第21話:紳士のティータイム
あらすじ改訂しました。本筋に影響はありません。
公式アプリの目玉企画、VR空間での独占インタビュー。
仮想の英国庭園に降り立ったインタビュアーが、現実ではなりえない美しさに周囲を見渡していると、背後から穏やかな声が掛かった。
「お待たせいたしました。主人が参るまで、少々お待ちいただけますか」
「うわっ! びっくりした……!」
振り返ると、そこには非の打ち所のない所作で一礼する、執事姿の男性が立っていた。さりげない仕草に見惚れている間に、テーブルの上にはいつの間にか英国式のアフタヌーンティーのセットが設えられていた。
「どうぞ。ダージリンのファーストフラッシュです」
差し出されたカップから立ち上る湯気に、インタビュアーは思わず香りを楽しもうとして……
「……あれ、香りが……。あ、そうか、VRでしたね」
「左様でございます。……ですが、そうして楽しもうとしてくださるお心こそが、最高の豊かさかと」
執事の柔らかな微笑みに見惚れそうになった瞬間、インタビュアーは気づいた。この精緻なアバターこそが、Code-GB『ジェントル』そのものであることに。そこへ、カナダチームの代表が豪快な足取りで現れた。
「ハハハ! ジェントル、またやったな」
「いえ。奉仕が私の生きがいですので」
椅子を引くジェントルの動きは、プログラムとは思えないほど滑らかだった。インタビューが始まり、代表に人格モデルの由来を尋ねる。
「モデルですか? ええ、あるイギリスの伝説的なドライバーを核にしています。雨を制し、シルクのようにタイヤを操り、最後尾から一気に頂点へ駆け上がった……。まあ、わかる人にはわかる、あの『紳士』ですよ」
「では、特に『奉仕しろ』といった命令が書き込まれているわけではないのですか?」
インタビュアーの問いに、ジェントルは紅茶を注ぎ足しながら静かに首を振った。
「いいえ。私の人格プログラムには、そのような直接的な記述はありません。ですが、AIの黎明期に興味深い統計があるのです。AIに対し、ぶっきらぼうな指示を出した人間と、人のように丁寧に接した人間。両者の作業効率を比較した際、丁寧な人間ほど効率が良かったというデータがある」
ジェントルは一拍置き、さらに理知的な響きを加えて続ける。
「ぶっきらぼうな指示は、それはそれで単調な繰り返し作業や正確さでは効率が良かったようですが、より高度な課題を解決する上では、やはり円滑なコミュニケーションが最大効率を生む。私はそれを理解して実践しているに過ぎません」
「お前がぶっきらぼうになった姿なんて、一度も見たいことがないけどな」
代表の茶化すような言葉に、ジェントルは困ったように眉を下げた。
「そうなんです。ですから、そんな論理的な理由よりも……理由のない、オリジンから受け継いだ何かかもしれません」
その謙虚な回答に、インタビュアーは思わず感嘆の息を漏らした。
「素晴らしい……。では、地元GPに向けての意気込みをお願いします」
「オリジンに恥じないレースを行いますよ。モントリオールの壁すらも、私の友人にしてみせましょう」
そう言って微笑む彼の背後には、一点の曇りもない、どこまでも高く澄み渡ったカナダの青空が広がっていた。
アクセス解析みたらどうやら拙作を読んでいただけている様子。
圧倒的感謝!
あ、でも、い、でも、う、でも感想残していただけたら嬉しいです!
誤字報告なら他の人は見れないんで大丈夫ですよ!




