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ひまわりばっちゃん

作者: おだアール

 ハナちゃんは、きょうもバーバイオンを見かけた。スーパーでママと一緒にレジに並んでいるとき、すぐ前にいたのだ。

 髪は黄色くぼさぼさで、目はぎょろり、口はいつもへの字に曲げて何かに怒ってるみたい。そう、ライオンそっくり。だから幼稚園では「バーバイオン」と呼ばれているのだ。

「袋は、いりますか。」

 レジの店員さんの問いかけに、バーバイオンは、むすっとした顔のまま首を横に振る。お金を出すときも無言、おつりをもらうときも。

 おつりを財布に入れようとしたとき、小銭がコロコロッと床に落ちた。ハナちゃんが拾って差し出すと、バーバイオンはギロッとハナちゃんをにらんだあと、小銭を受け取ってぷいっと背を向けたのだ。本当のライオンににらまれたみたい。

 ハナちゃんは身動きひとつできず、へなへなとしゃがみこんでしまった。


 春の暖かい日、友だちとひょうたん池のほとりで遊んでいたときのこと。だれかの家の庭に、チューリップが何本も咲いているのを、ハナちゃんが見つけた。

「たけしくん、ほら見て、とってもきれい。」

 赤いの、白いの、黄色いの、ピンクや紫のもあった。

「ねっ、ちょっとだけ入ってみようよ。」

「いいの?」

「いいって、いいって。ちょっとだけだから。」

「ごめんくださーい。」


 そのときだ。

「入ってくんじゃねえ! 出ていけ!」

 と、すごいどなり声。

 びくっとした。声の方を見ると、バーバイオンが鬼のような形相で、ハナちゃんたちをにらんでいた。なんと、ここはバーバイオンの家だったのだ。

 ハナちゃんたちは一目散で逃げ出した。

 走った、走った、走った。でも、ハナちゃん、途中でつまづいちゃった。

 くつが片方ぬげた。池の方に転がっていく。

 コロコロ、コロッ、そして、ポチャッと池に落ちた。

「あーっ、くつが!」

「ハナちゃん、あきらめなって! バーバイオンのやつ、こっち、追いかけてきてるぞ。つかまっちゃうぞ!」

 ハナちゃんは、急いで家に逃げ帰ったのでした。

 くつのことをママに聞かれて、池に落としちゃったことだけは言ったけど、バーバイオンちに行ったことは言えなかった。ママにも怒られそうな気がしたから。


 三日ほどたった日のこと。ハナちゃんが家にいると、ママがおどろいた様子で玄関から入ってきた。

「玄関先に、このくつ、置いてあったのよ。これ、ハナちゃんのでしょ。この前、池に落としちゃったって言ってたの。だれかしら、きれいに洗って乾かしてくれてるわ。」

 えっ? 届けてくれたとしたら、バーバイオンしかいない。バーバイオンって、ひょっとして親切な人?

「あらっ、くつにお手紙も入ってる。ええっと、なになに。『この間は、ごめんね。また、お花、見においで。』だって。」


 次の日、ハナちゃんはバーバイオンの家に行った。もう一度チューリップを見たかったし、くつのお礼もしなきゃいけないし、なによりも、バーバイオンとお話をしてみたかったから。

 恐る恐る庭先からのぞくと、バーバイオンも気がついて庭に出てきた。バーバイオンは小さい犬を抱いていた。

「この前は、そこのくぼみで、ちょうど母犬が子犬を産んだところだったの。人が近づかないほうがいいでしょ。だから思わず、大声出しちゃったの。ごめんね。この子犬、とってもかわいいでしょ。抱いてみる?」

 ハナちゃんに抱かれて、子犬は「クーン。」と小さくないた。とても軽くて、ちょっと温かくて、ふかふかしていた。

 ハナちゃんとバーバイオンは、チューリップの前でいっぱい話をした。バーバイオンは、とても優しい顔をしていた。目は細いし、口もいつものへの字じゃないし。ぼさぼさの黄色い髪もライオンには見えない。まるで、ひまわりの花。

 そうだ、バーバイオンはバーバイオンじゃない。

「ひまわりばっちゃん。」

 これからはそう呼ぼう。ハナちゃんはそう思った。


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