第22話:ジル・ヴィルヌーヴの残像
あらすじ改訂しました。本筋に影響はありません。
毎日投稿とストック有るところまでの一括投稿。どちらがみなさん嬉しいんでしょうか...
モントリオールの空は、透き通るような青に包まれていた。公式アプリのライブ中継が始まると、落ち着いた知的な声がスピーカーから流れる。
「ハロー、世界のモータースポーツファン。実況のマーク・レムケです。今日は特別なゲストをお迎えしています。かつてこの地で奇跡のような逆転劇を演じた『あの御方』に憧れ、自らもステアリングを握る道を選んだ、現役レーサーのニコラス選手です」
「よろしくお願いします、マーク。僕にとってここは、勝手に師匠と仰いでいるあの人の魂が宿る聖地ですから。今日ここで解説ができることを光栄に思います」
ニコラスの声は、師と仰ぐ人物譲りの、穏やかで誠実な響きを持っていた。
「ニコラスさん、実際にここを走った経験から見て、ジル・ヴィルヌーヴの注意点と見どころはどこでしょうか?」
「まずは路面ですね。ここは公園の公道ですから、とにかく滑りやすい。そして何より『壁』です。特に最終シケインの出口。あそこは少しでも欲を出して縁石に乗りすぎれば、瞬時にマシンは鉄屑と化す。人間でもAIでも、試されるのは忍耐ですよ」
実況のマークが、手元のタブレットに視線を落とす。
「現在、予選セッションが進行中ですが、驚くべき光景が広がっています。初戦からみんな学習したのか、以前のような均一なタイムではありません。運営公式AIの予想が、ことごとく外れています。ニコラスさん、実際見ていかがですか?」
「……同じ業界ですからAIの進化については知っていたんですが、思ったより人間くさい感じがしますね。ライン取りや加速のタイミングに、計算以外の意思のようなものを感じます」
予選終了のチェッカーフラッグが振られ、リザルトがモニターに表示される。
「さて、注目選手のリザルトが出ました。前回爆死したモンスターは、中段後方の16番手。そして、エデンの乱菊はまさかの10位。トップ10に食い込んでいます。そして、我らがカナダ出身のジェントルは……」
「……7位、ですか。この順位、そしてタイヤの摩耗を最小限に抑えたあの滑らかな走り。僕の師匠がかつて見せた、あの嵐の前の静けさと重なりますね。非常に不気味なほど、良い位置にいます」
7番手に位置取ったジェントルの走りは、一点の曇りもない白さを保ちながら、静かに決勝の時を待っていた。




