16話:師の壁(その5)
更新が滞りましたm(__;)m
色々事情がありますが本気で書けませんでした。
日々更新されている他の作者様はどうやって作品作りをしているのか
本気で気になる今日この頃です。
「さてと」
まな板一杯に広がる切り身を前にマサハルは思案する。
一人でテンションの上がっている椿を幻斎に押し付けて厨房まで来た。
幾つかは作る料理も思いついた。
その証拠に一品目はもう出来ていた。
骨に微かに付いた身を落とし、刻み潰す。
刻み潰した身を酒と味噌に摩り下ろした生姜とで混ぜ合わせる。
最後に刻んだネギをパラリと振りかけて完成。
ただそれだけである。
単純ながら良い味に仕上がったと自負できる出来だった。
「ぐちゃぐちゃ」
「そうそう。その調子ですよ」
これならある程度準備してやれば刃物も要らないのでアスカにも出来るだろうと
竹製の包丁を渡してトントンと叩かせてやる。
ミコトやアスカは自分達も手伝うと言って喜び勇んでマサハルに付いてきていた。
たどたどしいリズムながらもアスカは一心不乱に包丁を振る。
ミコトには丼物の指示を出した。
食べやすい大きさに削ぎ切りにし、ネギを刻む。
味醂を鍋に入れ一煮立ちさせたら擦った山葵と醤油を混ぜ合わせマグロを漬け込む。
味醂を使うと言った時ミコトに大層驚かれた。普段は飲み物として使うのだから当然だろう。
「母様が聞いたら怒っちゃうね。勿体無いって」
しかし味醂を使う事により魚の生臭さを消す。それはヨネに教わった技術の一つであった。
その間にマサハルは汁物の準備をする。
(よくよく考えるとシビも使えない所がすごく少ない魚なのかも知れませんね)
己の知識を参考にするとアイデアはたくさん思いつく。
マサハルが汁物に使う部位。
それはある意味でその事を象徴するものであった。
一方、マサハル達の料理の完成を待ちつつ椿と幻斎は差し向かって酒を呑んでいた。
「姫様、酒も程々になさりませんと・・・」
しかめ面で幻斎がたしなめる。
椿の酒好きは今に始まったことではないし、強さもその辺の飲兵衛とは比較にならない。
それでも言わずに居られないのが幻斎の性分でもあった。
椿もその辺りの機微を理解しているからかやんわりと否定する。
「酒は我と対等に付き合ってくれる数少ない友ぞ?
友を遠ざけるのは傅役として、どうかと思うがな」
とんだ屁理屈である。
しかし、一方の幻斎も負けてはいなかった。
「良き友であれば喜んで受け入れましょう。
されど酒は姫様を惑わす奸臣でござりますれば」
「おいおい。友だといっておろうに」
「友とて日によって気分や機嫌が違うものでございます。
自分の都合にばかり巻き込んでは真の友とは言えますまい?」
「我に飲まれるのだ。酒とて喜んでおるさ。
少なくとも我は一度とて酒を疑った事がないぞ」
「それは王たる者の傲慢でしょうな」
言うも言うたり。
お互いの主張は平行線のままである。
なおかつお互いに表情を変えない。
椿は余裕を含んだ嫣然とした笑みを浮かべたままであり、幻斎は威厳に溢れた雰囲気で眉を顰める。
言葉の駆け引きにおいては共に百戦錬磨。
それもあるが、気心が知れすぎていると言っても過言ではない位の間柄の二人である。
「隠居したのに前に出てくるのが好きな爺だ」
「将や臣の役目は退いても、姫様の傅役を辞した覚えはございませぬな」
一線は引きつつも遠慮の欠片もない言葉の応酬が更に繰り広げられた。
この場に余人が存在すれば、延々と終わらないのではないかと思わせるやり取りを
終焉させたのは幼子の稚拙ながらも純な感情であった。
「けんかはよくないって父しゃまがよくいってる」
小鉢を載せた盆をプルプルと持ったアスカの乱入で二人のやり取りは霧散する羽目になった。
漫画でも味醂を飲用の題材にしているシーンは時々見かけます。
私はまだ体験がありませんが、一度は飲める味醂を口にしてみたいものです。