表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

完成されつつあるこの世界で

作者: P4rn0s
掲載日:2026/03/26

未完成なままの部屋が、やけに落ち着く日がある。


床に置きっぱなしの段ボール。

畳みきれていない服。

中途半端に開いたままのノートパソコン。


全部が途中で止まっているのに、

その途中が妙にしっくりくる。


昔は、こうじゃなかった気がする。

何かを作るとき、途中なんて見せるものじゃなかった。


完成してからが勝負で、不格好な部分は全部削って、

整えて、均して。

綺麗なところだけを人に見せる。


それが当たり前だった。


けど今は違う。


画面を開けば、いくらでも完成されたものが流れてくる。


音楽も、絵も、文章も、料理も。

少し指を動かせば、上には上が無限にいて。

その頂点みたいなものを、簡単に覗けてしまう。


それが、どうしようもなく厄介だった。


何かを作ろうとするたびに、頭の中にそれらが浮かぶ。


「あれに比べたら」


「これじゃ足りない」


そうやって、自分の手を止める理由ばかりが増えていく。


完璧じゃないものは出すべきじゃない。

そんな考えが、いつの間にか染み付いていた。


だから何も出せなくなる。


何も始められなくなる。


完成していない自分が、恥ずかしく思えてくる。


ある日、部屋の電気をつけたまま床に座っていた。


やることはいくらでもあった。

片付けも、買い物も、連絡も。


けど、そのどれにも手をつけないまま。

ただ明るい部屋で、散らかった景色を見ていた。


ふと、その中に途中のものばかりがあることに気づいた。


読みかけの本。

途中までしか書いていないメモ。

開けたけど使い切っていない調味料。


全部、完成していない。


でも、それらは別に失敗じゃなかった。


むしろ、それぞれにその時の自分がちゃんと残っていた。


読もうと思った瞬間。

書こうとした思考。

作ろうとした気持ち。


どれも未完成だけど、確かに存在していた。


それを見て、少しだけ思った。


もしかして、

未完成ってダメな状態じゃないのかもしれない。


ただの途中なだけで。


そこにはまだ続きがあっていいし。

続きがなくても、それはそれで一つの形なのかもしれない。


完璧なものって、確かに美しい。


でもそれは、誰かが何度も削って、何度もやり直して。

たどり着いた結果でしかない。


そこに至るまでの、不格好な部分は。

全部見えなくなっているだけだ。


もしその途中を全部並べたら。

たぶん、ぐちゃぐちゃで、バラバラで。

とても人に見せられるようなものじゃない。


でも本当は、そこにこそその人の全部がある。


未完成な音。

歪んだ線。

まとまっていない言葉。


それらが重なって、やっと一つになる。


それなのに、途中を飛ばして完成だけを見てしまうから。

自分の未完成が、やけにみすぼらしく見える。


部屋の中を見渡す。


片付いていない。

整っていない。

でも、全部が今の自分だった。


完璧じゃないまま、ここにある。


それでいい気がした。


むしろ、その方がちゃんと生きている感じがした。


綺麗に整えられたものより。

少し崩れているものの方が、温度がある。


形が揃っていない方が、呼吸している感じがする。


電気の白い光が、部屋の隅まで照らしていた。


影になっていた場所が、全部見える。


その中にある不格好さも、全部そのまま浮かび上がる。


でも、もうそれを隠そうとは思わなかった。


未完成なままでいい。


不格好なままでいい。


それは、まだ終わっていないってことだから。


終わっていないものには、続きがある。


そして、その続きは。

きっと完璧じゃなくてもいい。


むしろ、その歪みごと。

味になっていくんだと思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ