入学式開始一時間前
桜が綺麗な並木道を通り抜けて、僕はドキドキとワクワクの二重奏に押し潰されそうになっていた。今日から僕は高校生で中学生の時とは違い自分の行動に責任を持たなくてはイケない、そう思うと気が気でなく腹部が痛くなる。しかしその反面、新しい友達はできるかなとか可愛い女の子は何人ぐらいいるだろうと期待に胸をふくらませていたりもする。
(駄目だ。緊張して足が動かない……)
風が吹いて髪の毛が乱れながら正門までやってきた途端、僕はテレビのリモコンで停止ボタンを押したかのように静止、それに続いて両足が小刻みに震えた。張り切って一時間も早くに家を出たのがあだとなったのか、緊張は頂点に達し眼前が霞んできたような感じがした。しかし、運良く周囲に人はおらず自分の腑甲斐ない姿を見られる事はない。もしこんな姿を誰かに見られたら、顔から火が出るかもしれない。
(まだ時間はある。一先ず今は、落ち着こう)
そう思いさっき僕が通ってきた並木道へと振り向くと、桜が舞い上がっていた。僕は口をぽかんと間抜けに開けて、呆然たる面持ちでその光景を見つめる。
「うわあ……すげー。こんなの初めて見たよ」
思わず口から出てしまったが、誰もいないのでまあいいやと思ったが、
「綺麗だよね。私も初めてだよ、君と一緒だね」
横からの声、女の子の。
「えっ!?」
僕は驚き大きな声を出して横へと視線を合わす。するとそこには、桜色のほっぺをした少女が前を向いていた。名札には1年2組と真新しく書かれていて、僕は直ぐにクラスメイトだと分かった。
「君はさっき両足が小刻みに震えていたけど、ひょっとして私に一目惚れしたのかな?」
桜色のほっぺでニコッと笑いながら質問。初対面なのに何なんだ、この女の子は。
「アレは……緊張して震えていたんです。因みに今は少し楽になりました」
僕もニコッと笑った。楽になったのは君が話し掛けてくれたからだよ、と言えればカッコイイのだろうか。
「そうですか。実は私もずっと緊張していてるのですが、貴方にならちゃんと言えちゃうかもしれません! 勇気を出してきいちゃいます!」
ニコッとしながら学校指定の鞄から何かを取り出すと、同級生の少女は人がかわったかのように目付きが鋭くなった。この瞬間、風が止み桜はハラハラと地面へ。
「――君は、人を好きになった事がありますか? lOveでもlikeでもどっちでも構いませんが、人を、家族や友達や仲間や先輩や後輩を好きになった事ありますか? 私は残念ながらそんなの無いんです。好きだと思った事なら何度もありますが、その胸を相手に伝えてないし相手が受け入れないとこーいうのは駄目駄目だと思うんですよ。片一方が好きで片一方が嫌いだったら、天秤は傾くし釣り合いませんしね」
言い終わると、再びニコッとした顔に戻る。何故学校指定の鞄から取り出したまりもっこりを握りながら突然そんな事を言ったのかは謎。しかし目の前にいるクラスメイトの女の子は僕の答えを待っている。何か言わないと!
「ん〜。僕にはよくワカラナイけど天秤は別に釣り合わなくても良いと思うよ。だって、釣り合わない=嫌いって決まったわけじゃないし。何でもかんでも釣り合うなんて不可能だし、傾いてるのが普通だと思うんだけど違うかな?」
初対面の女の子に何言ってるんだろうと思ったが、気付いたら口が動いていたから諦めた。
「そうなんですか〜。外見で決めるんじゃなくて内面を見ろ、全然知らないけど自分で知ろうと努力する、例え相手が嫌いでも好きになると言いたいんですね」
まりもっこりを僕に手渡しながら言う。
「そうなの……かな?」
「じゃあ私と付き合って下さいお願いします!」
「えっ」
「会ったばかりの同級生でも好きになれるかを試したいんです。例え恐い顔でも不細工な顔でも、話してみないとその人の事なんて何もワカラナイじゃないですか。見た目で判断するのは差別みたいな感じだし、私はそんなの――――」
コレは告白なんだろうか。ドキドキとかキュンキュンしてるから、告白なんだろうか。
「君は超緊張してると思うけど、私も実は超緊張しているのだよ。だから、もう一つまりもちゃんを鞄から出さなくちゃ」
何故緊張したらまりもっこりを出さなくちゃイケないのかはワカラナイが、僕はどうすれば良いの?
「って事で私と君は今日からバカップル! 色々バカな事やっちゃおう、例えば人前でディープキスとかモノマネとか耳たぶの触り合いとか×××××とか」
頼むから普通のカップルにしてくれ! ……×××××って何なんだ、気・に・な・るー!
「さっ、時間がくるまでディープキスだ☆」
桜色のほっぺの少女とカップルになった僕は休み時間彼女に体育館裏に呼び出されて、
「まりもっこりより好きになれるよう努力するよ」
と言われ落ち込むのだった。……えっ、終わり?




