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竜神  作者: 岡本ゆきえ
2/9

関所

正院は竜神池に行った。

「竜神様。私は明日、国に帰ろうかと思います。どうか私を守ってください。」と正院が言うと風もないのに竜神池の中がざわめき立った。

正院は(きっと竜神様が解ってくれたのだ)と思った。

(こんなに優しい竜神様を村人達はなぜ恐れるのだろう。)

正院は不思議でしかたがなかったのである。

しばらく池を見ていると優しい竜神様の息づかいが聞こえて くるようだった。

竜神様の化身の若侍は出てこなかったが正院は嬉しくなってしまった。

(竜神様。ありがとうございます。)

と竜神池に向かって手を合わせる。


正院は旅の支度を整えた。着替えの法衣、財布、わらじの変えなど麻袋に入れ背中に背負った

「正院どの。私は何も出来ませぬがどうかお気をつけて。」住職は 深々と頭を下げた。

「住職様。私には竜神様がいるのです。あの竜神池の竜神様がだから住職様ご心配は要りません。」

住職は正直驚きを隠せない。

「正院どの。ムジナではなかったのですか。」

「はい。竜神池の竜神様だそうです。」

「それは心強い。きっと貴方の美しさに竜神様が惚れたのでありましょう。」と住職は微笑んでいる。

「これをもって行きなされ」

と住職は経の本を一つ正院に渡す。

「経の勉強も忘れてはいけませんぞ。」

「はい。住職様。」と正院は有り難く経の本を受け取った。


(竜神様はどうしたのかしら。)と正院は思った。

「どうかされたか。正院どの。」

「い、いえ、竜神さまはいつ来るのかと・・・」

「ここにいますよ。」

二人がふと横を見ると若侍になった竜神様がいた。

「人間と旅をするのは初めてです。」

と竜神様は笑っている。

「竜神様。正院どのを頼みますぞ。」

主職は深々と頭をさげた。

「いやいや。住職様。お礼にはおよびません。私は静姫が哀れに思うのです。姫でありながら国を追われた静姫が。私がもし人間ならば静姫を好きになっていたでしょう。」

と竜神様は少し顔を赤くした。

「それでは住職様。」と正院は住職に頭を下げると

竜神様と歩きだした。

「住職様、姫は必ずまもってみせます。」

そう言って竜神様は手を振った。

(不思議なこともあるものだ。竜神様がお供とは・・・)

と住職はしばらくぼんやりする。

正院は若侍が竜神様とは まだ信じられなかった。

竜神様は 微笑みながら正院の横を歩いている。

「竜神様。私にはまだ貴方が竜神様とは信じられません。」

正院は歩きながら竜神様を見た。

「静姫。私は本当に竜神ですよ。私の力でいつでも静姫を

助けてみせます。」と竜神様は微笑んでいるよる。

「もし助けられたとしても私は尼になったのです。今さらどうしろと・・・もし巧く行ったとしても私は結婚して世継ぎを生むことはできないのです。」

「もし国が取り戻せたら尼なぞ止めてしまえばいいのです。」

「そんなことはできません」

正院は困った様に目を潤ませた。

「さぁ。どうなるかは姫様に任せましょう。」

と若侍になった竜神様は微笑んでいる。

「そんな意地悪を言わないでください。」と正院は、横をむいた。


さて国を出て関所に差し掛かると竜神様はいなくなってしまった。正院が困り果てていると風もないのに木立が揺れた。


しかたがないので正院が関所へ入っていくと険しい顔をした役人がたくさんいた。

正院は怖がりながら役人の前に進み出た。

「手形を出せ。」と険しい顔をした役人が言うと正院は、麻袋

の中から手形を取り出す。

「ふむふむ。この手形は本物だな。」

と役人は しげしげと手形を見る。

「なかなか美しい尼だな。荷物を降ろせ。」

正院は 麻袋を下の役人に渡した。下の役人は正院の麻袋を丁寧に取り出すとしげしげと調べ始めている。

「怪しい物はないでござるな。」と下の役人は言った。

「この女。どうやら本物の尼の様でござる。」

と下の役人は住職がくれた経の本を調べながら言った。

「よし。通れ。」

役人が行ってしまったので正院はしぶしぶ荷物を中に入れ関所を通った。心の中で正院は竜神様を恨んだ。

「竜神様。なぜ助けてくれなかったのですか。険しい顔の役人がいたではありませんか。」

通りすがりの旅人達が驚いて正院の顔を見た。

正院は [他の旅人に気がふれたと思われた」と思ってうつむいていた。

正院が怒りながら歩いて行くと横で竜神様が済まなさそうに眉を寄せている。

「私はどうも人間の役人が嫌いです。それに手形を持ってないし。竜神ともあろうものが役人に調べられるのも腹が立ちます。」と言う。

「そうでしたね。すみませんでした。」正院は頭を下げた。

「謝罪には及びませんよ。」と竜神様の若侍は微笑んでいる。

「人間の世界も住みにくいでござるな。」

と竜神様は 真面目な顔で言うので正院は笑ってしまったのである。


しばらく行くと団子屋があったので正院と竜神様はそこで休むことにした。若い主人が出て来て二人はお茶と団子を頼んだ。竜神様は不思議そうな顔をする。

「人間は変な物を食べるのですね。」

竜神様はがそう言ったので若い団子屋の主人は怪訝な顔をしている。

「お団子ですよ」と正院はうつむいて言う。

若い団子屋は しげしげと竜神様を見る。

〔しまった。きっと変に思われたのだろう。〕

と竜神様はうつむいている。


[竜神様は人間の食べ物をたべなくても生きていけるから・・・」と正院は笑っている。

竜神様は、団子の串を口に入れて食べた。
















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