれた女の人は私をきつく睨みつけた。相変わらずの威嚇っぷりに呆れていると、彼女は驚くことを言いだした。
「ミスコンで私と勝負してください」
「嫌に決まってるじゃないですか」
意味を理解するよりも早く、ミスコンという言葉に反応してしまった私は否定の言葉を口にしていた。口元をおさえて一歩下がれば、凛久にあたってしまった。ちらりと見た凛久は呆れた顔で私を見ていた。
「逃げるんですか?」
「や、逃げるとかそういうのじゃなくて‥なんであんたと勝負なんかしなきゃいけないわけ?」
「それは私が凛久君を好きだからです」
先輩ははっきりとそう言った。
「だから私と勝負してください。もし私が勝ったら凛久君とは別れて」
「いや無理だし」
また、条件反射で否定の言葉を口にした。先輩は顔を引きつらせて私を睨みつける。綺麗な顔をしているぶん、睨むと半端なく怖い。ヒールのせいか、私より身長が高くて、それがより怖く見せている。
「それともあれ?ミスコンなんかじゃ勝てないっていうの?」
「なんであんたはそんなに自信過剰なんだよ」
「だって私あなたより可愛い自信あるもの」
「先輩、俺の彼女とぼすのだけは許しません」
今まで後ろに立っていた凛久が私の前に出た。大きな背中が前にやってきて、少しだけ心臓がどきっとした。ていうかもっと早くから庇えよな。
「じゃあ凛久君はその子がどの子にも負けないって思うんでしょ?もちろん私にも」
「決まってるじゃないですか」
「じゃあいいじゃない、出たって。でしょ?」
「わかりました」
「っはぁ!?凛久あんたなに勝手なこと言ってんの!?」
何乗せられてんの、こいつ!?私さっき、ミスコンには出たくないって言ったよね!?ほんっとに何考えてんの!?
「楽しみね、ミスコン。そうだ、私、去年のミスコンで優勝してるの、言い忘れてたわね」
先輩は嫌な笑みを浮かべてヒールをカツカツ言わせて私たちの前から去っていった。その後ろ姿を見る凛久の腰辺りをとりあえず1発殴っていおいた。つーか去年のミスコン優勝者ってなによ、それ。なにあのふざけた女!
「怒ってる?」
「これが怒ってないように見える?」
イライラMaxなんですけどね。
「じゃあ俺もミスコン出るわ」
「は?」
「それでわけわけね」
いや、なにがわけわけなんだよ。痛み分けにもなってないんだけど、お兄さん。




