第8話 キジンは必要とあらば脳内にも直接語りかけてくる ー主人公の異変調査回(弐)ー
やってきました都内某所、明公大学のキャンパス。
え、オープンキャンパスの見学かって?それだったら、どれほどよかっただろうねぇ。
師匠の話によるとこの大学に、件の術者がいるらしい……いや、しらんけども。
『お前では当たりを付けるのも難しいだろうから、術者がいる場所は教えてやる。明日にでもそこへ行くがいい、そこから先は自力で頑張るように』
そう、師匠にはこんな風に言われました……なんか、投げやりじゃないかな!?いや、元々あの人はそういう性格なんだけどさぁ!!
あと謎の包みだけ手渡されて『これだけは念のため持っておけ』とも言われたんだけど、これなんなの?小脇に抱えなきゃいけない程度の大きさがあって、地味に邪魔なんだけど中身は……気になるけども勝手に開けると、面倒そうだから開けたくはない。そもそも開ける場面が来ることを考えたくない、絶対にヤバい場面で使うものだろうし…………はぁ。
しかし、こんなところに蟲の霊の集合体なんているのか?
確かに都会みたいな人が多い場所って幽霊は多いんだけど、血まみれだったり、アレだったりするものの人間が多めだし……まぁ変なのも多少もいるけど、人が多いのも手伝って、その流れに乗ってどっか行ってくれるのが早いので、まぁその点は悪くない。ただ量が多いけども!!と、色々言ったものの、そんな多種多様な霊の中でも蟲集合体なんて見たことはないんだよな。
そもそもなんで大学にいるんだよ、まさか在学して講義を受けているのか?真面目に受講する蟲の霊、勉学への高い向上心を持ちつつ、人間を呪っている……そう考えるとなんか嫌だな。
…………あ、今目の前を一匹だけだけど虫の霊らしきものが!?本当にここに居そう!!
「あれ……ねぇ君」
虫が飛んで行った方向を目で追うと、そこには丁度俺の方を見る女性がいた。
「もしかして和高、和城高校の生徒?」
小柄で可愛らしい雰囲気の彼女の周りを、先程の虫の霊はくるくると飛んでいる、
一瞬ドキッとしたが、たぶん虫を付けられてだけの普通の女子大生だろう。
俺は今、和城高校の制服を着ているからそれで高校が分かったのだろう。ちなみに和高とは、地元なんかで使われている略称であるが……。
「はい、そうです」
「やっぱり!!私、近くの宮前高校出身で見たことあったんだよね、地元が一緒だ~」
そうして女子大生は人の良さそうな笑顔を浮かべてニコニコしている。
まさかのバリバリの地元民!!いや、こんなところで奇遇だな~
「今日はキャンパスの見学に来たのかな、せっかくだから案内してあげようか?」
笑顔だけじゃなくてガチものの良い人だこれ!?
どうしよう、彼女に付けられてる虫も気になるし案内してもらった方がいいか……な。
んんんん??なんだろう急に嫌な気配が段々と近づいて来ているような……。
ゾワリ。
「そうそう私の名前は綾住 未衣子っていうの。アナタは——」
「……綾住さん」
綾住と名乗った彼女に、やや離れた場所から一人の男が呼びかける。どちらかといえば高身長の黒縁眼鏡のすらりとした容姿の男。
「ああ、絹本くん!今私は高校生を案内しているところだったの」
「へぇ、そうだったんだ」
絹本……そう呼ばれた男は、俺の前に立つとニコリと笑った。
こ、コイツだ……嫌な気配の元凶は。
しかしその気配に反して、その周りには虫の霊などいない。ぱっと見で何もない。それが返って不気味だった。
「初めまして、僕は絹本 中也。彼女と同じ文学部の二年生さ」
「あ、はい……どうも」
手を差し出されたため、俺は戸惑いながらもそれを握り返そうとしたが。
——もし触れたら大変なことになるぞ?
そんな師匠の声が頭の中に響いて、俺はすんでのところで手を引っ込めた。
ぶっねぇー!?もはや脳内に直接呼びかけることへのツッコミはしないけど、もっと早く教えてくれよ。
当然「え?」困惑した様子で俺のことを見返す、絹本。
「あ、いや……丁度近くに虫が飛んでるような気がして、思わず……」
と、そこまで言って気付く。もしコイツが本当に蟲使いなら、この回答は悪手だ。余計な警戒をさせてしまうことになるだろうから。
「うん、そっか」
しかし一見、そんなことは気にした素振りもなく彼は更にこう問いかけてきた。
「ところで君の名前は?」
——名前も答えない方がいい。少なくとも本名は、な。
おい、待て、即興で偽名を名乗れと!?な、何か良い名前はあったか……。
「志木、幸人……です」
「ふーん、そっかそっか」
うわぁ不本意にも、普段師匠に呼ばれまくっているシキに引っ張られてしまった……!最悪だ……これじゃあまるで、気に入ってるみたいじゃないか。
「それじゃあよろしくね、幸人くん」
偽名のはずなのにソイツに名前を呼ばれると、それだけで身体に悪寒が走った。
顔に張り付いた人畜無害そうな笑顔と、俺の中で警鐘を鳴らすようにビンビンと感じる嫌な気配。それらの板挟みにどうにかなりそうになりながら、俺は「よろしくお願いいたします」と平静を装った返事をしたのだった。




