ムジナと盗賊
「なかなか美味しいですね。」
と竜神様が言うと若い団子屋の主人は
「ありがとうございます。」と頭を下げた。
一日がかりで街道を歩きお金も余りなかったので竜神様と正院は街道沿いで眠ることにする。
「竜神様。女の身で野宿は危険ですので守ってもらいたいのですが・・・」正院は少し心配である。
「それでは今日はこのままで正院様の側にいてあげましょう。食べる物もないので何か食べる物を探してきます。」
と竜神様は街道から外れた林の中に入った。
そして川魚やあけびなどを取って来る。
竜神様は 両手いっぱいの魚とあけびを取って来た。籠いっぱいの食べ物である。
「竜神様、その籠はどうしたのですか」
竜神様は籠を下に降ろして言った。
「近くの農家から借りて来たのです。」
「まあ。勝手に」
「いいえ。農家の百姓が気持ち良く貸してくれました。」
「ありがたいのですが。私は尼の身なので魚は食べません。」
「そうですか。それでは魚は籠を借りた百姓にあげることにしましょう。」と竜神様は籠の中からあけびだけを取り出した。
「それでは籠を返してきます。」
と竜神様はまた林の中に入って行った。
心の中で正院は手を合わせて祈りたい気持ちになっている。 武家の姫でありながら悪臣に父を殺され落ち延びた日々。病で母が死に本当に現世で一人になってしまった正院。
どうしていいのか解らず尼になった正院。
[でも。今は竜神様がいてくださる] 正院は祈りたい気持になった。
正院があけびをかじると少し生臭かった。
間もなく竜神様が帰ってきた。
「すみませんね。あけびが少し生臭かった様ですが・・・」
竜神様は申し訳なさそうに言った。」
「竜神様は食べないのですか。」と正院が言うと
「そうですね。私は人間の様に食べ物は口にしませんが少し頂きましょう。」とあけびを口にした。
美味しい」と竜神様は言った。
「魚は籠を貸してくれた百姓にあげました。喜んでいました。よ。」
「そうですか。良かったですね。」と正院は微笑む。
「少し面白くないのでここらへんでムジナを呼びましょうか」
「ムジナを呼んで何をなさるのですか。」
[ムジナってどんな生き物なのかしら・・・]
正院は少し不安になった。
「出て来い。ムジナ達、私は竜神池の竜なるぞ。ここへ来てアケビを食べるがよい。」するとあっちこっちから声がした。
「おやおや。竜神様が美しい姫様を連れておられる。」
「本当だ。竜神様は人間とは結ばれぬ。」
すると竜神様が言った。
「そんなことは知っておる。」
「ははは。竜神様、本当は人間に恋していらっしゃるのであろう。」
「そうだ。そうだ。」
すると赤い光のようなのがあっちこっちから現れた。
「我らは 人間をからかうのが好き。でも竜神様がおっしゃるのならアケビを食べようぞ。」
「間違っても姫をからかってはならぬ。」
と竜神様は ムジナ達を戒めた。
赤い光が地上に降りると白い本当に真っ白い大きなイタチの様な生き物になった。ただ違うところは赤い光が出ているところだった。
[これがムジナ。]正院は少し怖くなる。
「心配しなくても大丈夫。ムジナ達は人間にいたずらはしますが悪事はしません。」
ムジナは イタチよりも大きく大きな犬の様である。それが六匹も出でて来た。
「竜神様は姫様が好きなのでござるな。」
とその中の一匹がいった。
「私が人間だったらな。」と若侍になった竜神は言った。
「しかし、竜神は孤独な運命、竜神は 竜神と結ばれねば成らぬ。」とムジナは言った。
「解っているよ。このまま姫を天に連れていけるのなら。」
竜神様は、しみじみと言った。
正院は アケビを一つずつ六匹のムジナに手渡した。
「ムジナ様、どうぞこれを」
「美しい姫様、ありがとうございます。」
とムジナ達は口々に言った。
「正院様、ムジナ達も不思議な力があるのですよ。話をしなく「ても解るのです。」と竜神様は言った。。
「私はもう姫ではありません。出家して尼になりました。
でももう一度自分のいた国の民の様子を見てみたくて・・」
正院は寂しげにうつむいた。
「姫様。きっと竜神様がまもってくれますよ。」
と犬のようなムジナの一匹が言った。」
「そうです。竜神様は 私達ムジナよりも力があるのです。」ともう一匹のムジナも言った。
正院は竜神様とムジナ達と心いくまでアケビを食べた。そしてその夜は竜神様と六匹のムジナ達と共に眠った。
夜も明ける頃、正院は目が覚めた。六匹のムジナ達はまだ眠っている。正院は竜神様を見た。。
竜神様もまだ眠っていた。正院は若侍になった竜神様をみた。
そしてムジナの一匹を撫ぜてやった。ムジナの毛は柔らかくふんわりとしている。
「かわいいわね。ムジナって] 正院は一匹づつ撫ぜてやった。
朝の食事をするために正院は アケビを取りに行った。大き麻の袋をもちそして林の中に入って木に登りアケビを探す。
なかなかみつからなかった。ふきが生えていたのでそれを取った。もう少し林の中へ入るとアケビがあった。
正院は木に登りたくさんアケビを取って麻の袋に入れた。
元の場所に戻ると竜神様が心配そうにしている。
「アケビを探してきましたよ。」
と正院は微笑んで麻の袋からアケビを取りだした
日はもう昇っている。
「正院様。心配しましたよ。」と竜神様は言った。
ジナ達も起きていた。ムジナ達は、正院にまとわりついた。
「まあまあ」と正院は微笑んでいる。
「とうやらムジナ達は貴方のことが好きになったみたいです。」と竜神様は微笑んだ。
みんなアケビを食べはじめた。
「竜神様。これはふきというものです。」
と正院は取って来たばかりのふきを竜神様に渡した。
竜神様は 少し食べてみて
「少しまずいでござるな」と言うので正院は笑ってしまった。
「それは料理すると美味しいのですよ。味噌や塩で味をつけるのです。」
「私はふきが大好きでござる。」とムジナの一匹が言うので
正院は探して来たふきを六匹のムジナに分けてやった。ムジナ達は ポリポリと音をたてて食べた。
「どうやらムジナ達は 好きな様ですね。竜神様。」
と正院は言った。
「そうですね。私はまずいと思いますが・・・」
と竜神様は苦笑する。
「人間は好んで食べるのですよ栄養があってお金がかからないいのですから。」
「そうですか。私は人間のことはあまり良くわかりません。」
そろそろ夜も明けてきましたもう行きましょうか。」
ムジナ達は じっと正院の顔を見た。
「美しい姫様。もうお別れなのですか。」
とムジナの一匹が言う。
「美しい姫様。お名残おしゅうございます。」
とムジナ達は正院にまとわりついた。
「ムジナさん。貴方の白い毛は ふんわりして柔らかいのね。」
と正院は言った。
「美しい姫様。ありがとうございます。」
とムジナ達は口々に言った。
「さようなら。お姫様。」とムジナ達は口々に言うと赤い光の玉となり林の中に消えて行った。
「私は ムジナを怖いものだと思っていたのですが美しいものなのですね。」
「そうですよ。多少いたずらが過ぎますが美しい生き物ですよ。」と竜神様は微笑んでいる。
正院は とめどもなく竜神様と歩いている。ほそぼそと林を抜けて行った。けれども行けども行けども林の中は抜れず。ただただ林が続くばかり。
「正院様。私が竜の姿になり千里を飛びましょうか。私も歩く
のは疲れました。
「だめです。貴方が竜神様になると他の人達が驚いてしまいま
すよ。」と正院は竜神様を叱った。
「人間は不便な者なのですね。私などは竜神になれば一日千
里飛べるのに・・・」と竜神様は不満そうである。
「私は竜神様がいることで心強いのですがやっぱり自分で旅をしようと思います。」
「それでは正院様。私に竜神池に帰れとおっしゃるのですか。」
「そうではありません。楽をすればいいのですが私は竜神様も少しは人間になって苦労をすればと思っているのです。」
とその時だった。一本の矢が竜神様の足元に刺さった。
[もしや追いはぎでは・・・]
正院はみるみるうちに青ざめたさくびれ人き毛
「我はこの林の追いはぎなり。さっさと金置いて立ち去るもよし。さもなければ矢で頭を打ち抜くぞ。」
竜神様が木の上を見ると一人の大男がいた。しかも林の中から二十人の追いはぎ達がばらばらと出てくる。きっと旅人から物やお金を取っているのであろう。
「我々の弓は一粒の米でも射抜くことができるのじゃ。ますは若侍を殺してやろう。」
と大男は二本目の矢をつがえ竜神様めがけて矢を放つ。
ブスッと鈍い音がして矢が竜神様の胸に刺さった。
「正院どの。これはなんなのですか。」
「追いはぎですよ。泥棒です。」と正院は悲鳴をあげる。
「なんの。これしき。」と竜神様は胸の矢を引き抜いた。
驚いたのは追いはぎ達だった。
大男は 木から飛び下りると目をこすった。
「化け物なのか。矢を射ても死なぬとは。」
二十人の追いはぎ達はみんな腰を抜かした。
「追いはぎ達よ。いい物をやろう。」
二竜神様は 懐に手を入れると金色の竜神のウロコを取りだした。
「私は化け物なのではない。竜神なのだ。人間ども。お金が欲しければこの竜神のウロコを都で売れいい。良いお金になるだろう。」
「なにっ。竜神だと」とさすがは大男である。他の追いはぎ違みたいに腰を抜かさなかった。
「ならここで姿を現せて見せろさもないと尼を殺すぞ。」と大男は矢をつがえ正院の胸を狙う。
「竜神様。どうしましよう。」と正院は青ざめた。
「本当の竜神ならば殺してウロコを剥ぎ取ってやるまでだ。」
「しかたがあるまい。」と若侍になった竜神様の姿が金色に包まれたかと思うとたちまち大きな金色の竜の姿になった。
「追いはぎ達に負ける竜神ではない。」
「今日は竜神が獲物か。本当は生かせて見世物にしたいところだが殺してウロコを全部取ってやろう。都ではもっと高い金になる。」と大男は矢をつがえ竜神様の目を狙っている。
「竜神様あぶない。」とその時正院は大男に体当たりした。
「何をする。」と大男は力まかせに正院を殴った。
正院は顔を押さえて倒れてしまった。
「追いはぎのくせによくも正院様を。」と竜神様は金色の目を光らせた。大男はとっさに正院に刀を向けた。
「竜神よ。俺に殺されるのもよし。何かすればこの足を殺す。」
「竜神様。私などはどうなってもかまいません。どうか生きていてください。」と正院は泣き叫んでいた。
「私は人間なんかに殺されません。」
その時、稲妻が走り大男の刀を撃った。大男は余りの激しい力に刀をとり落とした。
「竜神は人間を殺してはならないという定めなのだ。しかし
正院様、私は正院様の為なら地に落とされてもかまわない。」
男はうずくまっている。
「大男よ。竜のウロコはやろう。その一枚で我慢するがいい。」
「わ、解った。殺さないでくれ。」
大男は 刀を拾うと二十人の手下を連れて逃げていった。
竜神様は 若侍の姿になり正院を助け起こした。
正院はよほど力任せに殴られたらしく顔に青あざが出来ていた。
「竜神様、良かった。本当に良かった。』
正院は若侍になった竜神様に抱きついた。
「正院様、美しい顔にけがを」
竜神様は正院から体を離すと正院を見つめた。そしてそっと正院の顔に手を当てると正院の顔の青あざが消えた。
「不思議ですわ。もう痛くはなくなりました。」
と正院は顔に手を当てた。
「しばらく休んで行きましょう。」
と竜神様は 正院の体を横にした
「水を持ってくるので竹筒はありますか。小心
と竜神様が言ったので正院は身を起こし麻袋の中から竹筒を取り出した。
「これを・・・」正院は 竹筒を竜神様に渡す。
竜神様は 竹筒を受け取ると林の中に消えて行った。
正院は信じられないといった心で体を起こした。麻袋の中から大切な経の本を取りだすと自分は少しも経の勉強をしていないので[住職様に申し分けない。」と思っている。
竜神様が帰って来るまで正院は経の本を読んでいた。
しばらくして竜神様が帰って来た。
「正院様、水を持ってきましたよ。」と竜神様は微笑んでいる。
「もう起きてもいいのですか。。。
と竜神様は、不思議そうな顔をする。
「ええ。もうすっかり」と正院は微笑んでいる。手
竜神様は竹筒のくんだばかりの水を正院に飲ませた。
「正院様、私はだんだんと人間のことが解ってきましたよ。人間には悪い心と良い心の人間がいるっていうことを・・・」
「そうですか。」と正院は静かに言った。
「でも正院様は心も体も美しい人間だ。竜神は水の神だがら人間にひどいことをしてはいけないのです。人間を殺したりすれば竜神は竜神でなくなってしまいます。それが水の神である竜神の一族のおきてなのです。」
一息ついてから竜神様は言った。
「でも。正院様。私は貴方のためなら地に落ちてもかまわない。そんな気がするのです。」
「いけませんわ。竜神様。そんなことをおもうのは・・・。私のようなもののために」と正院はうつむいた。
「さぁ。旅を続けましよう。」
と竜神様は、正院を助け起こした。
しばらく歩いて林を抜けると町に出た。




