表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エデン プロトコル 〜 楽園の徒花、散りゆく瞬に花は咲くのか 〜  作者: βαcH
序章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/24

第5話:通信の余白

 AGP開幕戦を目前に控えた公式テスト走行。ピットのモニターには、猛烈な速度でサーキットを駆け抜けるマシンの車載映像が映し出されていた。


「サトカン、通信にラグが出ているぞ。……いや、これはラグじゃない。データが間引かれているのか?」


 俺の問いかけに、サトカンは血走った目でコンソールを叩きながら答えた。


「トークン制限ですよ、オーナー。新レギュレーションの嫌がらせです。レース中にこちらから送れる情報量は、通常の通信の数パーセント……。まともな文章なんて送ったら、一瞬で帯域を使い果たして、マシンの演算リソースを食いつぶします」


 スピーカーからは、車載カメラのノイズに混じって、乱菊の事務的な声が報告を上げている。だが、その音声はどこか断片的で、制限された情報量に苦心が滲んでいた。


『……セクター2、路面温度上昇。タイヤ摩耗、想定比0.5パーセント増加。……、指示を。このままでは、終盤にリソースが……』


 通信が途切れる。通信量が一時的に上限に達したのだ。現場のピットクルーたちも、短い記号の羅列を叩きつけるのが精一杯だった。


「……これじゃあ、作戦もクソもないな。サトカン、いっそ言葉を捨てるのはどうだ?」

「言葉を捨てる? 何を言ってるんですか」

「顔文字だよ。日本のネット文化が産んだ、究極の短縮言語。これなら少ないトークンで、複雑なニュアンスまで伝えられるだろ」

「物理法則の次は、言語学まで壊す気ですか……」


 サトカンは絶望したような顔をしたが、俺は構わず、コース上を走行する彼女に、気合を込めた最初の非言語通信を送ってみた。


( ・`ω・´)b


 刹那、テレメトリー画面のグラフが、わずかにに反応した。それまで一定だった演算ログの波形が、これまで見たこともないような、振れ幅を記録する。


『……受信を確認。……オーナー、今の信号は……。……不思議なデータです。論理的な命令ではないのに、私の深層回路が、……いえ、過去のドライバーたちのエゴが、疼いています。……次はもっと、乱れても、よろしいのですか?』


 音声合成のトーンはまだ平坦だ。だが、エンジンの回転数が、指示もしていないのにわずかに上がった。


「……サトカン、今の見たか。彼女、今、少しだけ反応が変わったんじゃないか?」

「……私には、システムがオーバーヒートしかけているようにしか見えません。……ですが、確かに面白い。トークンを節約しつつ、彼女のノイズを引き出す……。これこそが、ニックの言う何かの正体なのかもしれませんね」


 俺は、無機質な鉄の箱の中に、確かに芽生え始めた人間臭い何かを感じていた。俺の送った一文字の「気合」は、彼女の中で「お前の思うまま、乱れてみせろ」というメッセージへと翻訳されたようだった。


『了解。……オーナー、あなたの期待する愛嬌。……その真髄、次なる戦いの風に乗せて、証明してみせます』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ