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小さな飯屋の繁盛記  作者: 大原雪船
第1部
10/55

10話:親子

休日の朝。それは人々にとって惰眠を貪りたくなる特別な時間であろう。マサハルもご多聞にもれず、この日はミコトやガウにせがまれようが少しだけ長く寝ようとしていた。

しかし、その眠りは普段感じない違和感によって妨げられた。


(ん?冷たい?)


外がそんなに暑くもないし寝苦しい夢を見て汗をかいたわけでもない。寝巻きと布団にヒヤリと濡れた感触を覚える。寝ぼけて外で突っ伏しているわけでもない。まどろんだ意識が徐々に醒めていくうちに分かった出来事に懐かしさを感じる。


(あ~・・・そうだった)


マサハルの目に飛び込んだ光景は布団の上に出来た水溜りと、マサハルに抱きついて泣いている少女の姿だった。




「・・・ごめんなしゃい。」

「厠に行きたくなったら起こしなさい。それに寝る前に水も飲まないようにしないとね。」


ぐずる少女の体を拭いてやりながら慰める。

マサハルはこういう事に関してはあまり怒らない。叱り方を知らないのではなく自分にも覚えがあり、子供の頃には誰でもやる事だろうと考えているからだ。親として大事なのは焦らず少しずつ直してやる事。それがマサハルの持論だった。それに、マサハルには少女に対して負い目があった。


「全然怒ってないから泣くんじゃありません。私や母様だってやってたんですから。これから頑張って直しましょうね。」

「ん、アスカがんばる。」

「よろしい!!ご飯にしましょう。食事の準備をしますからアスカは姉様達を起こしてください。」

「はい、とうしゃま。」


アスカ。

普段は別の場所で母親と暮らすマサハルのもう一人の娘。そんな彼女が“良庵”に来たのは、先日起こった騒動(前話参照)のせいだった。


マサハルの指摘により行った飛翠の報告は城の上から下までを揺るがす大騒ぎとなった。事態を重く見た女王ツバキは首都ヤマトを中心にヒノモト中の役人に事態の糾明にあたらせた。実際に偽文書を書いた者、悪用した者には厳罰が科せられ人員の抜けた部署はさらに混乱。その穴を埋めるべく役人達は奔走していた。その影響でアスカの母親も城に朝から晩までこもる日が続き、マサハルがしばらく預かる事になったのである。


「さて、今日は何をしましょうか。」


朝食をとりながらマサハルはアスカ達にその日の予定を尋ねる。アスカが来てからは店を開けていない。貯えに余裕があった事と久しぶりに会う娘との触れ合いを優先した結果であった。ミコトも妹と遊べるために大喜びで、ガウは雑事から解放されることに喜んだ。

アスカが店を手伝うと言い出した事もあったが、


「アスカちゃんがもう少し大人にならないと危ないよ~。」

「おとなって?」

「夜に一人で厠に行けるようになる事だよ~。」

「(ブルブル)・・・がまんしゅる。」


というミコトの説得があったとかなかったとか。

ともかく、絵を書いたり将棋を指したりとマサハルが子供達のやりたい事に付き合うという形で唐突な連休をダラダラと過ごしていた。




結局その日は料理を作ろうという結論になり、団子を作る事になった。

粉に湯を混ぜよくこねる。ちぎって丸めた生地をお湯で茹でて冷やす。

簡単な作業なのだが、子供も混じってやる事である。なかなか想定通りに進まない。


「みてみて~。ウサギさんだよ~。」

「ねえしゃま、すごい。アスカはへびしゃん。」

「あ、もう少し大きくしようね。食べる前にちぎれちゃうよ。」


こねて丸める作業が面白いのか娘達が遊び始めたのである。食べ物で遊ぶなと怒る事も考えたが、自分で責任もって食べるとミコトがアスカに教える様を見せられるとそんな気持ちも霧散する。


(我ながら甘いし、良い娘達をもった。これが親馬鹿ってやつでしょうか。)


マサハルは親の顔を知らない。物心つく前に死別していた。親代わりの人間達から愛情を受けて育ったおかげか寂しさを感じる事はなかったが、彼等から揃って聞かされた。


「お前の両親は死ぬ間際まで愛情を精一杯送っていた。」


その愛情に応え得る人間となったのかは分からない。そもそも、途中まではそんな事を考えた事すらなかった。それでも自分なりに恥じないように生きてきたつもりだった。しかし、親となった今は与えるべき対象に寂しい思いをさせている。

アスカに、そしてミコトに。




「とうしゃま、いつおうちに帰ってくるの?かあしゃまもさびしいっていってるよ?」


休みが続いたある日、アスカに字を教えている際に聞かれた言葉である。

それはマサハルにとって生きてきた中でも上位に入るほど、心に突き刺さった言葉であった。非常に堪えた。目付きや顔立ちによって終始笑っているように見られるマサハルの表情が崩れるほどだった。


「アスカとかあしゃまのこと、嫌いになったの?」

「父様はアスカやミコト、母様の事が大好きですよ。アスカが将来美人さんになるというくらい本当の事ですよ。」


その言葉に嘘はなかった。家族のためならどんな事も成す。それがマサハルの信念だったからである。しかし、それでも今のいわゆる別居の状態は続けざるを得なかった。


「きっと家に戻って皆で仲良く暮らす日が来ます。」

「やくそく?」

「ええ、約束ですよ。」

「アスカまつ。とうしゃまとかあしゃまのむすめだもん。」

「はは、アスカは母様にとても似てるから、きっと強くなれますよ。」


数日後、交わした約束を胸にアスカは家に戻っていった。これが後にマサハルをある方向へと駆り立てる事になるのだが、それはまた別のお話。

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