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小さな飯屋の繁盛記  作者: 大原雪船
第1部
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6話:再会

今回は料理分は少なめです。


少女には友達がいなかった。

周りの人間はいないように扱った。

少女は声をあげた。


-私はここにいる!!-


けれでも、少女の声は誰にも届かなかった。



少女はある日、川原で仲が良さそうな女の子と男の子に出会った。

少女は何回叫んだであろう言葉を放った。


-一緒に遊ぼ?-


2人は快諾し、日が暮れるまで3人で遊んだ。


 

それからも3人は、よく遊んだ。

鬼ごっこ、男の子が2人を捕まえられずにヘトヘトになった。

ままごと、なぜか男の子が情けない顔をしてお母さん役をした。

お手玉、不器用なのか投げては少女の頭によく落ちて笑いあった。



しばらくして、女の子が来る機会が減っていった。

少女が訳を尋ねても、男の子は力なく笑うだけだった。

少女と男の子は一緒に遊んだ。 

折り紙を折ったり、おはじきをしたりと2人で出来る遊びに変わった。

それでも少女は楽しかった。



別れの日は突然やってきた。

男の子が知り合いの家にしばらく行くというのだ。

少女は行かないでと泣いた。

男の子は行かなきゃならないと泣いた。

男の子は友達の証と折り紙で作ったキツネを渡した。

少女はお返しにどんぐりで作った首飾りを2つ渡した。

女の子にも渡してほしいと。

そして約束した。


-また遊ぼうね-


2人は川原で日が暮れるまで遊んで、別れた。



しばらくして、男の子は帰ってきた。

しかし、少女の声は男の子に届くことはなかった。

男の子は日が暮れるまで佇んでいたが、肩を落として帰っていった。

そんな日が何日か続いて男の子は来なくなった。



少女はまた独りになった。





最近ミコトが変だ。

そんな話を常連客の1人がマサハルの耳に入れた。

所構わず独り言をぶつぶつ呟いているというのである。


「一昨日よ、神社でお嬢を見掛けたんだよ。

 日が暮れかけてたんで早く帰れよって注意したんだが、

 誰もいない所に手を振って、また明日って言ったんだ。

 誰もいないって言ったら、そこにいるよって不思議そうに返すもんだからびっくりしたよ。

 女将さんがたまにしか帰ってこないから寂しいってのもあるだろうが、

 大将もたまには家族水入らずで旅にでも行ったらどうだい?」

「心配をかけてすみません。ミコトによく聞いておきます。

 温泉にでも連れてってやりたいのはヤマヤマなんですが、

 値上げするかツケで飲み食いさせないって事しないと費用を捻り出せないですよ?」

「うわっ!?藪蛇かよ・・・まぁ一応伝えたからな。」

「ええ、ありがとうございます。」


常連の話にマサハルは首を捻る。

最近、ミコトに新しい友達が出来たと聞いたからだ。

晩飯時には何をして遊んだだのを楽しそうに話す彼女を見て嬉しく思っていた。

確かに、マサハルの家庭は町内でも世間から見ても普通ではない。

普通ではないが、それでも上手くいっていた。


ミコトにも店の手伝いなどで負担を強いている部分はある。

母親がめったに帰ってこない事で寂しがらせている自覚もあり、

何とかしたいと常々考えている。

解決する方法は分かっていても、すぐには実行できない。

その事は家族でよく話し合った結果をもっての現状であり、ミコトも納得していた。


(いかん、それじゃ逃げじゃないですか・・・)


「ただいま~。」


思考のループに陥る寸前で我を取り戻すマサハル。

ミコトが何時もより早過ぎる気もするが、帰ってきたようだ。

いつまでも沈んだ顔をしていられない。

両手で頬をパンッと叩いてミコトを出迎えた。


「おかえりなさい。今日は早かったね。」

「うん、友達とおうちで遊ぶの~。」


誰かを連れてきたような口振りだが誰もいない。


「誰もいないようですが・・・」

「父様も見えないの?この子もこんにちわって挨拶してるよ??」


眉を潜めて悲しそうな顔をするミコト。

嘘を言っていると疑う気はないマサハルはミコトの周りを凝視する。

どれだけ目を凝らしても何も見えない。

しかし、何故か懐かしい気配はした。


「父には見えないし聞こえないですね。ちなみにどんな子なんだい?」

「えっとね、白い着物着ててね、頭にキツネの折り紙のせてるの。女の子だよ。」


マサハルの脳裏に懐かしい思い出がよみがえる。

昔、共に遊んだ少女の存在を。

その時貰った首飾りはミコトが身に付けていた。


「そっか・・・そうですか。父は晩御飯作りますから、上で遊んでいなさい。」

「父様のご飯すっごく美味しいんだよ~。父様今日は何~?」


献立は決まっている。今決まった。


「後のお楽しみですよ。」



それからマサハルは乾物屋に駆け込んで材料を仕入れた。

店に戻ると鍋に火をかけ材料を煮て、丁寧に灰汁を取っていく。

それが終わると米と一緒に炊き上げる。

炊き上がった飯をお握りにし、皿に積んでいく。


「出来ましたよ。一杯作ったから喧嘩しないようにね。」

「あ!!小豆ご飯だ~。」


昔は、一緒に食事をする事がなかった。

少女が何者なのか特に気にもしていなかった。

遊ぶ事で頭が一杯だったからである。


今なら分かる。

なぜ、自分達の前に姿を見せなかったのか。


(いや、それは違う・・・)


自分達が見る事が出来なくなっていただけのことで、少女は確かにいたのだ。

そして時は過ぎ、娘の友達として再び現れた。

姿は見えないし声は聞こえないが確かにそこにいる。


「久し振りですね。元気にしてましたか?」


積もる話は食事をしながら。

あの時の女の子と結ばれミコトを授かった。

貰った首飾りは、壊れると引き換えに妻の命を守った。

他にも報告したい事は山ほどあるのだ。


「父様、見えるようになったの??」

「いいえ、見えませんよ。ただ分かるんです・・・」




独りぼっちの少女は懐かしい匂いのする女の子と出会った。

そして、かつての友達と再会した。 

相変わらず見えないし聞こえないが、2人の意思は通じ合っていた。

マサハルは少女が店を訪れる度に小豆飯を振舞った。

大人になった彼には、”座敷わらし”の少女は見えなくなったが、

絆は確かにそこに存在した。


大学時代に遠野に旅行に行って記念館を見学したときに、

初めてその存在を知りました。

女の子とも男の子とも言われている小さな幸運の使者。


汚れちまった私には見えないでしょうが、

来てくれる事を祈りますw

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