5話:独白(前編)
マサハルの心境の告白として一人称に初挑戦します。
戦の終わった後、私はする事がなくなったと思った。
生来、戦が嫌いで仕方がなかった。
しかし武勲で成り上がった大久保家の子として生れ落ちたからには、
戦をするのは仕方のない宿命だった。
逃げる事はできた。されど逃げる気は起こらなかった。
当時、「姫様」と呼び慕っていた椿の傍を離れたくなかったから。
生れ落ちた時から自分を知り、姉として、そして母を亡くしてからはその代わりとして
自分の傍にずっと居てくれた大切な人だった。
それに大久保家の子として生まれなければ妻達に出会えなかったろうから巡り合わせとは
不思議なものである。
まだ齢にして20にもならない若造ではあったが、それなりに濃い人生を歩んでいたと思う。
10の頃から戦場に出で、勝ちもすれば負けもした。
100年以上続いた戦を終わらせるために戦を繰り返す。
どうしようもない矛盾の中、この手で人を殺め配下に人を殺めさせた。
多くの人間が死んだ。算術に弱い自分でも容易に分かるくらいだ。
「数えるのも馬鹿らしい」。
それほど多くの人間が死んだ。
憎悪を抱いた敵国の者も、尊敬の念を抱いた敵国の者も死んだ。
自分に好意を向けてくれた友や配下、自分を侮蔑していた味方に属する者も死んだ。
当然のことながらそれ以外の者も死んだ。
とにかく不作為に死が振り分けられた。
さりとて、戦が終わった後も戦は続く。
人と人が殺しあう乱世ではなく、人が人を治める治世へ。
周りの者は皆動き出していた。
しかし、私だけは動けなかった。
何をすればいいのか皆目検討も付かなかったからである。
癪ではあったが、あの人の言った通りだった。
決戦の終了後、降伏したムネシゲ王と茶を交える機会を得た。
その時の会話を忘れることが出来ない。
「これからお前はどうする?」
「くくくっ、無理だな。お前がお前である限り、これから何も出来ない」
「お前が統治を手伝う事、否、椿を手伝える事など何もない。
これまでのお前が生きながらにして死ぬ事と同様よ。
それが嫌なら、大久保良太征遥を捨てなければなるまい」
「俺を破ったお前に褒美として助言をしてやろう。
お前は王配にして大久保家の前頭首。
お前は意識しておらぬようだが普通に考えれば片方だけでも常人にとっては大きな力よ。
これまで以上にお前の一挙一動が周囲に影響を及ぼす。
権威と権力と実力、これから持つであろう力とその違いについて今一度よく考えよ。
実力にしても、お前自身のもの、大久保家としてのもの、王族としてのものを区別せよ」
「何よりも分かっておかなければならないのがお前自身の事だ。
俺は戦の中でしか生きられぬ。そして大久保幻斎は戦の中でしか輝かぬ。
お前も俺達と同類だが、俺達より極みに進む事が出来る資格を持ちながら、
決着が着いた事で道が閉ざされた。お前という戦人は未完のままとなる。
お前がどんなに否定しようが、事実と真実は時として遥かな隔たりを持つという事だ。
どんな事にせよ、どんな微々たる進みにせよ、極みに近付く事を実感するのは良い物だ。
お前にはそれがより不可能となった。近い将来、お前は自身を持て余す。
されど、お前が無用の長物となる事こそが平和の証と心得よ」
私自身、それがどうしたと最初は思っていた。
しかし、戦の後始末をするうちに次第にあの人の言った事が実感できるようになった。
政の事を学んでも、自分だけでは村規模を治めるのが精一杯の能力で王配としては不十分。
出来る配下に丸投げした方が効率的だった。
軍の事に関わろうとしても、ただでさえ戦乱終結で規模が縮小される中で
前に立つことは他の者の仕事を奪うようで気が引ける。
治安を取り締まろうとしても、決まり事には厳しくとも
臨機応変と称して度々破っていた自分では説得力がない。
若者を育てようにも自分自身が若造でもあるし、お前の修練や技術は異常だから
それを真似ては他が潰れると言われる始末。
どんな些細な事でも良いから平和の役に立ちたかった。
比較的得意と言える家事をしようにも城には専門の者達がおり、彼等の仕事を奪えない。
見回りをしようにも後ろから家臣が集団で付いてこようとする。
苦手だが書類仕事を手伝おうとすると椿の手間が増える始末。
自覚はないが、一番得意と言われている戦は終わっている。
やる事といえば、生まれたばかりのミコトの面倒だけなのだが、
それにも乳母や側付が付いていて二人っきりになれない。
溺れようにも酒は下戸のため呑めない。
女は椿と刹那以外興味がない。それに二人とも多忙のため四六時中共にいれない。
本当に自分という存在を持て余した。
世情と周囲の思惑に雁字搦めにされ身動き一つとれないように錯覚した。
それは、琴音殿の頼みで東に赴いた際も同様だった。
政治に関しては昔から抜擢してきた臣下へ丸投げ。
片手間で済む反乱の鎮圧。
諸事情で娘だけは傍に居たものの家族との別離。
「腰抜け」や「落ちこぼれ」とまで言われる程、騒動を嫌い平穏を望んでいた自分が、
まさか終わったばかりの戦を求めるようになっていたとは露にも思ってなかった。
今回はマサハルさんダークサイドに足を踏み入れてます。
加筆修正でもっと落ちるかもしれませんw
ここが終わればまた料理を絡められるのですが・・・