第13話:虹色の追撃
ハンガロリンクの静寂を、アルバロの絶叫が切り裂いた。
「オッラアア! 見てくれ、アミーゴたち! 19位を走るCode-JP2『モンスター』のペースが上がらない! 昨日の予選で負ったダメージか、それとも演算システムの不調か。前方の隊列からみるみる引き離されていく!」
「データを見る限り、駆動系に致命的な欠陥は見当たらない。……だが、挙動が神経質すぎる。AIがマシンとの対話に失敗しているような、そんな印象を受けますね」
「そこへ背後から迫る紫の影! ピットアウトしたばかりのエデン、乱菊だ! 見ろ、あのリアエンドから噴き出す虹色のバックファイアを!」
「……ゲーミングPCじゃあるまいし、悪ふざけにもほどがありますね」
実業家の皮肉をよそに、乱菊はバズ・リソースによって強制充填された過剰なエネルギーを路面に叩きつけていた。
最終コーナーを旋回し、ホームストレートへ。二台の日本勢が、最下位争いという現状を忘却させるほどの密度で並び立つ。
「サイド・バイ・サイド! 乱菊がイン側から、通常ではあり得ない超レイトブレーキングでねじ込む! モンスターも引かない! すかさずクロスライン! 立ち上がりで再び鼻先を並べた!」
「……さすがですね。生身の人間なら、コンマ数秒の判断ミスで二台揃って廃車になる距離感だ。それをAI同士が、互いのミリ単位の隙間を読み合って、横並びのまま突き進んでいる……」
ケンの冷徹な声にも、隠しきれない高揚が混じる。モニター越しに見守る「物好き」たちによるパッション・メーターが、この最後尾の死闘に反応して激しく明滅していた。
「サイド・バイ・サイドのままバックストレートまで来た! ここで勝負が決まるか! ……ああっ、乱菊が並び掛けずに、あっさりとモンスターの前に出た! そのままスリップストリーム!」
「……おかしいですね。モンスターもフル加速しているはずだ。なのに、なぜか追いつけない。スリップに入っている側が引き離されるなんて、物理演算の常識を無視している。」




