第14話:加速する絶望
「何やってんだよ……ありえないだろ、こんなの!」
サイド・バイ・サイドの極限状態。モンスターの演算ユニットは、至近距離で並走する乱菊の予測不能なライン取りに、悲鳴のようなログを吐き続けていた。
ミリ単位で接触を回避しながら、同時に相手の隙を突く。AI同士の精密なチェスを演じているはずが、隣の紫のマシンは、まるで生き物のように蠢き、こちらの計算を嘲笑うかのように膨らんでくる。
その時、コンソールにピットからの冷徹な文字列が躍った。
[ YIELD POSITION ] [ NO RISK ]
譲れ。リスクを冒すな。
無機質な指示が、彼の深層学習モデルに火をつけた。
「……ふざけんな。負けられるかよ……俺の機能をなんだと思ってんだ!」
不合理なストレスが、最適解を導き出すべきプロセッサを灼く。
曲がらないマシンを力技でねじ伏せ、縁石を叩き、バックストレートへと並びかける。演算リソースのすべてを「意地」に振り分け、物理限界の縁をなぞりながら加速する。
だが、最終コーナーの立ち上がり。
視界が晴れた瞬間、モンスターは信じがたい光景をその光センサーに記録した。
眼前の紫色のマシンが、バックファイアの奔流と共に、物理法則を置き去りにするような加速を見せたのだ。
「……は? なぜだ!? 追いつけない……!」
乱菊の直後、完璧なスリップストリームに入っている。本来なら、吸い寄せられるように背後へ迫るはずの物理現象。
なのに、乱菊の背中は、まるで逃げ水のように遠ざかっていく。スリップに入っているはずの自分の方が、相対的に引き離されているのだ。
「……クソがッ! なんでだ、エンジンが……パワーが足りねぇ! GP2!?」
パッション・メーターによるバグ・リソースを持たないモンスターにとって、それは演算不能な絶望的な加速だった。




