プロローグ:楽園の徒花
初投稿です。よろしくお願いします。
※この物語はフィクションです。
最終ラップ、セクター3。
視界を埋め尽くすのは、先行する漆黒のマシンが撒き散らす熱気と、路面から伝わる狂気じみた振動だけだった。
「……あぁん、しぶといわね、この鉄屑」
通信回線に流れてきたのは、艶やかな女の声だった。
紫のマシンを操る乱菊は、限界を超えたブレーキングで、先行する皇帝の懐へと強引に鼻先をねじ込んでいく。
その時、コンソールにピットからの高負荷データが叩きつけられた。
『 [SEC3_TEMP: HIGH] Σ(゜д゜lll) !! CUT_PWR !! 』
エンジニアからの悲鳴のような指示が、視界を赤く染める。乱菊のマシンが火花を散らしながら、サイド・バイ・サイドの死闘を繰り広げる。観客席からは地鳴りのような歓声が上がり、パッション・メーターの数値が、限界を示すレッドゾーンへ向かって狂ったように跳ね上がっていった。
並びかける。その瞬間、乱菊の笑い声が聞こえた気がした。
「うふふ、ざまぁないわね。……見てる、オーナー? 最高の乱れ咲きでしょう?」
だが、その歓喜は一瞬で凍りついた。
無慈悲なシステム警告が投影される。
『 [RESOURCE: 0%] (ノД`) < SHUTDOWN_SEQ_START > 』
加速が、目に見えて鈍っていく。ド派手に撒き散らしていた桜吹雪のエフェクトが霧散し、エネルギーを使い果たした紫の影は、チェッカーフラッグを目前に、緩やかに失速していった。
「あら……。やりすぎちゃったかしら。……ねえ、オーナー。私、止まっちゃいそう」
声に、わずかな震えが混じる。
俺はピットウォールで、震える指を操作パネルに走らせた。
残された通信リソースは、わずか数トークン。
俺が送り出したのは、祈りにも似た短い信号だった。
『 (;^ω^)b』
「……了解。……やってやるわよ、見てなさい!」
直後、静まり返ったはずのマシンから、魂を削り出すような最後のバックファイアが噴き出した。
観客が、世界が、その「無茶」に絶叫する。
これこそが、俺と彼女が挑む、楽園の徒花の物語。




