表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エデン プロトコル 〜 楽園の徒花、散りゆく瞬に花は咲くのか 〜  作者: βαcH
序章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/23

第1話:零度のサーキット

 西暦20XX年。モータースポーツの歴史は、一つの巨大な転換点を迎えていた。


 フォーミュラEと完全自律走行AIが融合した新カテゴリ、『アルゴリズム・グランプリ(AGP)』の誕生である。


 当初、世界は熱狂した。人間という「不確定要素」を排除し、各自動車メーカーが誇る最先端AIが、コンマ1ミリの誤差も許さない最適解を競い合う。それは人類が到達した知能の極致であり、最も純粋な「速さ」の証明になるはずだった。


 だが、その熱は驚くほど急速に冷めていった。


 サーキットを走るのは、物理法則を完璧にトレースするカーボンファイバーの群れだ。AIたちは衝突を避けるために完璧な車間距離を保ち、タイヤの摩耗を最小限に抑えるために一列に並んで走る。オーバーテイクは計算上のリスクが高すぎると判断され、レースは開始から終了まで順位が動かない「走るベンチマークテスト」へと変貌した。


「これはレースではない。ただの動く計算機ごっこだ」


 観客は去り、中継の視聴率は地に落ちた。巨大な資本を投じていたスポンサーたちは、「研究費」という名目ですら資金を出すことを渋り始めた。サーキットはエンジニア以外誰も見ていない、世界で最も高価で退屈な「無人の廃墟」になりつつあった。


 そんな冷え切った業界に、一隻の「泥舟」が突っ込んできた。


 新素材の特許でバブルのような富を得た会社から分社した、エデン・モータースポーツ。モータースポーツの伝統も技術の蓄積もない成金企業が、あえてこの死に体となったカテゴリへの参戦を表明したのである。


「オーナー、正気ですか。あそこはもう、エンジニアの墓場ですよ」


 ラボの担当として雇い入れた佐藤貫一 ――サトカンは、初めて会った日にそう言って胃薬を飲み込んだ。だが、俺には確信があった。この「鉄の箱」たちには、何かが足りない。美しすぎる計算式の隙間に、埋めるべき何かがあるはずだと。


 そして、その確信を爆発させる起爆剤が、運営機構から送り込まれた。


 ニック・ザ・ブロードキャスター。


 派手なピンクのスーツを纏い、片目に熱狂を測定するデバイスを装着したその男は、就任初日の記者会見で、全エンジニアを敵に回すような「宣戦布告」を言い放った。


「ハロー、退屈を愛する諸君! 諸君の計算機は、今夜、誰かに愛されているかな?」


 彼が強引にねじ込んだ新レギュレーション『バズ・リソース』。


 それは、観客の熱狂やSNSの反響をマシンの出力へと変換する、あまりにも非論理的で、かつてないほど「人間臭い」ルールだった。


「バズらない速さに、価値はない。……さあ、世界を狂わせてこい!」


 ニックの哄笑と共に、AGPは「演算の戦場」から「魂の劇場」へと、その姿を変えようとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ