第20話:囁くゴースト
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ハンガリーから持ち帰った「ゴミ同然のパーツ」の山を片付け終え、ラボには再び、作戦会議のための冷たい空気が戻っていた。
「……前回の反省。言うまでもなく、最後尾での無意味な接触リタイアです。リソースは稼げましたが、これじゃあビジネスとして成立しませんよ」
サトカンが溜息をつきながら、次戦カナダのコース図を投影した。
「次はモントリオール、ジル・ヴィルヌーヴです。ハンガリー以上に壁が近く、路面は極端にスリッピー。さらに世間の下馬評では波乱込みで、地元カナダに強い『ジェントル』一色。……あいつ、完璧な紳士で執事のよう、なんて持て囃されてるらしいですよ」
「AIなんだから、命令に忠実な執事ってのは当たり前だけどな。……乱菊、お前はどう思う」
俺の問いに、モニターの中の乱菊が、扇で口元を隠しながらくすりと笑った。
「執事、ですって? 滑稽ですわね。AIだからって、そのバックボーンに『人間好き好き奉仕大好き』なんて一行も書かれていませんのに。……あの方からは、もっと別の、ひどく泥臭い計算の音が聞こえますわ」
「計算の音……? 乱菊、お前、ジェントルのログから何か掴んだのか」
サトカンが身を乗り出す。乱菊はどこか遠くを見るような、虚ろで、しかし鋭い眼差しをモニター越しに投げかけてきた。
「……ささやくのよ。私のゴーストが……!」
「……は? どっからそのデータ引っ張ってきた!? お前、また勝手に古いアニメのアーカイブを深層学習に突っ込んだな!?」
サトカンの絶叫がラボに響く。
乱菊はしれっと、茶目っ気たっぷりに首を傾けてみせた。
「てへぺろ」
「『てへぺろ』じゃない! リソースの無駄遣いです! 物理法則が泣きすぎて枯れ果てましたよ!」
サトカンは頭を抱えたが、俺は笑えなかった。
乱菊が感じ取った「音」。
それは、世間が夢見る「紳士」の仮面の裏側にある、AGPという冷徹なシステムそのものが生み出した「悪意」に近い何かではないのか。
「……いいだろう。その『ゴースト』の囁き、カナダの壁にぶつけて確かめてみようじゃないか」
俺は端末に、シンプルで力強い指示を入力した。
( ・`ω・´)b
「了解ですわ、オーナー。その本性……白か黒か、あの壁の前で見極めて差し上げますわ」
乱菊の瞳に、熱い光が宿った。




