二章〔8〕【脳への侵入《ブレインダイブ》】
心は泡のよう 。
たくさんの泡が浮かんでいた 。
それは牛 。
少し体調は良くなかった 。
それでも友との日々は幸せだった 。
あれは星 。
生まれた意味を探していた 。
自分は誰なんだと常に問いかけていた 。
これはミノタウロス 。
自由を求め恐怖と闘った 。
最後は光に救われた 。
彼の中には無数の魂があった。
それは普通では考えられないことだった。
大きな泡の中に無数の小さな泡が泳いでいた。
とても綺麗だった。
中心には赤い大きな泡があった。
入ろうとしても拒まれて、仕方なくその星の周りを流れる泡に入った__
「オギャぁぁ」泣きじゃくる赤子が見えた。
ふわりと漂い彼を眺めていると、世界の違和感に気づいた。
見たことのない四角いからくりのようなもの。
部屋は神殿のように白く透き通っている。
「天海、今回は無事に生まれたな。流星と同じ誕生日か、まるで生まれ変わりみたいだな」
「きっと、私達を守ってくれたのよ、流星は」
「お話中悪いのですが、少し、お子さんの心拍の状態が不安定に見えるので、念のため検査いたしますね」
「え、分かりました」
白い服の女性は赤子を抱くと、透明な箱のようなものの中に入れ、紙のような物を頭等に貼っていった。少しずつ、赤子の呼吸が速くなっていった気がする。
目を覚ますと、森の中にいた。
「ンッシシ! 見ろ朝日! デカいクワガタじゃ!」
「すっげぇ! じっちゃん凄い!」
目の前には気持ちの悪い黒い生物、そして見たことのある年寄りがいた。
再び場面が変わり、
「朝日、これは流星お兄ちゃんへプレゼントするための土人形なの。上手にお顔書いてあげてね」
「お兄ちゃん? いないよ?」
「あなたが生まれる前に、流れ星になっちゃったの」
そして、何度も場面が移り変わり、
〈キキーッ〉と大きな音がなり、体が吹き飛ばされた。
気づいたら洞窟の中。
そして、
「んぇ、? 大丈夫!?」
と駆け寄る彼女はチアキだ。
意味がわからない。一度死んで、全く違う世界にいる。
その後、炎に焼かれ、牛になり、ミノタウロスになり、
意識がぱっと戻ってきた。
「アサヒ」
目の前にいる彼になんと声をかけたらいいのだろう。
「アリスどう? アサヒは嘘をついていない?」
「嘘をついている。ずっと、自分自身に」
「どういうこと?」
「彼は何度も死んで、辛いはずなのに、ずっと笑顔でいようとしている。周りに助けを求めずに一人で何とかしようとして、壊れてしまうよ」
「そう、ならここにいる間、彼を支えてあげて。あと、ゆっくり休みな。無理はしちゃだめよアリス」
「分かりました。お疲れ様ですフユミ様」
「うん、お疲れ」とフユミは部屋から出ていった。
フユミはとても優しい。私を救って、騎士隊に入れてくれたのも彼女だ。私は聖戦孤児だ。物心ついたときには親はいなかった。
私は廃墟群ウィザスで育った。死んだ魔物か人かも分からない肉を食べ、泥水をすすり生きていた。ある日ガラナツ・ブレードと名乗る男たちが街を訪れた。彼らは私たちに食事を渡し、保護していった。
それはまるで英雄だった。周りは彼らを信頼していたが私は怖かった。男は皆、女、子どもを襲う。それがここではよくあることだった。
逃げる私に救いの手を差し伸べてきたのがフユミ・オーディナルだった。彼女は私の手を握ると、「大丈夫だよ」と何度も声をかけてくれた。その時だった、私のスキルが目覚めたのは。
【脳への侵入】
私しか使えない固有のスキルだ。接触した相手の脳の中に侵入し記憶を見たり、相手を操作することができる。そのかわり入ってくる情報は私の細胞にダメージを与える。
溢れるほどの記憶は私の脳の限界を超えいずれ私は死ぬだろう。
ただ、死ぬまでの間は助けてくれたフユミのために生きたい。
それと、今目の前にいる彼の助けになりたい。彼は私にしか助けられない。私しか彼のことを理解してあげれない。私は彼のことを理解できる。私は目の前にいる彼がとても愛おしい。彼は私にとって物凄い刺激になった。私は彼みたいな人間を知らない。彼は私の知らない世界を見せてくれる。私は彼みたいになりたい。彼は私が必要だ。私と彼は一心同体。彼は私が守らないといけない。彼がここにいる間、私は彼を守らないといけない。
フユミに頼まれたから、大丈夫。これは私の欲ではなくて、騎士隊としての役目。
彼が目を覚ましたら、なんて声をかけよう。
彼に嫌われてないだろうか。
目の前にいる彼をじっと眺める。
愛おしい。
何故だろう。こんなに彼を気にしてしまっているのは。
私は彼の記憶を見て、彼に覆われてしまった。
私も既に彼に魂を喰われているのかもしれない。
私は彼になりたい。
それは孤独に生き、自分を探し、自由を求めた女だった。
彼女はアリス。
窓から差す夕日は彼女を照らしていた。




