一章〔27〕牛の形をしたもの
「アサヒって呼べばいいかってよ」
「うん」とアサヒは頷いた。
暗く狭い木々の間を抜け、洞窟を目指す。この森は決まったルートでなければ洞窟にはたどり着けない。
なぜなら、ここの森、いやこの砂漠が渦のように空間が歪んでいるからだ。
ギガネイラの話によると、昔あった天冥の戦いにより洞窟を中心にして空間が歪んだらしい。天冥の戦いとはその名の通り、天王星ウラヌス、冥王星プルートの衝突だ。
天ヲ制スルモノ 冥ヲ制スルモノ
衝突セシ刻 歪厶 世界
力ノ消失 新タナル 希望ノ流星 出現
これは本に残されているものの一部だがこの世界史上一番大きな戦いだったらしい。もともとここは砂漠ではなく森や草原だった。
それをすべて無に返したのだ。
昔と言っても20年前らしい。まぁ、俺に関係のある話ではないが。
考え事をしながら歩いていると大きな木が見えてきた。
〈あの木でっけえな!なんだあれ!〉
「あの木はギガネイラだってよ」
〈ギガネイラって龍じゃなかったっけ?〉
「龍なんだけどな、普段は木なんだよ」
アサヒは首を傾げ口端からよだれをこぼす。
〈どゆこと?あれが、龍?え?木やん〉
「あれは、木の形をした巨大な龍なんだってよ!」
確かに見た目は巨大な木だ。最初は俺も木だと思っていた。あの日、眠りから覚めたとき、見えたのは黄色い明かりではなく大きな黄色の瞳だった。
〈なんか、ファンタジーだな〉
アサヒはたまによくわからない言葉を使う。俺には理解できない。
「お前は人間なのかってよ?」
自分でも意味はわからないことを聞いてる気がする。こいつは牛だ。でも、今まで接してきた感じは人間だ。
俺はジョーカー以外の人間を知らない。ラヴィルは恐らく人間ではなく亜人だろう。
〈あ、そういや言ってなかったな。そうだよ俺は人間だ。〉
やっぱりだ。こいつは人間なんだ。
こいつは牛の形をした人間なんだ。




