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小さな飯屋の繁盛記  作者: 大原雪船
第1部
13/55

13話:マサハルの決断(前編)

沢山の方々に見ていただけ、ポイントもいただいて、

「どうしてこうなった??」

と、てんやわんやしておりました。


ありがとうございます。頑張って作品を書いていきます。


マサハルが最近変だ。

それがミコトとガウの持っている印象であった。

時々上を向いてはため息をつき、腕を組み目を瞑ってジッと考え事をする事が多くなった。


営業中でも時々そんな仕草を見せるため、常連達も2人に

「美人なカミさんに大将が三行半突き付けられたのか?」

「ガウの旦那の食い過ぎで商いが上手くいってないんじゃ・・・」

などと、本人が聞いたら大変な事になりそうな話を好き勝手に尋ねていた。

もっとも、それは料理での失敗がなかったからこその軽口も多く含まれていた。


再三ミコトが注意するものの、時間が経つとすぐに元の木阿弥となる。

何が悩みかを尋ねても、何でもないとミコトの頭をなでてはぐらかしてしまう。


そんな状況から抜け出す兆しを見せたのは休業日であった。

マサハルにとって鬱屈した気分を晴らす方法は娘達と遊ぶか料理を作るしかなかった。


「父様何作るの~??」

「かなり贅沢な異国仕立ての料理ですよ。」





マサハルの料理はヒノモト料理の定石の外れたものも多い。

基本技術は駒鳥屋ヨネに叩き込まれたものの、マサハルの自由過ぎる発想は

彼女をもってさえも、矯正することは敵わなかった。


今回彼が作る料理はミコトが絶句するほど極め付けに定石から外れていた。

彼が材料を仕入に行った場所は、それほどあり得なかったからである。

肉屋はまだしも薬種問屋にも足を運んだのだから。


材料を揃えたマサハルがまず行った事は薬の粉末の調合であった。

仕入れてきた粉末を一つ一つ味見しながら混ぜ合わせる割合を決めていく。

周囲には嗅ぎなれない異臭が漂っていた。ガウは鼻が曲がりそうだと出ていった程だ。

出来た粉末を小麦粉と油で一緒に丁寧に、丹念に鍋の中で炒めていく。

途中で刻んだ長ネギを加え、さらにじっくり炒めていく。

ネギの鮮烈な香りと粉末の香ばしさが混然となり、得も言えぬ匂いへと変化する。


「よく分からないけど変わった匂いだね。だけどお腹が減ってくるよ~。」

「ははは、魔法の粉を使いましたからね。胃の腑が躍っているんでしょう。」


色付くまで炒めたものを水、酒、醤油などで伸ばしていき味が馴染むまで弱火でコトコトと

煮込む。その間に水を張った甕に鶏、牛の肉に人参、大根、白菜などの野菜を一口大に切り

切った材料を投入し火をかける。甕の水が煮立つと鍋の中身を丁寧に混ぜいれた。


「さて、これで後は三刻(約6時間)ほど煮込めば完成ですかね。」

「え?そんなにかかるの!?お腹すいたよ。」

「こればかりは待つしかないよ。夜には食べれるから楽しみにしておきなさい。」


額に汗を滴らせながらも火から目を離さず、それでいて逸るミコトを抑えるマサハル。

その顔付きは結果に完璧を求める職人のそれであった。





三刻後、甕を火から外し蓋を開けると熱気と一緒に濃厚な香気が店内に立ち込めた。

身体の中から食欲を掻き立てる感覚に陥りそうな香りにミコトや店に戻ってきたガウの本能は

食べる事一色に支配されそうになる。また、漏れ出した空気に引き付けられたのか休業日にも

関らず店外でも足を止めた通行人達が扉の前に殺到していた。


「大将、今度はどんな料理作ったんだ~?」

「ちょっとピリピリするわね。」

「お前ら押すなって。店に迷惑かかるだろうが。」

「構わん。押し込んじまえ。」

「おい、誰かそいつ叩き出せ!!旦那と大将に腕ずくで勝てるわけないだろ・・・。」


外の騒ぎに気付いたマサハルは2人に絶対に摘み食いしないように念を押すと、勢い良く扉を

開けた。外に出された香気はますます通行人達の鼻腔をくすぐり口からよだれが

こぼれ落ちそうになる。マサハルの登場に多くの人が沸いた。


「大将~!!」

「早く食べさせてくれ~。」


沸き立つ通行人達を見たマサハルは想定していなかった事態に思わずため息を付く。

まさか、自分の作った料理が騒ぎを起こしているとは考えていなかったのである。


「今日は店は休みですよ?他の方々の迷惑にもなりますから散ってくださいよ。」

「いや、あんな匂い出されたんじゃ立ち止まるなって言うのが無理ですぜ。」

「そうそう、大将もここがどんな店なのか自覚した方が良いって。」


初見で奇妙でゲテモノに思える料理が後の傑作となる店。

食べるのに度胸がいるが一度食べるとやみつきになる店。


それが「良庵」への人々の認識であった。

「良庵」料理は大きく分類して3つのタイプに分かれる。ヒノモトで一般的な料理。

大陸料理をアレンジした料理。最後に、マサハルが独自に作った常識はずれの料理である。

1つ目のタイプは料理の味と良心的な価格のバランスで、2番目と3番目はとにかく味で

客の心を掴んでいた。

今回作った料理は、間違いなく3番目に類する料理。マサハル自身、まさか3番目のタイプが

そこまで大受けしているとは思っていなかったのである。


「今確かに料理は出来ましたが、あれは店で出すものじゃないんですよ。」

「え・・・一口だけでも駄目か?」

「食べてもらう人も決まってますので駄目ですよ。」

「あ、もしかしてカミさんへか?やっぱり喧嘩してたんじゃねえか。」

「大将は謙虚でえらいよ。うちの馬鹿亭主ときたら・・・」

「だったら仕方ないな。今日は帰るか。余ったら食べさせてくれよな。」


はなはだ誤解を与えたままだったが、何も文句を言わずに退いてくれるのであればと

マサハルは余計な弁明を一切しなかった。通行人達の背中へ「またのお越しを」と

声を送り、頭を下げる。下げたままの頭をおもむろに上げると、一顧だにせず店内へと戻った。

作った料理の甕に近づいてミコトが火傷をしていないか心配だったからである。その心配は

杞憂だった。ミコトとガウは甕をじっと見ながら匂いを嗅ぎ続けていたからである。


「早く食べたいね~。」

「腹いっぱい食いたいぞ。」


ここまで自分に言いつけをきっちり守ってくれると、早く食べさせてやりたいという

気持ちにもなるが、あいにく店で食べるつもりは毛頭なかった。食べさせる相手が

他にもいたからである。


「さて、出掛けますよ。ガウは甕を荷車に載せてください。道中こぼれないように固定も

 忘れずに。ミコトは漬物を出しておいてください。何がこれに合うか分からないから、

 なるべく多くね。私はその間に片づけをします。準備が出来たら呼ぶように。」

「任せろっ!!」

「父様どこに出掛けるの?」

「それはもちろんアスカの所ですよ。こういう料理は一緒に食べた方が美味しいですからね。」

「うん♪」





道中、甕から漏れる未知の匂いが通り過ぎる人々の興味を多分に引いたが、

別段騒ぎになる事はなかった。絡もうとする者はガウの風貌に二の足を踏み、

それ以外の者も「良庵」の店主が何か変な物を作ったと認識したからである。


ガラガラと荷車を引く音を響かせながら、しばらく歩くと目的地のアスカの住む家に到着した。

彼らを迎えたのは、美女が二人だった。


「ここに来れば旨い物が食えるという我の勘は当たったようだ。」

「椿の勘もここまで来ると予知に近いわね・・・それより、アンタも来るなら前もって

 言っときなさいよ!!」

「我が告げた途端にあたふた身支度してた者の言う事ではないな。」


腕を組み仁王立ちした椿ともう一人。指摘されると真っ赤な顔して「なんて事言うのよ!?」と

椿に突っかかる。


「ただいま戻りました。元気そうで安心しましたよ刹那」

「ほれほれ、我らが愛しの旦那様が大久保家に帰還じゃ。家人が応えてやらなくてどうする。」

「ぐ、後で覚えときなさいよ。お、おかえり良太。」


マサハルにとってはもう一人の妻で、アスカの実母。それが大久保刹那だった。


前編です。


作ってる料理は皆様ご存知の料理です。

ただし、作中の料理を現実に作ったとしたらマサハルの料理は

皆様には物足りないものになります。

それだけメジャーですし現実では魔改造されてますからね。


もう一つ、終盤ですがこれは誤植じゃありません。

後付設定でもありません。

マサハル=大久保良太です。


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