一章〔24〕守るための守れない力
「同族の匂いしたから来たのだが、なんだってよ」
本当によく分からない。目の前の状況が飲み込めない。ツンと刺すような激臭。そして、大きな半球型の穴。深さは20メートルはあるだろう。その中に2頭のゲ◯まみれの獣。牛と、ライオンコングだ。牛の方は個体識別番号が見えないため、知り合いかどうかが分からない。ただ乳牛であるため同じ2000番代の牛だろう。
二頭とも気絶しているが、死んではいなさそうだ。体がピクピクと動いてる。死後硬直の可能性もあるが、イビキ声のような音が反響して聞こえる。まぁ、生きてるだろう。
〈おい!大丈夫かってよ!!〉
返事はない。
呼びかけただけで起きてくれたら楽だったが、仕方ない。降りよう。そうして、足元を見たとき地面に違和感を覚えた。
明らかに足元の砂はサラサラしており、かなり滑る。さらに、驚くほど滑らかな曲面。降りたら上がってこれないだろう。
「罠か?」と独り言を呟きつつ考える。
この世界にはアリジゴクという昆虫がいる。穴の底に落ちたものを捕らえて捕食する生物だ。今目の前には同じ牧場から来たと思われる牛がいる。
これを見て飛び込んだライオンキングが落下し今の状況にあるのではないだろうか。
だとしたらこの罠を作ったのはラヴィルかジョーカーだろう。だが、森の契約により、正当な理由なく牧場外で魔物に攻撃するのは禁止されている。
他に可能性があるとしたら。森外からきた新たな魔物だろう。森の外は大きな砂漠がある。そこにいるアリジゴク系のモンスターがここで罠を作ったのではないだろうか。
ただこれにもおかしいところがある。なぜ、牧場の牛が穴の底にいるのかだ。そもそも、ラヴィルの監視がある。抜け出すには夕方から夜のジョーカーの監視している時間帯しか無理だろう。それが分かっていたとしても、ここまで辿り着くのは至難の業だ。
柵を越えたとして、大量の高ランクモンスターが住まうこの森。Eランクの生き物は格好の獲物だ。たくさんのモンスターに襲われ即座に捕食されるはずだ。
ライオンコングが穴にいる牛を見つけ落下したとしても、その後どうなるかを考えずにその場で捕食するはずだ。アリジゴクの場合も穴に牛が入った時点で捕食するはずだ。
基本的に獣系のモンスターは自我を持たない。だから本能のままに喰らうはずだ。それなのに、牛の体は無傷だ。むしろライオンコングのほうが怪我をしている。
ライオンコングはSランクだ。気絶させることすら普通のモンスターでは難しい。
SSランク以上のモンスターがやったとしても一体何の目的がある。縄張り争いだとしても、とどめを確実に刺すはずだ。
可能性はかなり低いが、もし、この牛がライオンコングを倒していたとしたら、
「さすがに、それはないってよ。バカでもわかるってよ」
ちょ、待てよ、目を細め傷の跡をよく見てみる。まるで、角に刺されたかのような跡。
さらに、嘔吐物はライオンコングの上からかかっている。先に牛が気絶していたとしたらおかしい。この嘔吐物は牧場の餌が入っている。100%牛のものだ。
〈ガサッ〉と音がした。咄嗟に森の木々に隠れる。
〈くせぇ!穴?デカくね!これが、俺の星の力〉
牛が起きた。
〈さすが、異世界って感じだな。魔法より強いんじゃねぇか、これ〉
なにか独り言を言っているようだ。あまりよく聞き取れなかったが、星の力という単語は聞き取れた。
星の力でピンとくるのはスターランクの存在だ。でも、明らかにあの牛がスターランクには見えない。そもそもどうやって星を倒したんだ。牧場内に星が来たとしたら、ラヴィルが速攻で倒すはずだ。
ただ確かに、あの牛が星の力を持っていたとしたら納得がいく。
ライオンコングを倒し、大穴をあの牛が開けた。かなり馬鹿げているが、星の力を持っていたとしたらできなくもないだろう。
実際に俺は星の力をみたことはないが、ギガネイラに聞いた話だと、魔法やスキルを超越するほどの大きな力らしい。
〈出れないなこれ、〉
こいつ独り言多くないか?あと、そんな大きな声だとライオンコング起きるだろと思いつつも、さっき自分も大声で叫んでいたなと思い反省する。
木々の中だど状況が分かりづらい。様子を確認するため少しだけ覗き込む。そして、
〈誰かわからないけど、そこにいる人助けてください!〉
不幸にも目が合ってしまった。あまり見つかりたくはなかったが。
相手の目を見た瞬間震えが止まらない。相手はただの牛だ。
でも怖い。得体のしれないこの牛が。
Eランクで、Sランクを相手どり、無傷で生還している。
そして、もう一度顔をみたとき気づいたのだ。
この牛が2364番だと。




