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1. 装飾的刻線について

人生初の小説です。

至らぬ点が多々あると思いますので、アドバイスなどくれると超嬉しいです。


言語学者が魔法詠唱を解析する話です。

夜の研究室は静かだ。


三階の資料室に人影があるとは思えない。未解読文字の棚は奥まった場所に押し込まれていて、閲覧履歴もほとんど空欄だ。

俺はその静けさが気に入っている。邪魔されず、思考を巡らせられる。


俺は昔からファンタジーというものに憧れていた。古代文字や謎の遺跡、この世界にはこんなにも心躍るものがあるのかと知ってしまった日から、俺はこの道に進んだのだ。


だが現実の研究は地味なものだ。

浪漫よりも、仮説と反証の積み重ね。

「装飾」と切り捨てられた線の角度を一つずつ測り、配置の偏りを数値化し、意味がないことを証明する作業。今日の内容もそんな作業の繰り返しの一ページに過ぎない...


───はずだった。


机の上には石碑の写真が何枚も広がっている。中央アフリカの砂漠地帯で発見された無名遺跡の石碑群。それに刻まれた文様の記録だ。

一時期は未発見の古代文字だ!と盛り上がり、メディアにも取り上げられたものの、既に流行りは過ぎ、資料は埃を被っていた。

そして、報告書の結論は簡潔だった。


《装飾的刻線。言語的意味は確認できず》。


装飾、か。

……本当にそれだけか?

俺の指先は写真をなぞり、線の角度、交差の仕方、余白の取り方を確かめる。無秩序に見えて、規則性がある。規則があるなら、構造がある。構造があるなら、意味があるのかもしれない。


「いや、飛躍しすぎか……?」

俺は小さくつぶやいた。

それでも、頭の奥では計算と仮説が渦巻く。刻線の繰り返し、少しずつ変化する形。偶然にしては出来すぎている。


視線がある列で止まる。他より不自然に鮮明な列がある。

こうして見ると本当に文字みたいだ。

俺はその列をじっと見る。角、曲がり、線の太さ……整然としている。

もしかすると、ここだけは何か意味があるのかもしれない。いや、きっとある。


俺は目を細める。

線を音価に置き換える仮説を立てる。

鋭角は破裂音か。曲線は母音か。反復は強勢か。

分かっている、馬鹿げている。


だが――整いすぎている。

その時、頭の中で何かが閃く。

頭の中に声が…?いや、違う。

文字の形が、音になった。

意味を理解したわけではない。

ただ、発音の仕方だけが、なぜか分かる。

指先を離し、息を整える。思考は冷静だ。

だが、衝動には逆らえない。


「……????(ブレイガー)…」


声に出ていたことに、少し驚く。

思考する間もなく、口から音が出た。


その瞬間、机の端が赤く光る。理解するより早く、赤い炎が立ち上がった。


「……は?何が…」


熱が頬を打ち、焦げた匂いが鼻を刺す。棚へ火が移り、警報が鳴り始める。

まさか本当に魔法が!?

とか言ってる場合じゃないだろ!まずい…どう考えても火事だ。事故?いや、俺がやったのなら事件になるのでは?


助けを呼ぶ?こんな時間に誰も近くにいやしない、

逃げる?いや、こんなに"魔法のような"現象を目の当たりにして、逃げるなんてそんなのはもったいない!

考えろ、何が起こった?


あの音が引き金だ、発音と同時に、炎が発生した。

それなら、他の文字にも何かあるはずだ。

もしかしたら、意味は分からなくとも、音の規則を追えば効果を再現できるかもしれない。

俺は咳き込みながら、別の列を見た。


また、頭の中に音が浮かぶ。

頭では危険だと理解している。

それでも、試さずにはいられない。


俺は息を吸い込み、再び口を動かす。


「――」


──その時、

光が弾け、空間がねじれ、熱が消える。

警報音が引き伸ばされ、低い唸りに変わる時、足元の感触は消え、身体が宙に浮く感覚に襲われる。

視界いっぱいに石碑の刻線が広がり――


意識が闇に溶けた。

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