婚約破棄された瞬間……謎の光に包まれて!? ~今度は彼に出会わないまま生きていきますよ~
「あんたにはもう飽きたよ。ってことで、関係は終わりな」
婚約者アルフレッド・カイサーンから婚約破棄を告げられた、次の瞬間、謎の光に包まれて――気づけば赤ちゃんの姿で見知らぬ豪邸の前に置き去りにされていた。
タオルを敷いたバスケットに布でくるんで放り込まれている。
「あらあら、こんなところに……」
「捨てられてしまったのだな」
やがて、見知らぬ男女が視界に入る。
「どうしようかしら……保護する?」
「そうしよう。このままでは命を落としてしまう」
二人は顔を見合わせて言葉を交わし、その後に女性が腕を伸ばしてきた。バスケットの中に入れられている私の小さな身体をそっと抱き上げる。人の腕に包まれると暖かくなって、心の内まで温かくなっていくような感覚があった。ずっとこうしていてほしい、なんて思ってしまうほどだ。
こうして、なぜか赤ちゃんに戻った私は、豪邸の主ともいえる存在である夫婦に引き取られたのだった。
◆
「お母さま! 問題集できました!」
「もうできたの? さっき渡したところじゃない。サンローリアは勉強が好きね」
婚約破棄されて、光に包まれ、赤ちゃんになって見知らぬ夫婦に拾われる。
何が起きたのかなんて謎のままだ。
けれど私は今、サンローリアとして、拾ってくれた両親たちから愛されている。
「正解しているか確認してほしいです」
「いいわよ」
育ての母は手にしていた白色のティーカップをそっとテーブルに置くと、問題集のページをパラパラとめくり、私が書いた答えが正しいかどうかを見てくれる。
「全部正解ね」
「やったー!!」
今回の人生を生きている中で気づいたことは、私が赤ちゃんに戻っただけではなく時間自体も巻き戻っていたらしいということだ。つまり、私がアルフレッドと婚約し婚約破棄されたあの日には、まだたどり着いていないのである。
……とはいえ、いつかはあの日がやって来る。
今度はもう関わらないようにしようと思う。
また赤ちゃんに戻るのは嫌だから。
同じ展開を繰り返すつもりはない、なので、もしこの先彼が目の前に現れたとしても関わらないつもりだ。
今回はサンローリアとして人生を満喫しきってみせる――!!
ということで、取り敢えず、勉強に打ち込んでいる。
……それに、勉強すればするほど優しい母が褒めてくれるのですごく嬉しくてもっともっと頑張りたくなるのだ。
「じゃあ次はここからここまでね」
「頑張ります!」
「できたらまた持ってきてちょうだいね」
「はい!」
近々特別にハイレベルな家庭教師をつけてくれるらしいとの噂もある。なので、やっぱりやめた、と言われてしまわないためにも、より一層努力していきたい。加えて、努力している姿勢を見せることも大切だろう。分かりやすくやる気を見せるようにしたい。
◆
何人もの家庭教師にお世話になりながら勉強を続けた私は、高度な教育を受けられる学校に女子として初めて入学。卒業後は国の運営に関わる職に就き、政治家のサポート業務や他にも色々、様々な仕事を経験した。そんな中で知り合った高貴な家の出で政治家をしている男性に仕事ぶりを気に入られ、まだ若い彼の息子の教育係に就任することとなる。
「すごいわね、サンローリアさんは。あんな気難しい方に気に入られるだなんて」
「評価されて当然よ。だって誰よりも努力家だもの」
「あのね、あたしっ……応援してるから! 色々あっても頑張って! サンローリアはずっとずっと……キャリアを大切にしたい女の人たちの希望の星だよっ」
そんなわけで、とにかく忙しい日々を送っているのだが、周りの人たちは温かく見守ってくれている。
嫉妬してきたり、毒を吐いてきたり、そんな悪意ある行動をしてくる人はいない。
女性は意地悪、なんて言う人もいるけれど、私の周囲においてはその説はまったくもって当てはまっていない。
◆
気に入ってくれた政治家の息子の教育を担当していたのはいつのことだっただろう。
出会った頃はいろんな意味で未熟だった彼も今や有名な政治家となった。
親の力を利用するのではなく自分の力で道を切り開き政治の舞台に立つようになった彼は、民を大切にする立派な政治家である。
六十歳となった私は、現在、講演活動で国のあちこちを回っている。忙しさは相変わらずではあるが、やりたいことをやっているので日々は充実している。
女性であっても自分の進みたい道へ進みたい、と思っている若者のためになるのだから、私は言葉を惜しまない。そしてもちろん女性だけでもなく。未来を掴み取ろうとしているすべての若者のために、今はただ、言葉を紡いでいる。
そんな講演活動中の休憩時間。
助手が持ってきてくれた新聞を読んでいて、ハッとする。
『アルフレッド・カイサーン、再び逮捕!! 今度こそ処刑される可能性、は……?』
そんな一行を目にしてしまったのだ。
「再び逮捕って……」
思わずこぼしてしまう。
『二年前親族一人の命を喧嘩の末奪った俳優のアルフレッド・カイサーンが、一昨日、交際していた女性二名に暴力をふるう事件を起こした。また、うち一名には特に酷い怪我を負わせており、その女性は病院に搬送されるも数時間後帰らぬ人となってしまった』
アルフレッドは俳優になっていたのか……、と少し驚きつつも、今回の人生では関わらなくて済んだことに安堵した。
『アルフレッド・カイサーンは既に拘束されており、近く処刑される可能性が高い』
それにしても……彼はやはり彼なのだな――そんな風に思った。
飽きたから婚約破棄、なんて、平気で言えてしまうような人だから。どんな道を歩んでも、俳優として有名になっていても、結局は自分勝手なことしかできない人だったのだ。
◆終わり◆




