9話:笑顔の裏
「琴音にとって良太ってのは『本気になったら凄いのに全然やる気を見せない困った弟』って
存在だっただろ」
「言い得て妙じゃな。じゃ、今はどうなんじゃ?」
「そりゃ・・・『せっかく発揮した能力に合う職責に付かずふらふらとあちこちで遊び歩いてる
何を考えてるか分からない本気で困った弟』じゃないのか?」
「ガハハ。嫁と姉との間で良太殿を巡って家や臣を巻き込んで争っているって事かい。
それをもう一人の嫁が止めようともせん。それこそ困った事だの飛翠殿」
「お前達・・・いい加減な事を言わないで貰おうか」
「「・・・はい、すみません」」
あまりの沈黙に耐えかねたのか、なぜ琴音が「大久保良太の天敵」と称されるまで
マサハルに突っかかるのかについて話し合う飛翠と富嶽。
そのあまりの言い様に琴音は二人を鋭く一睨みして撃沈させる。
「ふふふ。さしもの鋼刃殿も奥方を前にすればかたなしのようですね」
「あんたも余計な事言わない」
「・・・はい、すみません」
「刹那母様強いね~アスカちゃん」
「かあしゃま、つよい」
富嶽と飛翠がへこまされる。
そんな珍しい光景に思わず合いの手を入れたマサハルだったが、
やはりというべきなのだろうか刹那によって撃沈する。
幾つになっても男というのは馬鹿であり、女には敵わないものなのかも知れない。
「いい加減本題に入ってもらおうか?」
椿の暴露に始まり、マサハルの秘密の発覚・告白と国家レベル的にも黙って見過ごす事が出来ない
イベントが色々あったせいだろう。琴音の声に若干疲れの色が見え隠れしている。
しかし、琴音はまだ終わらないと長年の経験で直感していた。
時折、悪戯をするが如く重大な事をさりげなく言う椿に何処で何をしでかすか分からないマサハル。
この二人が組み合わさって出来たモノは常に琴音の胃をチクチクと痛めていた。
ゆえにまだ「本題」に入っていないと考えていたのである。
「おいおい、この期に及んでまだあるのかよ?俺はここまでで頭の中が一杯なんだが」
「わしもだ。帰って琴音の作った茶漬けでのんびりしたかったんだがのう」
「私もこれで終わったと思っていたんですがねぇ。あ、この汁で雑炊を作るとまた乙ですよ。
試してみますか?」
「お、いいねえ」
「これの雑炊じゃと?酒が欲しくなりそうだの」
飛翠も富嶽も既に思考を放棄していた。
マサハルも困ったように笑いながら新たな料理を勧めようとする。
この辺りはまさに商売人の鑑である。
長年かけて身についたかのような姿勢がまた琴音の気に障る。
それに彼女には分かっていた。
昔は露程も気付かない事だったが椿の補佐をするようになって、人についてよく考えるようになった。
だからこそ気付いた。
細目と性根故に常に笑っているように見えるが、今の彼は間違いなく笑っていない
と。
刹那は何時でも飛び掛れるように力を適度に抜きながら事態の趨勢を見守っていた。
そして、同時に溜息を付きたい気持ちにもなっていた。
(誤魔化せなかったわね)
出来れば気付かずに帰って欲しかった。
夫の告白に頭を痛めながら後日協議するという流れが彼女の理想であった。
これまでなら誤魔化せたのだ。
嘘は付かずとも極一部だけ、本当に大切な事は言わなかったりぼかしたりする。
こういう状況でマサハルのよく取っていたスタンスは昔なら通用していた。
彼の表情も相まってこの手法が非常に利いていたのである。
自分は何故か違和感にすぐ気付けた。椿に言わせると
「女の勘って奴だな」
と笑われたが。
琴音は誤魔化せなかった。それは為政者としての経験の積み重ねあっての事であろう。
彼女が言う「本題」。
それに関しては心当たりは一つしかなかった。
(どうすんのよ良太・・・)
不安気にマサハルを見る。
彼の表情は変わっていない。いつも通りだ。
昔からマサハルは笑っていた。笑っているように見えた。
食事の時も、自分や椿といる時も、料理をしている時もだ。
さらに剣の稽古の時も、幻斎の配下に嫌味を言われた時も、そして戦場でも
マサハルは常に笑っているような顔をしていた。
そして、その裏で様々な考えを巡らせている事を刹那はよく知っていた。
「あー・・・本題と言うには単純で詰まらないものなのですが」
この瞬間のマサハルの顔も困っているのか頬をポリポリと掻きながらも笑っている。
「最近、王位がほしくなりましてね」
だが、呟いた内容は悪辣の一言であった。
GW中は如何お過ごしだったでしょうか。
私は昔の友人に会う事を繰り返していました。
それ以上に酒を飲んでいた気もしますがww
体重計に乗ったらすごい事になってそうだ