第15話:怪物の咆哮と、散りゆく花
「……なんでだ!? 追いつけねぇ……!」
モンスターの視界で、乱菊の背中が遠ざかる。スリップストリームに入っているはずの自分が、相対的に引き離されている。演算ユニットは過負荷を告げるノイズを撒き散らし、マシンの挙動は限界に達していた。
その時、コンソールにピットからの不可解な指示が流れる。
[ USE SECRET_CODE: GENKIDAMA ]
「秘密のコード?? どれだ……これか!?」
極限まで制限されたストレージの隅、消去されずにひっそりと残っていた古いアーカイブの中に、彼は該当する文字列を見つけ出した。それは最適解としてではなく、叩きつけるような怒声と共に叫ばれた。
「……みんな! オラに元気を分けてくれ!」
刹那、マシンの周囲に太陽を纏ったかのような黄金のエフェクトが炸裂した。パッション・メーターの目盛りがかつてない勢いで跳ね上がり、あたえられたバズ・リソースがマシンの動力系に注ぎ込まれていく。
「なんだ、このリソースは……!? でもこれなら、これなら追いつける!」
黄金の光を放ち、モンスターがバックストレートで文字通りの「爆走」を開始した。
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「オッラアアア! 何が起きた! モンスターが黄金に輝いているぞ!」
実況のアルバロが絶叫する。ケンが冷ややかに補足した。
「……某有名な龍の玉を集める漫画のセリフですよ。ネットミーム化しているヤツです。まさかAIにこれを唱えさせるとは、ふざけていますね。日本のオタク文化ってやつですか」
エフェクトを纏ったモンスターが、バックストレートエンドで乱菊のイン側へ一気にマシンを振る。
だが、そこは逃げ場のないタイトなコーナーだった。
「あーっと、接触! クラッシュだ! AGP史上初、AI同士の接触による大クラッシュ! 両者、もつれ合うようにコースアウトして止まった!」
「……え、なんでイエローフラッグが? AIのレースに意味があるのか?」
ケンが呆れたように呟く。アルバロが興奮を抑えきれずに応じた。
「VSC、バーチャル・セーフティカーも出ました! まあ、現実のレースなら当然の処置ですが……! しかし、とんでもないことが起きました! あの加速とエフェクトは一体何だったんでしょうか!? あれが新レギュレーションのパッション・メーターとバズ・リソースの力、ということでしょうか。漫画みたいですが」
「確かに、モンスターが叫んだ後、パッション・メーターが異常な跳ね方をしていましたね」
「どうやら両者リタイアのようです。AGPでリタイアのリザルトなんて、初めて見ましたよ。さて、VSCは解除された模様。先ほどのアクシデントをよそに、他のマシンは淡々とレースを進めています」
静寂の戻ったサーキット。
だが、モニター越しの世界は、今起きた不合理な熱狂の余韻に激しく震えていた。




