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小さな飯屋の繁盛記  作者: 大原雪船
良椿統一記(小さな飯屋の繁盛記過去編)
20/55

1話:運命の出会い

過去編の始まりです。


ほのぼのはありますが、位置付けとしては戦記物となります。


この章ではマサハルを幼名の良太で語ります。

ミコトやガウは終盤にちょっと出るだけです。

出番は2部をご覧ください。

それは運命だったのだろうか。それとも必然だったのだろうか。


そんな事は当時の人間達にしか分かるはずもない。


しかし、後世の歴史家達の意見は一致している。


「その物語は少女と赤子の出会いから始まった」と。





「これはなんじゃ?」


少女は初めてみるモノを目の前に興味心身になっていた。

白い布に包まれてスヤスヤと眠っている。

顔にはしわ時折ピクピク動く唇や鼻に少女は一々感心する。

そんな少女の反応に微笑ましさを感じながら薄い黄色の着物を着た長髪の女性は返答した。


「私の息子ですよ」


少女は目の前の女性が子供を産んだ事を思い出す。

見せて欲しいと頼んだものの周りの人間にまだ早いと諌められていたのである。

少女は女性の腕に抱かれた赤子の顔を覗き込み、頬を突いてみる。


「これが赤子というものか。わらわは初めてみるぞ」

「だ?」


赤子はむず痒かったのか身じろぎしながら目を薄くあける。


「おぉ!動いたぞ」


赤子の反応が気に入ったのかさらに頬をプニプニと突く。

感触はとても柔らかで心地よく、それでいて弾力に満ちていた。

少女は夢中で赤子の頬を突付いていた。赤子の表情が歪むのに気づかないまま。

そして、それは訪れる。


「おぎゃあああ」

「ぬあ!?な、なんじゃ」


突然、赤子が火がついたように泣き出した。

少女も突然の事に驚き尻餅をつく。

女性はあらあらと苦笑しながら腕の中の赤子をゆっくりと揺らす。

しかし、なかなか泣き止まない。


「これ、泣き止まぬか。おぎゃあじゃ分からん」


慌てた少女は赤子を説得しようと話しかけるが当然のことながら泣き止むことはない。

次第に少女の目にも涙が浮かぶ。


「う~・・・わらわが泣きたくなるぞ」

「そういう時はこうして抱いてやると泣き止みます」


女性は少女に赤子を抱かせる。

すると、泣き声がピタッと止まった。

それどころか赤子はキャッキャッと笑い始めた。

その様子に少女も女性もホッとする。


「赤子はなくのが仕事でございます。姫様もよく泣いていたと聞いておりまする」

「ふーん。そうだったのかの?」


少女は物心付く前に両親と死別していた。

それからは女性が母親代わりにこれまで面倒を見ていたのである。

気もそぞろに少女は自分の腕の中の赤子をじっと見つめる。

赤子も初めてみる少女に興味心身なのか服や顔を触りまくる。

その様子に少女は鬱陶しさよりも心地よさを覚える。


「わらわも欲しいぞ。どうすればもらえるのじゃ?」

「まだ早ようございます。大人になってからでないと授かるものも授かりません」

「そうなのか・・・ならばこれをわらわにくれ」


少女は赤子をすっかり気に入ってしまった。

腕が疲れるはずなのに高い高いをするなど赤子を自分なりに可愛がる。

赤子も少女に弄ばれるのが気に入ったのか笑顔になってはしゃぐ。

そんな様子に微笑ましさを感じながらも女性は少女を嗜める。


「人は物ではありませんよ。それにこれから、この子の姉としてしっかりして頂かないと」

「なんと。わらわはお姉ちゃんだったのか」

「ええ。姫様の弟として、ゆくゆくは支えとしてこの子は立派に成長してもらわないといけません」

「ふむ・・・そうか。・・・そうか!」


これから赤子とずっと一緒に遊べると思ったのだろう。

姫様と呼ばれた少女-椿の目は輝き口はにやける。

しかし、椿はある事に気づいた。

それはこれから共に過ごすにあたって、とても大事な事だった。


「これの名前は何というのじゃ?」


女性も己の失態に気づき、微笑みながら名を告げる。

彼女の亡くなった夫、赤子の父が悩んだ末に決めた名を。





戦が繰り返されている戦乱の世。

しかし、真っ先に巻き込まれる立場の椿の周囲でもその一時だけは平和だった。


椿の腕の中で笑いかける赤子との邂逅。


それが「大君」椿と「戦極めし者」大久保良太の出会いの一幕であった。

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