表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小さな飯屋の繁盛記  作者: 大原雪船
第2部
28/55

8話:独白後

マサハルの告白を聞いて、店内はシンと静まり返った。

麺を啜る音だけが響き渡る。

ズルズルと啜っているのは明らかに話についていけていないアスカとミコト、

そして二つ三つと丼を重ねる刹那に琴音と見事に女性陣ばかりである。

飛翠と富嶽は腕を組んで目を瞑っている。


一際大きな変化をなしたのが厨房にいるヤンで蒼白な顔色で固まっていた。

それもそのはずである。


どのような分野においても相手が組織であった場合に、

キーパーソンを押えるという事は非常に重要である。

料理人とは言えども使節団の一員として来たヤンにとって、

大久保良太という人物の重要性は嫌というほど認識をしていた。


そもそもヒノモトが条約を結んでいる国はヤンの国の他にも大陸では二カ国存在する。

一つは内乱により大きく領土を失った王朝。

もう一つはヤンの国と同様に内乱によって出来た新興国。

他にも幾つかの小国が存在するが、いずれは三国のどれかに併呑されるだろうというのが

世の見方であった。

そうして三国にまで勢力が絞られた時にヒノモトの価値はますます大きくなる。



そしてヒノモトの総合的な国力は贔屓目に見ても各国の約半分から三分の一。

それでも対等な条件での条約を結べるのは情勢や位置関係もさる事ながら、

女王としての椿の手腕が非常に大きな意味合いを持っていた。


ヤン達使節団が国より通達されている特級のキーパーソンは二人いる。

最強の戦闘者であり大陸にまで武名が広がっている「武神」大久保幻斎

そして、その孫であり権力と実力を兼ね備えた「王配」大久保良太征遥

両者とも国内において椿に匹敵するほどの大きな影響力を保持し、

この二人の動き次第では条約やら諸々が引っ繰り返る可能性も高かった。


幻斎は隠居しており、あからさまに会見を臨むと両国の関係に下手をすると皹が入る。

残る大久保良太は東に居て、こちらも表立っては動けないはずだった。


異国で初めて出来た自分の友人がそんなキーパーソンの一人だった。

しかもヒノモト国内の機密情報を頼んでもないのにベラベラと聞かされた。

ヤンの受けた衝撃は計り知れない物となっていた。

男性陣の二人の沈黙もマサハルの独白に考えさせられたというのもあるが、

ヤンをどう扱うか考えあぐねての事もあった。


「この琥珀の汁は味が薄そうで中々深いな。吸い物よりもずっと濃い。

 それでいてしつこくもない」

「こっちのは見た目ほどくどくないわね。しっかりとした味付けなのにさっぱりとしている。

 大陸の料理を真似たんでしょうけどヒノモトの雰囲気がしっかり出ているわ」

「とうしゃま、おかわり」

「ははは、よく食べますね。大きくなりますよ」

「父様、ミコトもお代わりだよ~」


(アンタ達、こんな状況でのんびり食事していられるのカ!?)


「おっちゃんもそんなに焦る事ないぞ」


重い話を聞いた後とは思えぬ会話に、命の危険さえあるヤンは頭を痛める。

その横ではガウがこれまた平然と麺を啜っている。積み重ねられた丼は既に十を超えていた。

会話の前に浮かべていた獰猛な笑みは欠片も見当たらない。


「心配しなくても主にはおっちゃんをどうこうするって気はねえぞ。

 他の連中は知らんが、そうなったら俺が守ってやるぞ」

「ガ、ガウさん・・・」


感動した面持ちでガウを見るヤン。

ヤンにとっては己の料理を旨い旨いと食べてくれる彼もまた友人であった。

食べ過ぎる事がたまに傷であっても、その食いっぷりには好感を抱いていた。

しかし、この後の台詞で感動したこと自体を後悔する。


「むしろ主仕掛けろ。どっちとやれるか知らんが妖刃と鋼刃、相手に不足は無いぞ。

 奥方殿と精刃との戦いも面白そうだぞ。ん?そうなるとお嬢とチビお嬢はどうするんだ?

 そうか!俺が両方を相手取れば主が護衛に専念できるぞ!!

 そうと決まれば腹ごしらえしないとな・・・おっちゃんお代わり」


(あんたもやっぱりおかしいヨ!?ヒノモトの人達ってこんな人種ばかりナノカ)


これがヤンが初めて抱いたヒノモトに対するカルチャーショックの瞬間であった。

加えて後にヤンはマサハルと大久保良太の二面性に驚愕することになるのであるが、

それはまた、別のお話。

機密情報をうっかり聞いてしまった人が命を狙われるというドラマや映画であるパターン。この話ではそういう事はないです。ご安心をw


今回修正するとしたら、もう少しガウの狂気を表現したいなと思いました。少しずつ力を付けて挑戦したいと思います。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ