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「だいすき」は魔法の言葉

作者: 鰯田鰹節

「だいすき」は魔法の言葉





「だいすき」って言ってもらえると、生きてることに価値が生まれる気がする。





ご縁があり、4歳の女の子にピアノを教えている。


私は公務員なので、副業は出来ない。

だから、無料で教えている。



レッスンは、

指の体操から始まり…


ドレミファソを5本の指で弾いたり…


ドレドレ、レミレミなど、2本の指で高速で弾いてみたり…


カードに書かれた音符を弾いてみたり…


カードに書いてある食べ物の発音と、同じリズムでたいこを叩いたり…

(例えば、「クレープ」なら、「タ・ター・タ」と叩く)


ひらがなの「ど」、「れ」、「み」のどれかをパッと見せて、それに合った音のハーモニーベルをできるだけ早く押したり…


マスカラやカスタネットを使って、ピアノに合わせて踊ったり…


速ければ速く、遅ければ遅く…

音が小さかったら小さく、大きかったら大きく、動いたり、声を出したり、楽器を鳴らしたり…


色んなことをしている。




毎回とても楽しそうで、キャッキャと笑いながらレッスンを受けてくれる。




1回30分。


1年間、続けてきた。


その間に、私と女の子はどんどん仲良くなった。




初めは、指示が通らなかった。


レッスンを放棄して、逃亡する時もあった。


30分集中力が持たず、途中で赤ちゃん返りしてしまう日もあった。

ごっこ遊びが始まってしまう日もあった。


癇癪を起こして、テキストをめちゃくちゃにした日もあった。



でも、私は一度も怒らなかった。




レッスンから逸脱した時は、ピアノを弾いてあげた。

できるだけ綺麗な曲を弾いてあげた。


すると、音につられて、

「これなぁに??(なんの曲?の意味)」

と戻ってきてくれた。





次第に、女の子は私の言うことを聞くようになった。


「〜やってみる?」


と聞くと、元気に、


「うん!」


と答えて、取り組んでくれるようになった。




出来たらたくさん褒めた。


すごい!

えらい!

よくできたね!

がんばったね!

天才だあ!

当たり!

大当たり!

わあ、できたね、びっくりしたよ!


たくさん、たくさん、褒めた。


頭を撫でた。


ほっぺをそっと包んだ。


目を合わせて笑いかけた。


女の子は褒められるたびに、ニコーッと笑った。


そして、何度も頑張るところを見せてくれた。





ある日突然、


「ぴあののせんせいになりたいの!」


と言ってくれた。


先生になりたいのか、

先生みたいな人になりたいのか、

わからなかったけれど、次の週も同じことを言ってくれた…。






レッスンが終わってからは、おやつタイム。


私はいつもチョコやグミなどを買っていってあげた。


たまに、絵本や髪飾り、シールなどもプレゼントした。


女の子はいつも「ありあと!」と舌っ足らずな可愛い声で、恥ずかしそうにお礼を言ってくれた。


最近はハッキリと、「ありがとう!」と言えるようになってきた。






絵本を読んであげると、とても喜んだ。


一緒にお人形遊びをすると、とても喜んだ。


こちょこちょをしてあげると、キャッキャと笑ってものすごく喜んだ。


女の子がいる、その空間、その部屋が丸ごと、幸せそのものに思えた。


それくらい、その子がいると、パアッとその場が明るくなった。








その子のお誕生日には、シルバニアファミリーや可愛いお洋服をあげた。


今回は、クリスマスのプレゼントとして、10個の包みを用意した。


中には…

可愛いお洋服いっぱい(うさぎさんの耳やフリルのついたもの)

お菓子(おまけにシールやネックレスのついているもの)

絵本

みんなで遊べるゲーム何個か

クロミちゃんのぬいぐるみ

子供用ネイル



などなどが入っていた。


包みには、華麗な金の装飾のカードをつけた。

カードに番号を書いておいた。


女の子は10までは数えられる。


だから、1〜10までの数字を書いておいた。







クリスマスイブ。


女の子は、ご家族の都合で、おじいちゃんとふたりで過ごすと聞いていた。


ご家族から、もしよろしければとお願いされたので、イブのパーティーに私も参加することになった。


女の子、おじいちゃん、私の3人のパーティー。


私も参加することは、女の子には秘密にしておいた。

サプライズにしておいたのだ。






当日は、午後はお仕事をお休みし、まずご自宅に向かった。


10個のプレゼントを、リビングに隠した。


宝探しゲームから始まるように仕掛けておいた。





準備を終えて、おじいちゃんと一緒に、女の子の通う保育園にお迎えに行った。


たくさんの子どもちゃんたちがいて、驚いた。


どの子も、

「だれのおむかえにきたの?!」

と話しかけてきてくれた。


答えていたら、女の子が私を見つけた。


おじいちゃんの方に来るかと思ったら、私目掛けて一目散に走ってきた。


「ぴあののせんせい!」

と叫んで笑顔で走ってきた。


そして、私をぎゅうっと抱きしめて、


「ぴあののせんせい、だいすき!!」


と言ってくれた…。




私の周りにわらわらとなぜか子どもたちが集まってきてしまって、一斉に色んなことを話しかけてきてくれた。


女の子は、お友だちに私をとられまいと、急いでお片付けをしていた。


「だいすき!ぴあののせんせ、だいすき!!」


と、ずっと言い続けてた。



たくさんの子どもたち、ひとりひとりにありがとうを言って、頭やほっぺを撫でてあげた。そうして、バイバイをした。








女の子は帰り道、ずっと私の腕の中にいた。


私を抱きしめて離さなかった。



ご自宅に着き、


「リビングに10個、プレゼントが隠れてるよ!

探してごらん!」


と言ったら、歓声をあげて探し出した。



時々ヒントを出しながら…。




あっという間に10個の包みが集まった。


女の子が開封していく。


いちばん気に入ったのは、クロミちゃんぬいぐるみの赤ちゃんお世話セットだった。


お寿司を食べに出かけることになったのだが、クロミちゃんも連れていくという。


いいよ、と言ったら、嬉しそうに微笑んで、ぬいぐるみをまるで赤ちゃんのように優しく抱いた。






お寿司の間もずっとご機嫌だった。


帰宅後は、ケーキを食べた。


ケーキは、あとでご家族で食べられるよう、小さなカップタルトケーキがいっぱい入っているものを用意していた。


タルトの上には、ツリーやサンタ、くつしたやリース、星を模したチョコ菓子が乗せられており、見た目が華やかで可愛かった。


女の子は目を丸くして驚き、喜び、自分の食べるケーキを選んだ。


おじいちゃんのケーキと私のケーキも選んでくれた。


「せんせいは、かわいいの!」

と言って、迷いながらも赤い手袋のチョコの乗ったケーキを渡してくれた。






ケーキの後は、プレゼントしたゲームで3人で遊んだ。


どれも知育ゲームにした。


子どもちゃんも遊べる、ルールは簡単だけど、どんでん返しがあったり、足し算や引き算、数を数えたりするゲーム。


バランスを考えながら積み木するゲームもあげた。


ゲームはどれも大盛り上がり。

なぜか、私は全部最下位で負けた。







女の子が、眠たげに目を擦り始めた。


帰る時間が来たのだ。


タクシーアプリでタクシーを呼んだ。


女の子は、帰らないでと大泣きした。


私がタクシーに乗っても、なお大泣きしていた。


おじいちゃんに抱っこされ、ドアの向こう側で泣きながらバイバイをしてくれた。











「だいすき」






と、口が動いているのがわかった。








タクシーが走り出す。


おじいちゃんと女の子がどんどん小さくなる。






泣かないで、と言いたかった。


でも、子どもには、明日や明後日、また会えるという確信がない。


子どもはいつも不確かな情報や希望や予想の中で生きている。







私は、その女の子がとても愛しい。


本当に可愛いと思う。


ずっと守ってあげたいと思う。

全ての怖いことから。




私は、女の子と関わるようになってから、生きてることが少し楽しくなった。


今週はどんなレッスンにしようかな、どんな楽器を使おうかな、どのお人形持ってこうかな…と、週末のレッスンのために楽しい悩みごとをすることが増えた。



私は、この子のレッスンをすると決めてから、全然体調を崩さなくなった。


酷くなる前にすぐに病院に行くようにしたし、週末のレッスンは自己都合でキャンセルしないように努力した。




私は、この女の子を上級の先生に引き継ぐために、この1年間の中で、リトミックインストラクターの資格を取得した。


リトミックを混ぜながらピアノを習っていたと言えば、話が早いと思った。


また、無資格のちょっとピアノ弾ける人から習ってた、よりも、リトミックの資格を持っている人から習ってたというのの方が、将来的にもその子にとって良いと思った。

それなりの箔が付くと思った。










私は、いつも女の子から、幸せをもらっている。


「ぴあののせんせい、だいすき!!」



私を生かす、魔法の言葉だ。


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― 新着の感想 ―
リトミック楽しいですよね♪ 子供達が小さかった頃を振り返りながら、温かな気持ちで読ませていただきました。レッスンの内容も興味深かったです。 可愛いお子さまとのやり取りにほっこりしつつも、無償なのにそこ…
素敵なタイトルに惹かれて拝読させていただいたら、さらに素敵なお話でした。 もう! もう! もう! 女の子の言動と行動が可愛すぎる~~~! そして何より女の子の存在が作者様の癒やしにもなってらっしゃ…
こんにちは。 なんて素敵な話。 涙ぐんでしまいました。 「大好き」 素敵な言葉ですよね。
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