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9月の蝉時雨

作者: 汐海つむぎ
掲載日:2026/02/15

里帰りが終わったあの9月のこと。



産後、里帰りが終わった9月。


まだ夏が残っている夕方だった。


何をしても泣き止まなかった。


抱っこしても、立って揺らしても、ミルクでも、オムツでもない。


理由がわからない。

わからないまま、私も泣いた。

正解がわからないまま。


部屋の空気が重くて、

泣き声が壁に跳ね返ってくるようで、

逃げたくて、

逃げたくて、

「ごめんね」

私はつっかけを引っ掛けるように履いて外に出た。


抱っこ紐はまだ大きくて、その中から、息子のまあるいおでこがちょこんと覗いていた。


蝉時雨が降っていた。

夕方で少しだけ風があったけれど、まだ汗ばむ9月だった。


歩き始めると、不思議なことに、泣き声が少しずつ小さくなった。


私は鼻を啜りながら話しかけていた。


「どうしたの」

「ママはここにいるよ」

「大丈夫だよ」


2人分の泣き声と蝉の声が混ざる。


やがて、胸元から小さな寝息が聞こえた。


顔をのぞくと、さっきまで真っ赤だった顔が、静かになっている。


あのときの光景は、多分もう二度と戻らない。


抱っこ紐からちょこんと出た顔も、

必死に泣いていた私も、

9月のあの湿った空気も。



今、目の前で2歳になった息子が昼寝をしている。


少し大きくなった顔。

少しだけ伸びたまつ毛。

けれど、すややかに眠るその顔に、あの日の面影がある。



あの9月の夕方を、

気づけば私はちゃんと歩いてきた。


あのときの私に言いたい。



大丈夫。

今は、少し笑えてる。



そして、

あのとき泣きながら歩いた道は、

ちゃんと今につながっている。


実体験を自分の中で消化するために書き記してみました。

今思い出せばただの日常も、あの時は本当に必死だった。


どこかで誰かの記憶にそっと重なれたら嬉しいです。

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