8話:友人(前編)
投稿が遅れてしまって申し訳ありません。
そして今回は料理分がありません・・・
その日、マサハルは突然の訪問者にうんざりしていた。
その客が「良庵」を10日連続で訪れたからである。
しかも、料理を注文するでもなく依頼をするだけ。
断っても翌日にまた来て同じ事を繰り返す。
はっきり言って商売の邪魔である。
しかし、腕ずくで退ける事は出来なかった。
その訪問者はヒノモトの役人であったのだ。
「何度来られても無駄ですよ。」
マサハルの返答は遠慮の欠片も無かった。
最初は丁重に断った。
「他にも適任者はいる。」
「客でないなら依頼は受けない。」
など、手を変え品を変えて断り続けた。
しかし、断るごとに高圧的になる役人を相手にするのが面倒になった。
とにかく面倒になったのでマサハルはある条件を持ちかけた。
「国の正式な命令書を持ってくる事」
本来なら女王か各部門を統括する重役達が発行する公式な文書。
こんな場末の飯屋に赴くような立場の役人が持てるような物ではない。
これで寄り付いて来ないだろうというマサハルの目論見は悪い方向で裏切られた。
ニヤニヤとほくそ笑んだ役人は命令書を持ってきた。
これで自分に逆らい続けていた男も従わざるをえまい。
ある種の征服感に満ちていた役人を見るマサハルの表情は憐憫であった。
「お断りいたします。」
「なっ・・・!?貴様が言い出した事だぞ!!」
「そもそも、この種の事柄に関しては当人達が嫌だといえばそれまでなんですよ。
命令書なんて作れる訳がないんです。」
「ただの飯屋の主がそこまで分かるはずがないだろ!!貴様、よもや初めから騙すつもりであったか。」
まさか自分が飯屋の主如きに手玉に取られるとは考えてもいなかった役人は、
完全に頭に血が上ってしまう。
マサハルは真っ赤になった役人の顔をみて肩をすくめ諌めようとする。
「何度断ったと思っているのですか?今なら文書の偽造については口を閉ざしますが。」
「うるさい!!そんな事しなくても、私が上に掛け合えばどうとでもなる!!」
武士が、役人が町人に馬鹿にされる。
それは、支配する側の役人達にとってあってはならない事であった。
そうなった場合の対処法は存在した。
それが無礼射ちである。
鞘から刀を抜く役人。
それを見てもマサハルは全く動じなかった。
「店内では抜刀を厳禁にしてるんですがね?」
「黙れ!!これは正当な無礼射ちである。取り消してほしくば土下座して詫びろ!!」
無礼射ちは支配階級である武士の威厳を守るために定められた特権ではあるが、
行使する際には様々な制約も存在した。
その制約のために、あまり行われないのが現状であった。
この場合は、
・マサハルの抵抗は当然の権利である。
・返り討ちにあって生き延びた場合、不心得者として家の断絶もあり得る。
・役人の正当性を証明する証人を用意する必要がある。
などが挙げられる。
マサハルにとっては、自身の抵抗の正当性を証明できるし、そもそも負けるつもりがない。
後々営業に差し障るのが面倒なだけであって、やってもやらなくてもどうでもよかった。
「いや、別に無礼射ちなんですから掛かってくればいいじゃないですか。
当然抵抗もしますし、なった場合でも貴方にとって面倒になるのでは?」
どうでもいいが、ミコトやガウに迷惑はかけられない。
そう考えたマサハルは役人を諌めようとする。
しかし、頭に血が上った役人の耳にはどんな言葉も入らなかった。
そして、「良庵」にとっての禁句を最悪のタイミングで発してしまった。
「こんなチンケな店など、私の力があれば取り潰す事も出来るのだ!!
さあ、這いつくばって詫びるか大人しく切られるか選べ。」
マサハルの表情は変わらない。
しかし、自身の持っている権力に気付き、マサハルが押し黙った状況に
彼が怯えていると恍惚としている役人は変化に気付かなかった。
「お前、今なんて言った?」
「良庵」の肉体的接客担当のガウの乱入である。
ガウは右手で役人の襟元を掴み上げ、左手で役人の手首を握り締める。
そのあまりの握力に耐え切れず役人は刀を取り落としてしまう。
「き、きしゃ「お前、何もしゃべるな。」ひぃっ!?」
ガウの眼光の鋭さに抵抗しようとした役人は射すくめられてしまう。
ジタバタと動いてみたものの次第に首を掴まれた猫のように大人しくなってしまった。
「主、俺はちょっとこいつと話をしてくるぞ。」
「お役人にあまり乱暴はしちゃいけませんよ?」
「分かってるぞ~。」
ちょっとゴミを捨ててくると言わんばかりのガウと遊びに子供を送り出すかのマサハル。
先ほどまでとは一転して、空気が軽くなる。
どんな修羅場でも一瞬で氷解させてしまう。そんな雰囲気を2人は持っていた。
さて、役人を持ち上げたまま路地裏に入ったガウ。
面倒を起こす客にするのと同じように役人に話しかける。
「主の飯はよ・・・」
「主の飯はよ、美味い事は確かだが一番じゃないぞ。
出してる料理も料亭のような上等なシロモンじゃないし使ってる材料だって特別じゃねえぞ。
なにより主自身が一番の料理人でもねえぞ。」
頭の悪い話し方ではある。しかし、口調の熱から彼の本気の度合いがにじみ出てくる。
襟元を持つガウの腕にさらに力が入る。苦しいのか恐怖からか役人の顔色が
蒼白になるのも構わずガウは更に言葉を続ける。
「だからよ。客として飯を食いたきゃ文句は言わないぞ。
不味いなら不味いと言っていい。
ただし、店潰そうと思うんなら・・・覚悟を決めるんだぞ。」
ガウは食うことは好きでも料理を作る事に興味はない。
しかし、マサハルとミコトと仕事をする、共に過ごすという事は何よりも大事だった。
ゆえに二人に危害を加えるもしくは悲しませる者は彼にとって等しく敵であった。
「どんな奴が客だって、悪いことすれば俺が叩き出すぞ。
そんで、お嬢や主に手を出そうってんなら俺が叩き潰すぞ。」
彼にとっての天誅を下すべく、ガウは拳を握り締める。
指を折り曲げるたびにゴキゴキと音が鳴り、相当な力で握られる事が明らかになる。
ガウは殺す事は考えていない。1発殴って2度と近寄らなければそれで良かった。
役人は自分の死を直感し、「ひっ」と悲鳴を漏らす。
「そこまでにしてもらえないか?」
路地裏に別の男の声が響き渡る。
ガウは殴ろうとしていた手を止めた。
その声の持ち主を知っていた。
その人物はマサハルの友人でヒノモトの重役。
そして、食べることよりも戦うことが好きなガウの「腕試し」の標的の1人でもあった。
「なんだ、ヒスイのおっさんか。」
「おっさんはひどいな・・・俺はお前の主と同じ年なんだが?」
「主は主だ。おっさんはおっさんだ。」
「訳が分からないな。それよりもだ、その者を解放してもらえないか?
顔が真っ青で死にそうだ。」
「・・・ふんっ。」
どさっと役人を落とす音が生じる。
役人は我に返ると這い蹲りながらアタフタとその場から消え去った。
後に残るはガウとヒスイと呼ばれた男。
両者は見詰め合いつつもいつでも動けるように構える。
ピーンと張り詰めた緊張感が周囲を覆う中、膠着を打破したのはヒスイだった。
溜息を付き、構えを解く。
「なんでお前の店に飯を食いに行くだけでこんなに疲れなきゃならんのだ?」
「俺が戦いたいからだぞ。けど客なら仕方ないから諦めるぞ。」
あからさまに残念そうな表情を浮かべるガウ。
両手を頭の後ろで組み何事もなかったかのように会話を続ける。
「そうしてくれると助かるな。」
「“四刃”とやる機会って全然ないからつまらんぞ。」
「こっちにも公務というものがあるのでな。そうそうやり合えんさ。」
「四刃」。
女王ツバキが登用した若者達の中で大小様々な任務をこなしてきた4人の武の英雄達。
現在この4人はヒノモトの家老職についており、国家の舵取りを担っていた。
巨躯で敵陣に殴りこみ、時には味方を守る壁になる重装の武士「鋼刃」斉藤富嶽。
精霊の力を借りた術で遠距離攻撃に優れ、文にも明るい巫女「精刃」斉藤琴音。
苗字から推測される通り、この2人は夫婦で生まれてくるであろう子供は、
次代のヒノモトを担うであろうと期待されている。
圧倒的な速さと身軽さで敵を翻弄し、美貌から舞姫とも称された剣士「空刃」大久保刹那。
ヒノモト統一の際に先代当主が領土の殆どを返上し、実質的な力は殆ど失ったものの、
「武神」大久保幻斎の威光と共に隠然たる影響力を保持している大久保家の現当主である。
そして、ガウの目の前にいる人物は、「武神」が引退した今、現役最強と言われている
希少な技術である陰陽術と剣術の両方を駆使し距離を選ばず戦える武士「妖刃」石橋飛翠
その人であった。
こんな時間の投稿で頭の中がボーっとしてます。
しかも料理を絡めるかどうか最後まで悩みました。
悩んだ末、前後編になりました。
また、新キャラです。
とりあえず、ガウとヒスイは準最強キャラです。
バトル?難しい事は書けません。
マサハル?最○キャラの予定ですw