二章〔2〕森からの出発
「話はできたか?」
「うん。できたよ。ありがとう」
〈とよぉ、はじめましてとよ〉
〈フンス! よろしくす!〉
トヨの助の挨拶に威勢よく答えるのは一番というタグがついた牛だ。
「ラヴィル、この牛は?」
「こいつか? うちの牧場で最速、牛-1GPでも一番を取った牛だ! 今回はこの牛と、その乳牛の二頭に牛車を引いてもらおうと思ってな」
「なるほど、その何とかグランプリってのはよく分からないけど、とにかくここで一番速いってことか」
〈フンス! フンス! フンフン!〉
この牛うるさい。元気が良すぎる。
〈フンス! これが噂のミノタウロスか! いかついな!〉
フンスってなんやねん。牛ってみんなこんな感じなのだろうか。
「元気だろ、こいつ」
あのラヴィルですらちょい引く程の元気だ。
「とりあえずいくぞ、あっちに牛車がある」
ラヴィルはそう言うと、2頭の牛の紐を引っ張り牛車の方に向かった。
「すげぇ、めちゃでかいな」
牛車は思っていたよりデカかった。バス2台くらいのサイズだ。
装飾はほとんどなくシンプルな木箱のような感じだ。
移動特化という感じだろう。
トヨの助達の方を見ると牛車に紐を括り付けられている。
「あん? お前も引くか?」
「俺は乗る方で頼むよ」
牛達は牛で楽しそうに話している。
〈フンス! テンション上がるな! なぁ、2363番!〉
〈番号で呼ばないでとよ! トヨの助って呼ぶとよ!〉
〈フンス! 分かった! 名前ついてるの羨ましいな! 俺も名前欲しいな!〉
〈アサヒがつけてくれたとよ! そこのミノタウロスとよ!〉
〈フンス! 分かった! そこのミノタウロス! 俺に名をつけろ!〉
急にこちらに話が飛んできたことに驚いた。
こちらに名をつけろと言ってきたのは先程の一番と呼ばれた牛だ。
〈急に言われてもむずいぞ〉
フンス、フンス言ってるからフンの助、?
一番足速いらしいから、足早太郎?
色が茶色いから、チャーシュー?
相変わらずだが、自分にネーミングセンスが絶望的にない。
なんかぱっと、いい感じのをつけてあげたいのだが、
「おまえ、定期的に牛と話すよな。こいつらの言葉わかるの少し羨ましいな」
横からラヴィルが話しかけてきた。
名前考えてる時に話しかけられると少し混乱する。
「牛と話せても、疲れるだけだぜ。こいつら割とうるさいんだぞ」
「アタシは牧場主だからな、こいつらが生きてる間はせめて幸せに過ごさせてやりたいんだよ」
やっぱ、見た目によらず優しいんだよなと思ったが、幸せに過ごさせるとか言いつつ、前俺のことをぶん殴って殺してきた気がする。
気のせいか。
「なぁラヴィル。この茶色の牛に名前つけるとしたらなんてつける?」
「牛一号だな! 名前なんて覚えてらんねぇからな。番号のほうが簡単だろ」
「ありがとう。分かった」
〈一番、お前の名前は牛一号だ!〉
〈フンス、〉
流石に、少し適当すぎたか。下を向いて俯いている。
〈もぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!〉
「あん、? どした?」
〈とよ!?〉
「なに!? どした!!」
急に叫んだ牛一号にみんなビビる。
〈フンス! 牛一号か! 嬉しいぞ! ありがとう! ミノタウロス!〉
めちゃくちゃ喜んでくれてる。
あんな適当な、名前でも。
「ラヴィル。この牛は牛一号って呼んでやってくれ。結構喜んでるぞ」
「あん、?」とラヴィルは少し戸惑いつつも、「分かった」とラヴィルは答えた。
人妻には興味がないが照れてるラヴィルはとても可愛らしかった。
これがギャップ萌えと言うやつなんだろう。
〈感謝するならラヴィルにしろよ! 牛一号!〉
〈フンス!〉そう言いながら牛一号はラヴィルに近づき体を擦り寄せた。
「意外と可愛いだろ牛ってよ」
「そうだな」
「そろそろ行くぞ! 早く行かないと明日の夜になっちまう」
「わかった! いくぞ!」
〈〈もぉぉ!!〉〉
2頭の牛により牛車が走り出した。
牛一号の方はかなり速く走っている。
しかし、トヨの助は、
〈ちょっと早いとよ!〉
〈フンス! 頑張れ! まだ始まったばかりだぞ!〉
分かってはいたが乳牛は走るのには向いていない。
それでも頑張っている姿をみると何だが胸が熱くなる。
頑張れトヨの助。
横にいるラヴィルを見るとすやすやと寝ている。
ラヴィルしか道分からないのに大丈夫なのだろうか。
半日ぐらいで着くと言っていたが、ほんとにこっちであっているのだろうか。
森を抜けてからはずっと砂漠地帯だ。
先が見えない。
ただ、ラヴィルはあっちの方に走ってけとしか牛達に言っていない。
〈お前ら大丈夫かー?〉
〈しんどいとよ、アサヒ交代してとよ〉
〈フンス! 余裕だぞ! もっとスピード出せるぞ!〉
〈死ぬとよ。無理とよ。やめてとよ〉
〈良かった。頑張れよ!〉
大変そうだな。まぁ元気そうではあるのでよしとしよう。
外を眺めてもずっと同じ景色。ちょっと飽きてくる。
モンスターも何もいない。
こんだけ広い砂漠に何もいないことなんてあるのだろうか?
平和すぎる。
ただ、一つ心当たりがある。
隣りにいるラヴィルの存在だ。
周りに殺気をばら撒く、本物の化け物。
たぶん。虫よけスプレー的な感じになってるのだろう。
なんだか、眠くなってきた。少し寝よう。
ラヴィルと和解してからずっと寝てない。
起きたらきっと着いてるだろう。
そうして、眠りについた。
起きたのは外から叫び声が聞こえた時だった____
「まって! そこの牛のくるまのやつ!」
見るからに幼稚園児くらいの男の子が牛車の前に立ちふさがる。
「アルカードあんまり突っ込むなよ。落ち着けよ。一旦落ち着けよ。ほんとに、落ち着いてくれよ。変なことするなよ。ほんとに落ち着いてくれよ。危ないよ。ほんとに落ち着いてくれよ」
ムキムキの男が先ほどの子供の肩を抑え、もじもじしながらこちらに来ないよう止めている。
周りを見ると他にも大きな盾を持った鎧の騎士や、金髪のちゃらそうな男等がいる。
今、自分たちの牛車は10名ほどの見たことのある白い服を着た人達に囲まれている。
どうしてこんなことに、




