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竜神  作者: 岡本ゆきえ
4/9

夢枕

町には野菜を売る者、茶碗を売る者、など店がたくさん並んでいた。

竜神様は珍しそうに見なかせら歩く。正院は微笑ん

だ。

飴売りの店では小さな子供達が飴を買っていた。

「御国はまだなのですか。」と竜神様は きょろきょろとあたりを見回しながら歩いている。

「ここは私の国ではありません。三日も旅をしなければならないのです。ここは幸せですね。」

と正院は しみじみと言った。

「そうですか。三日も歩いて逃げ延びたのですね。」と竜神様は真面目な顔になる。

歩き続けて日も落ちかけたので正院は宿に泊まることにする。

「正院様。私は竜神なので空の上で寝ることにします。」

竜神様はそう言うと消えてしまった。しかたがないので

正院は一人で宿を探した。

宿場町を歩くと古びた玄関に入った。

「おやおや。お客様、お泊りですか。」

と愛想のいいお女中が足を洗う水の入った。桶を持ってきてくれた。。

「尼様だとはお珍しい。」とお女中は言った。

正院は わらじを脱ぐと足を洗った。お女中が手ぬぐいを持ってきてくれた。それで足を拭いた。

[もうつ。竜神様ったら何が空の上で寝ますよっ。」

と正院は足を拭きながら腹を立てた。

[住職さまの言う通り今日は経の勉強をしなくては・・・」 とも思う。

お女中に案内されて二階の部屋に通された。他にもお客がいるらしくざわざわと人の話声がする。

お女中は 行灯の中の灯を灯した。

「尼様。お食事の方は・・・」

とお女中は 相手は尼様なのでそう言った。

「魚や肉は出さないでくださいましこちらは尼なので。」と宿に気を使いながら正院は言った。

「解りました。そのようにします。」

とお女中は下がって行った。

「あっそうか。竜神様はきっと宿代がいるから空の上で寝るなんて言ったのだわ。」と正院はお金を使わせまいとする竜神様の心使いに気ずいたのであった。

まもなく宿のお女中が夕食の膳を運ぶ音がする。お女中は里芋の煮転がしやあ揚げと白菜の炊いたのを膳に乗せて持って来た。正院は経の本を読んでいる。

「後でご飯を持って来ますね。」

お女中は 三十ぐらいの小太りのかわいい人だった。何でもやるらしく手が赤ぎれになっている。

「ありがとうございます。」

と正院は経の本から目を離すと軽く頭を下げた。

「女ひとりでは危のうございますよ。お気をつけてくださいましね。」とお女中は微笑んで下がって行った。しばらくするとご飯を持って来た。

「おそくなりました。」とお女中は言った。

お女中は ご飯を置くと忙しそうに引っ込んで行った。

[もうすぐ。もうすぐ国に帰れる。〕

と正院は 行灯の灯を見つめた。悪臣達は父を殺した。

〔これから国に帰って何になるというのだろう。でも・・・」

と正院は 決心を固めている食事をして経の本を読んでいるとさっきのお女中がふとんを敷きにきた。

「大変ですね。宿の仕事も」

ふとんを敷いているお女中は微笑んだ。

「ゆっくり出来ないのが残念です。」

「ご結婚は・・・」と正院が言うとお女中はふとんを敷く

手を休めず微笑んだ

「子供が二人います。寺小屋に通わせていまです。」と言う。

「それは大変ですね。」

「ええ。近くに住んでいるので何時も会えるのですよ。夫は


碗を売っています。」とお女中は微笑んでいる。

「大変ですわね。」

「でも私達は字が書けないみのですから」

お女中はふとんをきっちりと綺麗に敷き終えた。

「せめて子供達に字を書かせたくて。」

お女中は一礼すると部屋を出て言った。

〔私の国はどうなのだろう。私の国の人達は 幸せなのだろううか」と行灯の灯を見つめている。

〔私の国が幸せだったら私は寺へ帰ろう。でも民が苦しんでいたら竜神様の力を借りよう。」と正院は思っていた。


しばらくして正院は服を着替えふとんの中で横になった。

「ああ。私はいったいどうすれば・・・〕

正院はうとうととし始めた。

夢の中で正院は父が寂しそうな顔をしているのを見た。

「静、どうして尼になったのじゃ。どうして国を取り戻さないのじゃ。」と夢の中で父は言った。

[ああ。父上私に何ができるというのです。私は女。十八才になったばかり]

「おまえは一国の姫ぞ。父の無念は晴れぬ。」


正院は ふとんから起きた。

「父上。父上。なぜ殺されたのです。」

正院の目から無念の涙がこぼれ落ちた。

〔竜神様。力を・・・]


「静姫。」正院がふと見ると若侍姿の竜神様がいた。

「静姫。なぜ泣いているのです。」

正院は思わず竜神様にすがった。

「父上が、父上が夢の中に・・・」


「さぞかし無念だったでしょう。」

と竜神様は優しく正院を抱きしめた。

「竜神の私には出来ないことはないのです。」

正院は竜神様から体を離した。

「私の力を信じてください。静姫様。」

「でも。でも。貴方は地に落とされるのではありませんか。」

「私は人間を殺したりしませんよ。」

と竜神様は微笑んでいる。

「だいじょうぶ。ゆっくり休みなさい。」

と竜神様は正院の体を横たえた。竜神様は微笑むと正院は目を閉じた。


だいぶたったであろうか。

正院が目を覚ますと竜神様の姿は無かった。

チチチチと雀のさえずる声がした。


[もう。朝なのね。」と正院は体を起こした。

竜神様の姿は見えなかったが正院は安心した。

父の無念が夢の中にでたのであろう。

[あれは本当に父上なのかしら・・・」

正院は服を着替えると朝の食事を待った。ふとんを丁寧に畳む゙と引き戸を開けて窓の外を眺める。

朝が早いのか人がまばらだった。正院はふと空を見る。

空は美しい水色であった。

[竜神様はどこにいるのだろう」


空のどこを見ても竜神様の姿は見えなかった。空は雲一つなく晴れ上がっている。

正院は一度竜神様の国に行ってみたくなる。

[竜神様の国はいったいどこにあるのだだろう。どんな所なんだろう] 青空はどこまでも透き通っている。

その空を朝一番に雀達が舞っている。正院は飽きもせずに眺めていた。


しばらくすると他のお客達の声がした。お女中が食事を運ぶ音がする。

(もう少しで私は 自分の国に帰れるのだわ」 と正院は期待と不安でいっぱいになった。




















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