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竜神  作者: 岡本ゆきえ
8/9

逃亡

[まあ。なんて懐かしい。」

正院は しみじみと城内を見回した。そして石階段を上がると城の中に入った。


「ご家老様はいらっしゃいますか。」

と紀森は 玄関に出て来た侍に言った。

「紀森様。ご家老様はお休みになられていますよ。近頃夢の中に魔物が現われてご家老様を苦しめるそうです。」

「今日はいい人を連れてきた。昔神隠しにお会いになった静姫様だよ。」紀森の言葉に正院は戸惑った。

「えっ。静姫様が戻られたのですか。」

侍は驚いて正院を見た。

「私は城主の娘静姫です。家老はいますか。」

「静姫様。お顔はよく存じています。でもどうして尼様なんかに成られたのですか。」

「その話は今はいたしません。」正院は目から大粒の涙がこぼれた。


「大変だ。静姫様が戻られた。」と侍は大声で触れ回った。

「静姫様。静姫様。」

城内では腰元達が自分の仕事をほうりだして玄関に集まってきた。

「やっぱり姫様でいらっしゃる。」

腰元達は床に手をつけ頭を下げる。

「姫様。間違いなく姫様です。」

「姫様。よく戻られました。」と腰元達の言葉に

「私は生きていましたよ。」

と正院は流れる涙を押さえることができない。

「姫様。お上がりください。」と腰元達は 正院の手を取り上に上がらせた。

「何だか自分の城ではないみたい。」

正院は微笑んでいる。

「紀森。義晴。ありがとう。」正院が言うと紀森と義晴は地に手をついた。

「姫様。お部屋はあの時のままでございます。と紀森は涙を流した。

さて寝耳に水の家老は ふとんから起き上がった。

「ご家老様。静姫様がお戻りになりました。」

と侍がふすま越しに言った。

「なにつ。静姫が戻っただと。殺せば良かった。

家老は大声で言った。家老はまだ若く四十五才だ。

家老は不安になって帰って来た静姫を疎ましく思った。


城に仕える者達は 大変喜んでみんな仕事を置いて正院の回りに集まってきた。みんな泣いていた。

「みなの者。この度は大変辛い思いをさせました。訳あって尼になったのですが父上亡きあと私が城主としてこの国を治めます。みなの者もよろしく。」

城内の者達は手をついて頭下げた。

「家老がいませんね。」と竜神様は辺りを見た。

「はあ。ご家老様ですか」 玄関にでた侍が不思議そうに言った。

側にいた家臣達は 家老が城主を殺し奥方様や静姫である正院を殺そうとしたことを知らない様である。

「ご家老は城主様がいなくなってからやりたい放題。

「静姫様が戻られて城も安泰でしょう。もうご家老の好きには出来間せんから・・・」

一紀森が言うと他の者達も互いに頷き合っていた。

他の者が家老を探したが城内には家老は居なかった。

正院の側には、紀森と義晴が控えていた。家臣達や腰元達は嬉しそうにそれぞれの仕事に戻って行った。

「さては、家老のやつ姫様に死罪を申し渡されるのを恐れて逃げたのでは・・・」義晴は嬉しそうに言った。

「静姫様。家臣に家老を殺させましょう。ご城主様の心を忘れ貴方を殺そうとしたのですから。」

と紀森が正院に促すと正院は目を伏せて言った。

「逃げたのならそのままにしておきます。」

と言う正院の言葉に竜神様は

[何事も起こらなければ]と少し不安な顔をする』


夕方になると腰元達は夕食の膳を運んでくる。

正院は竜神様と夕食の膳を共にすることにした。

鯛の刺身、雉肉の入ったお吸い物、それにご飯、正院は尼なので少しためらった。他には干しワカメが

ったのでそれを食べた。

「竜神様。さっそく民の年貢を軽くしなければ。」

と正院は言った

正院の側には、紀森と義晴が控えていた。家臣達や腰元達は嬉しそうにそれぞれの仕事に戻って行った。

「さては、家老のやつ姫様に死罪を申し渡されるのを恐れて逃げたのでは・・・」義晴は嬉しそうに

言った。

静姫。私は家老がただでにげだすとは思いません。

んでいるのでは」

「そうかも知れません。竜神様。どうぞ私を守ってくださいね。」

と正院は竜神様を見る。にぼう」

「解っていますとも」と竜神様は頷く。

「静姫様。ムジナ達に探らせましょうか」

と竜神様は美味しそうに鯛の刺身を食べた。

「待ってください。城内にムジナ達を呼べば家臣達が驚いて混乱してしまいます。」と正院は慌てて断った。

「そうですね。じゃあ私が城の外へ出て行ってムジナ達に報告させましょう。」と竜神様は微笑んでいた。


夜になった。

竜神様は 森ヘムジナ達に会いに行ってしまった。

正院は城の部屋のふすまを開けて星空を見上げている。

美しい天の川が夜空に一筋かかり星達が広がっている。

[明日は大変。すぐに民を助けてやらなければならない。]

と思いながら星空を見た。

〔竜神様はどこへ行かれたのだろう。」


と正院はふすまを閉じた。昔、自分が使っていた鏡やかんざ

しを手に取った。

〔そうだ。住職様に文を書かなければならない。]

正院は住職様に文を送ることにする。

内容は竜神様に助けられ自分の国に戻ったこと。民が家老に

苦しめられ困っていたこと。自分が尼を辞めて静姫に戻り国を

治めることなどである。

[住職様は何て思われるだろう。]


文を書き終えて筆を置くと正院はため息をついた。


しばらくして竜神様の声がした。

「静姫様。」声がしたので正院がふすまを開けると竜神様が廊下に座っていた。

「ムジナに探させましたところ家老は町ははずれの自分の屋敷に戻っております。家老は悪者を金で雇い静姫を密かに殺そうとしているのです。」

「私を殺すのですって。」正院は静かに目を閉じた。

「家老は悪者達を大層可愛がっていた様です。米のご飯をたくさん食べさせたくさんのお金を与えていたのですよ。では父上を殺したのは・・・」

「そうです。家老が金で雇っている悪者達です。」

と竜神様は言った。

「静姫様。必ず私がお守りします。」こと

と竜神さまは天へ隠れないでそのまま廊下にいることにした。

「竜神様。ありがとう。」正院はそう言って涙を流した。

「私ような者が竜神様に守っていただくとは。」ホ

正院は不安だったが心から嬉しかった。


さて朝になり紀森と義晴が城内に上がった。

正院は昔父上がいた城の庭にいた。父上はもういない。

母上もいない。正院は庭を歩いている。

もちろん側には竜神様がいた。

「家老はどうするつもりなのでしょうか。」

と正院は不安になって竜神様に言った。

「解りませんね。私にも」と竜神様は静かに言った。

正院は紀森と義晴を呼び元の役につかせて国中に年貢を軽くするというおふれを出させた。

そして昨日書いた手紙を使いの者に持たせて返事をもらうようにと住職様の所へ使いを出した。

「今、思ったのですがきっと家老は、静姫様を殺すつもりでしょう。家を取り潰して追い出したいのですが証拠がないのです。」

「家老が事を起せば立派な反逆ではありませんか。事実を暴いて国から追放すればよいのではありませんか。静姫様。」

とこともなげに竜神様は言った。

庭はよく手入れされており杉の木立があった。正院は義晴と杉に登って遊んだ。懐かしい場所である。

庭師が雑草を抜いていた。

城内は活気づき腰元達は廊下を拭きながら戻ってきた静姫のことを話合っていた。城の外では家老が米とお金を民から巻き上げていたので病人や子供達に米が配られ元気な者達は安く米を買っていた。


国中が神隠しにあった静姫が城に戻った話でもちきりだった。

みんな静姫が戻られたと嬉しそうにしている。

民達はなぜ静姫が尼になって戻ったか不思議がっている。

家老は、野菜なども民達から取り上げ他の国で売りそのお金を財政には入れないで自分のお金にしていた。


正院は野菜は収めなくともよいということを義晴に伝えさせそして年貢がはらえず捕らえられている人達を解放した。

町には活気があふれ民達は米のご飯を食べることができた。

そして病人はゆっくり体を休め医者に罹れる様になった。


正院は本から目を離すと

[何時かお米のご飯が食べたいと泣いていた子供もお米のご飯を食べられるようになったのだろうか。」と思った。


腰元が竜神様にお茶と羊羹をだした。

「姫様からのお心すくしでございます。」

と腰元は竜神様に言った。

「これはありがたい。」竜神様は喜んで食べることむにした。

羊羹を食べながら竜神様は 正院の部屋を見ている。

正院はふすまを開けた。

「今、懐かしい本を読んでいるのです。父上が下さった絵草紙です。」正院は竜神様を見て微笑んだ。

使いの者が帰ってきて住職様の手紙をうやうやしく

正院に渡して下がっていく。正院は住職様の手紙を開けた。

住職は正院の決心を心よく思っている。

手紙を読むと仏様の心を忘れない様にと閉めくくられているの

で正院はほっとした。

[静姫としてやるべきことは山ほどある。

と正院は手紙を畳むと大切にしょうと思って漆塗りの文箱にしまった。この文箱も父上が買ってくれた品だった。


さて何日かが無事に過ぎ相変わらず竜神様は身を隠して空で寝ていた。竜神様は 相変わらず家老のことを心配していた。

正院は 広間に家臣を集めて言った」すべるい見天

「私は静姫として国の様子を見たいと思います。しかるべき共の者を連れて行きたいと思います。」

正院は尼のままの姿である。髪の毛が伸びるまで尼のままでいるつもりだ。

家臣達は手をついて頭を下げる。

「私の警備を任せるのは紀森と義晴にします。なるべく目だたない様にこの国のありのままを見てみたいのです。」

と正院が言うと家臣達はふかぶかとまた頭を下げた。

正院は尼の姿のままで紀森と義晴は刀を差して城の外へ 出て行った。

「静姫様。お気をつけください。家老に殺されますよ」

と歩きながら義晴は心配そうに言った。」

「あっ。いや私が守ってみせますが・・・」

義晴が言葉をつまらせたので紀森は 義晴にしっかりしろとばかりに睨みつけた。義晴は紀森を見て首をすくめた。

「あの竜神様はどこにいらっしゃるのでしょうね。」と紀森は言った。

「きっと天から見ているのでしょう。」

と正院は空を少しだけ見た


あっちこっち回っていると町はとても賑やかである。

米が運ばれ人々は みんな明るい顔で行き交っている。百姓達も元気になり田畑で働いていた。

「私はこの国に戻ることができて本当に良かった。これも竜神様のおかげですよ。」と正院は三人に言った。

「これで私達も報われました。今まで民を苦しめる立場だったのですから。」

と義晴は微笑んで百姓達の仕事を見た。







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